ぼくは帰って来た男

東坂臨里

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ぼくは帰って来た男 8

わんにゃん

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 しかし、せっかくサインが案内しているのにも関わらず、二人とも途中からチラチラとこちらを伺う影に気を取られて上の空でいる。
壁や家具の陰から陰へ、トタトタと駆け足で移動する黒い小動物が、時々立ち止まってこちらの様子をじ~っと見つめているからだ。
そうするとゆうたちの方も、どうしても気持ちがそちらに向かってしまう。
長くペットどころではない生活をしていたが、いわゆる女子供ならゆるふわが好きだろうという定説通りに、二人とも見掛けたらせめてひと撫でしたいタイプである。
今となっては、ごわついた毛と荒々しい気性で討伐対象だった魔獣や、食料になる猛獣の事がトラウマにならなくて本当に良かったと思う。
そんなわけで、「この子は勇太ゆうたの方。ポメラニアンとハスキーが混ざっているんじゃないかな?」とサインが手元に呼んでくれた黒い子犬を撫でさせてもらう二人であった。

「あの、先輩。例の胡桃くるみちゃんの方は? よその人が居たら寄って来ない感じとかですか?」

 キョロキョロとその姿を目で探す美玖みくに、「ああ、今日は陽が出ていたから――ほら、そこ」と廊下の先をサインが指差す。
庭に向いたサッシのガラスを通して陽が射す廊下に、四肢や尻尾など末端部分に色の付いた白い猫が、熟睡する黒い小型犬に潰されていた。

「あ、にゃんこも一緒! 端っこだけ色が着いてるのはシールポイントでしたっけ?」
「それはもっと焦げ茶色のポインテッドだね。この子はチョコレートポイントになるのかな?」

 そう言いながら「ほら、胡桃。先生せんせいが困ってるよ」とそれでも起きない犬を持ち上げて、ヒョイと美玖に渡した。

「この子の親はパピヨンとポメラニアンだと思う。名前と性格がズレたかと思っていたけど……」

 もっと構えとばかりにぐいぐいと頭を押しつけて来る勇太をぐりぐり撫でながら、後の二匹はどんな子かも気になった勇が目を向けると、美玖のツインテールが彼女が抱えているまだ寝続ける黒い大きな耳と見事に被って見えた。
その呑気さと相まって『そっくり過ぎるだろう』という勇者の呟きと同時に、「わー、ミクお姉ちゃんみたいなわんこだあ」と勇も思わず声を上げてしまった。

「やっぱりそう思うよね? ああ、一応言っておくけど、この子たち三角みすみの実家に居た時からもう何年も飼っているからね?」
「ひぇ……っ、狙わないでこれって何かコワイ。後、そのにゃんこも賢者様に似てません?!」
「ボクもそう思っていた。勇太も少し勇者だった頃の勇君に似てる所もあるし、言霊が強く出たのかな? とね」

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