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ぼくは帰って来た男 9
待ち合わせは近所の公園
しおりを挟むその公園は立地的に通り抜けに利用する人が多く、近辺のハブとしての役目を兼ねた常に人の絶えないスポットである。
有名な珈琲店が入り口近くの時計塔の向かいにカウンター形式で出店しているのが中心になって、時々軽食や甘味のワゴンが現れたりもする。
そこから一面の芝と植物を植えた花壇が配置された庭園の広場がそれぞれ半円に展開し、点在するベンチには子供連れの母親の姿も多い。
公園の所々に時計塔と同じ人一人が入れるサイズの塔が建ち、夜になるとその頭頂部が灯台の明かりの様に周回して辺りを照らしている。
それもサーチライトの眩しさより昼間の自然光の明るさで、公園内に死角ができない様に互い違いに回転しているのだ。
それで夜間にも散歩やデートの名所として定着し、ボランティアや地元の有志も率先してパトロールをする実に治安のいい場所となっている。
サインが待ち合わせに指定しているその場所は、小学生が彼らを待つには実に気の利いた場所と言えた。
この公園ができたのはここ何年かの事で、それまではすっかり寂れたシャッター街だったのを、篤志家が買い取りこの様に憩いの場所として作り替えたのだとか。
オリエンテーションのミニ遠足でこの公園へ来た時に、付き添いの父兄がそういう話をしていて『ふ~ん』と思ったので覚えている。
さらにこの公園の構造に既視感があり、中心から外れた人工池の真ん中に規模は小さいが、パワースポットを発見してしまった。
その“篤志家”の実験結果だと思われるそこで、自分の力を使わず次元倉庫から物を取り出せるか試すと問題なく周囲の力で移動して来た。
手の中に呼び出したそれは“循環の木”という特殊な樹木の種で、埋められた土地の生態に合わせた木として育ち周囲の力を循環させる。
瘴気に害された土地の浄化後、清浄な力を込めて地に据えれば瘴気を取り込み清浄な力に変えるという、あの世界ではポピュラーな木の種なのである。
ただ種に力を込めるにはその力があるのは当然として、雑念無く純粋な指向性を与える事ができなければ普通の木として育つだけなのだ。
それでもその土地の木が早くに成長するというのは、建築や冬の薪などの資源として充分に有用であり、むしろ通常はそうやって利用する。
そんな種を手にそっと池に近付いた勇は、人工池が大きな水溜りだと聞いて「きんぎょバチみたいに入れかえないと、よごれちゃう?」と祭りになると金魚が増えるという田舎の祖父母の家の金魚鉢を思い出した様だ。
瘴気が浄化されるのだから、水の中で木が育てば汚れた水もキレイにしてくれるだろうと考えたらしい。
勇者は水を浄化する術で時々メンテナンスするんだろうと単純に考えていたので、『せっかくのパワースポットだし、そっちも育つといいな』とむしろその種を対策に選んだのに感心したのだった。
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