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ゐゑをにはクセがある。
しおりを挟む夢の中のだと思っていたメールでの<突然だけど、今のキミは”1・地上に残された最後の一人”>が、もしかしたらあの時点では本当に本当の事だった可能性に思い至って背筋がゾクッとした彼女にお構いなく、ゐゑをは持論を続ける。
「これを聞いたら怒る者もいるけど、ワタシにとっての世界はビオトープとかアクアリウムみたいな物でね。自分の手で設置から環境造りから慎重に育てればそれは愛着もあるよ。でも、例えば大きな水槽に穴が開いて水が漏れ出した場合、どうしようもないよね」
「確かに……大きな水槽なんてそこら辺に適当に置ける物じゃないですよね、多分」
「そうなんだよね。せっかく育った文化とかここで潰えたら痛恨の極みだから、小さい水槽を彼方此方に分散させてさ。全員送り出すのに思ったより時間が掛ったのが誤算だったなー」
分散と聞いて老若男女、善人も悪人もランダムに転移されたのかと思ったら、「可能な限りはそれなりに考慮して、転移先は選んだよ」との事だった。
「ネット上で旅行先を絶賛していたり、移住したい場所とか老後に暮らしたい場所を普段から語っている場合は、それに近い環境にとか。家族や友人とか縁が近くて、少なくとも物理的に問題無いならなるべく纏まった集団になる様にとかそんな感じで」
「特にそういう希望は無い人も多かったんじゃ? お家が一番って多数派だと思うし……」
「ああ、その辺は出来るだけ気候とか環境とか近い場所にしたなあ。まあ、希望したら移動先の住居のドアと地球の自宅のドアが繋がったりする仕掛けだけど」
「え? 自宅って一人暮らしじゃない場合、玄関からじゃなくて個人部屋限定とかになっちゃう感じですかっ?」
「いやいや。水回りが使えないなら便利さの半分以上は台無しだろうし。むしろ時間が合えば同居人とは家で会えるから、急な別れも勘弁な、みたいな気持ちもあってのその仕様だから」
「え~と、それって同居人と一緒なら相手の世界に行けたり?」
「いやー、それは不可能にしたよ。人によってはソドムとゴモラとかゴッサムシティーみたいな修羅の国に送ったし。本人もアレだけど、一応どの世界にも現地の人がいるから、本場の人非人まで逆流出して世界ごとの秩序が乱れるのはワタシがイヤだからね」
ゐゑをにはクセがある。
ゆえに、何を返されるか分からないという不安から、対話に興味はあってもなかなか絡みにいけないという者も多いらしい。
質問にはスパッと答えるゐゑをにとっては、逆に何故疑問を口にするのを躊躇うのか分からないらしいが。
その発する言葉はストレートだが、言われた方が勝手に裏を考えるから二の足を踏むのだと付き合いのうちに彼女は悟った。
その結果、ゐゑを相手には気になったらすぐに言葉にするというのが、無自覚のうちに彼女のマイルールとなったのだ。
今回も心の準備等無く、始めて直接顔を合わせる事態になり多少の緊張と気後れがあったが、今はもうすっかり何時ものネッ友のペースを取り戻している。
それにしても悪党は悪党の国へとは何とも思い切りが良いと、彼女としては正直慄いてしまうのであった。
しかし実の所、そんな彼女自身がその思い切りの良い判断に関わっていたという事実に気付いていない。
よって「ああ、そういう世界もありなんですか」等と、完全に傍観者側に立った発言をして「何を言っているんだい?」と不思議そうに返されてしまうのだった。
ゐゑをが言うには時間の余裕も無い時に、物騒な人間の送り先と一緒になっただけで早々に詰む不運な人達について悩んでいると、<同じ力が一番を主張して生きる輩だけ集めて、デスマッチとかいう設定なら解決?>と宣ったのは彼女だそうな。
「一番初めの時は、転移先にどうかと思っていた聖地の解釈が、どうにも個々でバラバラすぎて巧く形にならなくて<外国で大多数が思い入れのある場所。聖地以外>と質問したら、返ったD嬢の<避暑地?>で結構な数が片付いたんだよね」
どうやらそうして以前から<この場合どう思う?>という風に相談して、彼女の返事をアドバイスとして採用していたらしい。
「言われてみれば確かにそんな記憶も……でもあれって何時もの異世界小説の感想の延長で<ボクの考えた最強のアレ>みたいな話題だとばっかり! というか、むしろとうとう執筆活動でも始めるのかと」
「ワタシにとっては創作と一緒だから、その認識もそう間違いではないよね」
悪人にも人権が等と言う気は更々無いが、ゴッサムシティの成立に一役買ったというのは、なかなかの重量があるサプライズだ。
彼女としては『やっちまったー』の中に『私、グッジョブ』がこっそり混ざっているという複雑な心境である。
日本の治安に慣れた知人達が、外国どころか生死の価値観すら不明の異世界で、乱暴上等な人々とバッティングする可能性を考えたらどうしてもちょっと怖い考えになってしまうので。
それこそ“同郷のよしみ”を理由に、強制で都合の好い駒として支配下に置く位はするのではないかと心配になるではないか。
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