たまのうち~大和男子くらタマの素敵なダンジョン~

東坂臨里

文字の大きさ
上 下
18 / 66
いらっしゃいませジャングルへ

いらっしゃいませジャングルへ 7

しおりを挟む


「しかし、いつの間にか翠星すいせいまで視界から消えてるんだけど?」

 タオルの海でごろごろうごうごしているちいたまに目尻を下げながら卵サンドを食べていた寿尚すなおは、一息吐いてからふと気付くと想定内のかけるはともかく翠星まで姿が見えないのに気が付いた。
 すると、モソモソとスープでカツサンドを流し込んでいる詠が「奥側から三見塚みみづかが声をかけていたが」と、今さらの目撃情報を口にするので、「いや、そこで止めなよ」と寿尚ともあろうものが思わず素でツッコミを入れてしまった。

「きっとお昼休みくらいの感覚なんだよ。もう少し待てば戻って来るんじゃない、かな?」

 二人をフォローする玉生たまおは、自分で選んで買って来たサンドセットなのに半分も食べられずにもう限界だった。
情報を教えてくれたバイト先の同僚はたしかに「学生向けでボリューム満点だぜ」と言っていたが、自分の分だけでも単品にするんだったと少し後悔してしまうのだった。
 そんな会話をする頃には、寿尚もすっかりいつものペースに戻っていた。

「縁側と猫、至福だね」

 縁側に腰を下ろした寿尚が、またうとうとしてもう目が開けないらしいちいたまを緩く撫でていると、デザートのフルーツサンドまで食べ終わったよみがゴミをまとめながら、先ほどから視線を向けていた家の材質に興味があるらしくじっくりと観察しだした。
夢中になると寝食を忘れるタイプではあるが玉生のように少食というわけでもなく、運動神経が鈍いというわけでもないらしい詠は、案外と周りが思うよりも学者としてはアウトドアタイプであるのかもしれない。

「この枠は木目だけど、木目サッシか樹脂サッシ? 玄関の吹き抜けといい、玉生の叔父はこだわり派」

 マイペースに家のチェックを続ける詠の言葉に、興味を掻き立てられた玉生もスニーカーを脱いで縁側に上がった。
詠の隣から覗き込み、何気なくサッシに右手を掛けると……

「あ、開いた」

 玉生がそのままサッシを右に押し開くと、微かにカララ……と音を立てて開いていく。

「ちょっとたま、そこから入ったら玄関の方が後回しになって締まらないだろう。どうせのんびりペースになっているんだから、そこは内側からぐるっと順に回ろう」

 小さくピクピクと動くちいたまの耳の先に気を取られながらも、しっかりとこちらに釘を刺してくる寿尚にビクッとなった玉生は、チラリと見えた畳にたしかにここに入ると動くのが億劫になりそうな危険性に「だね、はーい」と踏み出した足を戻した。
詠の方は相変わらずマイペースに今度はサッシの作りに気が行っているようだ。

「引き分け? いや、外側も動くから引き違い――あ! 戸袋があるから引き込み戸だ」

 見れば左側のサッシが全て消えていて「ここ」と詠の示す場所に収納されているらしいのが分かるのだった。
縁側の向こうは正面だけに4枚の障子が並んでいて、床に敷かれた畳はそこのわずかに開いた隙間から見えているのだ。

「あ、この部分が小さい障子になっているって事は、これがそこだけ開くという猫間障子」
「猫ってにゃんこ?」

 確かに指差す先は障子の桟が二重になっている部分があって、内側の枠だけスライドできそうだ。

「そう、にゃんこの間。なるほど、雪見障子のガラス部分の小障子を左右にって実際はこうか」

 ふんふん頷きながら「ちなみに開いた所から猫が出入りするとか」と由来の情報も追加した。

「ハハ、ちいたま用の出入り口付きとは気が利いてるね」

 機嫌良さ気な寿尚に「このヒトその障子の部屋に常駐しそう」と詠はやれやれといった感じだったが、『そうしてくれると、いつでもすぐ会いに来れるから寂しくなくていいな』と玉生は小さく微笑んだ。

しおりを挟む
ツギクルバナー

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

処理中です...