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今回の地球再生はお見送りにしたよ
しおりを挟むゐゑをによると人類が滅亡の危機らしい。
そういえばもう八割方その正体は宇宙人なのでは、と彼女は思っているのだが彼(?)は一体何者なのだろう?
何を根拠に文明が滅びたと言い切るのか?
ポストアポカリプスというからには、地上に何らかの大きな被害があって、人間にも犠牲者が出ているという事なのか?
彼女の頭の中はぐるぐると色々な疑問が湧いてきて、食べかけのマフィンがテーブルの上に転がり落ちたのにも気が付いていない。
正直な所、今の今まで頭の隅ではどこまで本気にしていいのかと思っていたのだが、宣告された言葉の衝撃が強すぎてそんな呑気な気持ちは吹っ飛んだ。
「あー、うん。放っておいたら種族的に極少数は新人類になって残ったかもしれないけど、普通の人には厳しい環境だろうし、確かに人類としては滅亡の可能性が高いかな?」
そこでパチンという音と共に、床に当たる部分から劇場のスクリーンサイズ程に大きなモニターが現れた。
その画面にはすでに映像が映し出されていて、早送りなのか景色が急流の水面の様に流れて行く。
俯瞰で映るのはひび割れて崩壊した都市で、倒壊したビル群と隆起したアスファルトが妙に明るい陽射しに照らされているのが目に痛い。
次いで目まぐるしく場所が切り替わり、同じ様に荒れ果てた人類の生活圏が彼方此方と映される。
所々に見覚えのあるランドマークの残骸が無残な姿で佇み、かつてその場所がどこにあったのかを残酷にも証明しているのであった。
「ワタシには直接見えているけども、今の地球は全体的にこんな感じ。D嬢にはこれを見せた方が分かりがいいと思ったんだけど、やっぱりこの環境では文明も文化も死ぬよね?」
目が離せずについ凝視してしまったが、どこにも生き物の姿が見えないのにハラハラする心と、残酷な場面を目撃せずに済むという気持ちが相まって彼女の胸の内は複雑である。
この映像が現在の地球の姿だというのなら、あの何事も無かった無人の通学路は、やはり現実の物ではなかったのだろう。
それで皆はどうなってしまったんだろう?
離れた県へ単身赴任中の父親と、出張がてらそこへ訪ねている筈の母親。
田舎の祖父母や親戚達、最近会ってないイトコの皆。
学校の友達、司書の先生――
今一つリアルに欠けていた地球の終わりが映像で証明され、確認する事で意識の外に追いやっていた“その絶望”を思い知る。
「あ、生き物は皆、もう転移先だから」
喪失感に茫然としていた所へ、あっさりとそんな事を言われ思わず「はあ?」という言葉が口を出た。
その反応にゐゑをは、「ジャンルは転移って言ったよね?」と不思議そうに首を傾げる。
そう、彼女がこちらの空間に呼ばれた時に、そんな会話をした記憶は確かにあった。
まさかその対象が全人類に及んでいたとは、さすがに思わなかっただけだ。
「ただ一度に全員まとめて送ると考えた場合、単純に地球環境丸ごと創造するには場所探しから始めて、配置する角度を含めて周囲とのバランスをとったり、距離間の緻密さも必要だ。それとせっかく創り直すなら、昔からずっと頭にあったあれもこれも修正したい気持ちも大きいんだ。それに凝った作業をしているうちに、転移させるまでの時間が足りなくなるだろうから、今回の地球再生はお見送りにしたよ」
「は……はあ、なるほど?」
一気に捲し立てられてやや及び腰になったが、とにかく壮大な計画があるらしいのは分かった。
しかしゐゑをの言う「地球再生」は、おそらく環境問題を改善したりで自然再生を目指す社会派なやつではなく、天地創造――
「ゐゑを氏って宇宙人とかではなく、もしかして神様だったり?」
前者なら何となくフレンドリーさは許されても、後者が相手だとしたら自分は馴れ馴れしかったのでは? という思いから緊張で喉を固くしつつ、思い切って彼女は聞いてみた。
「自分的には創造主。だけど地球外生命体でもあるし、まあ立場的に神といえば神」
しかし彼女の懊悩には全くお構いなしにあっさりと返されてしまい、『悩むだけムダなやつだ、コレ』と早々に観念した。
元々、ネットで友人としての付き合いの間にすっかり慣れ、今更というか、ゐゑを免疫が有効なのだろうと頓着しないと決める。
今はまだ展開が急すぎて何が何だか把握できない事ばかりだが、これまでネットで対話していた時と関係は変わっていない。
彼女の質問にあっさり答えてくれるゐゑをには、神というイメージからくる神秘性が消失状態で、むしろ隠し事の一つも無いのかとツッコミを入れたい位である。
「ところで今更だけど、ゐゑを氏のその姿は本体? もしそうなら申し訳ないけどツッコまずにはいられないというか、光るのっぺら坊が神様のコスプレしているみたいで何者か悩んじゃう感じなんですけど」
「ああ、このスタイルは分かり易さを狙ったんだけどね。後のっぺりしているのはもう近年は顏とか作るの面倒になって、でも顔が無いとホラーなのかなと寸前に気付いて光ってみたんだけど……ダメかー」
「いやいや。一応鼻は隆起しているんだから、口の部分に切り込み入れて面倒なら眼は前髪作って覆っちゃえば、お手軽に曰くありげなキャラあるあるなデザインに」
「ああ、白髪のロン毛がうねってると更に完成形に近付くね」
「それ、解釈一致です!」
これが彼女達の通常運転なのである。
つまりどちらもマイペースなのだった。
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