ぼくは帰って来た男

東坂臨里

文字の大きさ
上 下
49 / 57
ぼくは帰って来た男 8

自然体ならラスボス

しおりを挟む

 お出掛けにやや興奮気味の勇太ゆうたを、玄関口からリビングダイニングへ続く廊下でカラーボールを転がし「ほーら、とってこーい」と小学生らしく構って遊んでいたゆうの中の勇者は、『着々と足場固めてんなー』と本気出したらしいサインに感心している。
美玖みく本人も「もう、全部お任せしています」と公言している様にしか見えない態度なので、母親の歳三としみも勇の両親も胸のつかえが取れたといった様子だ。
本人が気にするかと話題には触れなかったが、やはり若い女の子が一年間も所在が明らかでなかった間の事は、気になっていたに違いない。
若い男性の一人暮らしという事を考えたら、確かに少し説明し辛いのも分かるので、記憶喪失が有耶無耶になっている部分も理解できる。
相手が好意でしてくれたこの事も、場合によっては犯罪扱いされてしまう可能性があり、実際に妙に頭の固い美玖の父親がこの場にいたらおそらくそれで話が拗れてしまっただろう事が想像できてしまうのだ。
娘が可愛いとかそういう問題からではなく、家出娘など警察にでも任せておけばいいものを、若い男がいい人ぶってで出しゃばってもそれはれっきとした犯罪で、未成年略取として犯罪人になるという事を滔々と語る姿が思い浮かぶ。
その近所では神隠しで人が消えたり現れたりするのは珍しくなく、それこそ警察は記憶喪失も本気にせず「家に早く帰りなさい」程度の対応しかなかった事などは、考慮せず「記憶喪失なんて都合よくなるわけがない」という持論一辺倒なのだ。

 そういったわけでこの問題は内々で済ませる事となり、せっかくの縁なので今は所属の浮いた美玖は、留守がちになるサインの家の事や彼の会社のアルバイトをするなどという風にいつの間にか取りまとめられていたのであった。








 後日、最近戻って来たという行方不明だった少女は、本当に記憶喪失だったのか家出少女ではなかったのかと、一年もの間保護した人物についても合わせて確認して回る者たちがいたという。
しかしその人物は、彼女をペットの世話を頼むという口実で家政婦のバイトとして雇う形で、自分はほぼ別の持ち家で寝泊まりしていたらしい。
彼女の記憶が無い事で引き籠り状態だったのは、“クルミ”という仮の名は耳にしても、連れ歩いている姿は記憶が戻って後になってから見られたという事からから虚偽は無いと認められた。


「ぼくちょっと考えすぎーって思ってたのに、うちにもケーサツ屋さんが来てびっくりしたんだもん」
「先輩って根っからのナチュラル・ボーン・ラスボスなんですねぇ」

 勇者も『アリバイ工作しないとすぐ濡れ衣を着せられて、悪の花道コースに乗せられそうだな』『これは酷い』と戦慄していた。
なお、本人は「備えておけば何とでもなる」と、もうすっかり慣れている模様。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

婚約破棄まで死んでいます。

豆狸
恋愛
婚約を解消したので生き返ってもいいのでしょうか?

処理中です...