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ぼくは帰って来た男 8
現役魔法少女(無自覚)
しおりを挟む結局は、胡桃の大きな耳をフニフニと弄りながらも話は聞いていたらしい美玖の、「蓋ってホールケーキの箱みたいに、パカって開く感じで?」という発言が採用になってお社は作られたのだった。
その際せっかくだからと、勇が蓋の部分に電球の形に変形させた光系の魔石を仕込んだので、庭の中心に常夜灯(の様な物)が設置された。
そしていざ水晶玉を仕舞うとなると、今度は台座の安定性の話から力を溜め込んで空の物と取り換えるか、水晶玉から溢れる力を別に流すラインを作るか、いっそ魔道具を置ける倉庫を作り充電器として利用するかなどと、いつの間にか話題が脱線している。
何と言っても、つい最近までドーパミンがドバドバ出る様な環境に居た男が同居している六歳児と、地球に来て長い間この手の事は自分だけでこっそりと自重していた男である。
平和に暮らしている今は当然素晴らしいが、「平和になったらもっと違う術を扱いたい」と願っていた夢を叶えられる今でもあるのだ。
実は魔術について意見交換するだけでも楽しい二人が、これからの魔術生活の下ごしらえの様な作業で浮かれて脱線するのは無理も無い。
それを見ている美玖は美玖で、クルミ時代の実験中に危険物を安置するために使っていた台座クッションなら丁度いいのではと無意識に考えていた。
そしていつもの癖で、つい『来い来い』と手のひらを上に向けて指をクイクイと引くと、そこには当然の様に小振りのクッションが現れているのだった。
しばしそれを見つめた美玖は、吹っ切った顔で「勇く~ん、先パーイ」と外廊下に足を踏み入れてそちらへと向かった。
ちなみにスリッパは廊下と廊下の隙間より大きい位だったが、美玖はちょっと考えてその手前で脱いでいる。
「落ちても拾ってあげたのに」と苦笑したサインに、「ミクお姉ちゃんは、おっこちなかったら運を使った気になるんだよ……」と六歳児が全てを悟った菩薩の笑みを浮かべた。
“そんな事に運を使いたく無い”確かにもっともな話で、これにはさすがのサインもリアクションに困って「ああ……」とお茶を濁すしかなかった。
実際に、その思い込みの類が術の結果に作用するというのは、あちらの世界では力を操る者ならば一度は身に覚えがあるモノなのだ。
おそらく美玖は不思議ちゃん路線に真っ直ぐ進んでいるが、この世界でも術が使える以上は気のせいだとも言えないので、止む無しである。
むしろ魔法が使える彼女は正真正銘の魔法少女なので、その力を封印してあくまで一般人として生きるという信念でも無ければ、折り合いを見極めつつこっそりと生きやすい環境を整える辺りが理想だろう。
そしていつか、自分が魔法少女であると気付くだろう瞬間の美玖の衝撃を思うと『何という残酷な……』という慄きと、彼女のクルミ時代の黒歴史も合わせて、どうにも他人事では無く古傷の疼く勇者なのだった。
それとは逆に、『サインお兄ちゃんがフォローしてくれるし、ムリにフツーの女の子にならないでもいいんじゃないかなあ』と六歳児は実にサバサバなのである。
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