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ぼくは帰って来た男 8
おじゃましまーす
しおりを挟む戻ってすぐの短い期間だけでも父親を始めとして、かつての学友などとの交流で『クルミさんってば、戻って来たの失敗かもよ』という洗礼を喰らった美玖は、口でイヤイヤ言いながらもこの旧交を楽しんでいるのは見ていて分かり易い。
サインももう十年位はこちらにいるというので、かつての関係者には感慨深いものがあるのだろうと、やはり楽しそうなのが伝わって来る。
一人暮らしのサイン宅に向かう車中、『むこうでよりなか良し?』とその平和なやり取りを自然と見守る姿勢になっている六歳児であった。
そんな勇の脳内では勇者が『今はオレという安全弁もいて、ボーナスステージなわけだし。皆で仲良く楽しむといいさ』と苦笑している。
そんな調子で突入したサインとペットたちの愛の巣は、竹林や生け垣でなかなか上手い具合にプライベートが保護されている平屋だった。
一人暮らしにはそこそこ広く、実際に美玖が居候する事になっても不自由しなさそうな余裕がある。
そのアプローチを進んだ先で家主に「どうぞ」と勧められ、「おじゃましまーす!」と勇が玄関を潜り「失礼しまーす」と美玖が後に続いた。
「ところで先輩。いきなり玄関開けちゃいましたけど、ワンちゃんはともかくにゃんこが外に飛び出したりとか、大丈夫なんですか?」
「一応、出掛ける時は敷地内に結界張っているから、出ても庭までかな。それにあの子たち基本的に室内飼いだからね」
開いたドアの向こうは、ペットどころか人間の子供でも走り回りそうな、開けたデザインだった。
まず家に上がるとすぐ広い三和土と階段程の高さもない上り框があり、「でも、たいいく館みたい」と思わず勇の口がポカンと開く様な、変わった造りになっている。
フローリングの床が広がるそこは、ダイニングテーブルのセットが三和土に沿うように置かれて、テーブルの一辺は三和土に置かれた椅子と合わせて設置されているのだ。
おそらく靴を脱がずに土足のまま使える席として、その二つの椅子は石造りの三和土に置かれているのだろう。
「さあ、上がって」
そう言って三和土側にある壁収納から人数分のスリッパを取り出したサインは、それを靴と履き替えてさっさとフローリングに上がった。
勇たちもスリッパに履き替え後に続くと、玄関口から広がるダイニングとカウンターを挟んだキッチンコーナーに始まり、「そこがバスルームで隣が洗面所」「ここがリビングで奥のコーナーが仕切れるから、このアルコーブ部分で就寝していたって事で」「あの奥がボクの私室」と部屋数は多くないが、その分それぞれに広い家の中を案内された。
いきなり義両親が訪ねて来ても慌てずに済む様にか、スッキリと一般的な家具類を配置するだけで、間違っても次元倉庫の中身を放り出しているという事も無さそうだ。
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