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ぼくは帰って来た男 8
胡桃を美玖に印象操作中
しおりを挟むそうやってシレッと、これまで遠隔カメラで“三匹のうちの子”を見るためにマメに覗いていたスマホや、その時の会話に固有名詞で語っていた「胡桃」を美玖にスライドさせて話題にする。
店舗から上がって来た社員や、フレックスタイムで出社して来た社員たちにも、“縁あって一年間サインの家でペットに混ざって引き籠っていた、記憶喪失だったクルミ”を記憶に刷り込んだのだった。
記憶が戻って家族の元に帰れたので関係各方面に差し入れ行脚しているという語りに加えて、結構いいお値段の洋菓子を持ち込んだので、さらにサブリミナルが強化されただろう。
「話していて商品の参考にもなるし、今後の新商品のヒントも貰えたんだ。なかなか面白い子たちだから、みんなも仲良くしてやって」
そうやって社員へのサブリミナル工作を済ませると彼らとの会話の内容から、やはり家のある場所の確認とペットとの顔合わせを優先的に済ませておくべきだと考えたサインは、「そろそろ送らないとね」ともっともらしい口実で社員たちに見送られ会社を後にしたのだった。
駐車場から通りに出た時、車の中からビルの上方を見上げた勇がそこに緑を見付けて、ぷぅっと頬を膨らませた。
「ぼく、おく上のおうちも見たかったのにな」
「あ、そうそう。空中庭園もあるって言ってましたよね、確か」
二人の言葉に「うん、そのうちね」と返った相槌には、『どうせこっちに参加してもらうし』という心の声がしっかりと乗っていた。
ちょっと先の事が怖くなるが、一蓮托生の様な気持ちはこちらにもあり、共同の作業は互いの状況も分かり易いのでまあいいかという感じだ。
「それに三人居れば、二人が思い付きで明後日の方向に脱線しても、残る一人の指摘で大事故を免れるという絶妙のバランスだよ」
それには何となく身に覚えがあるのは、かつての勇者とクルミだった。
魔獣の対処などに具体的な協力も無く「具申」一つで貢献を語る者や、勇者が掃討に向かう土地を都合で選出する者などを「世界のためにも、どうにかしてやるべきではないか」と語り合う姿は、鬼気迫っていると前線基地界隈で恐れられていたものだ。
睡眠不足と疲労から来る紛う事無き本音だったのだが、「キミたち、もう寝なさい」というサインの一言で、幾度の修羅場が回避された事か。
「でも先輩が時々煽っちゃったりするのも――って、そう言えば先輩。実は口に出した時点でもうお仕置きカウントダウンしてませんでした?」
「フフッ、ボクはその気も無い事は口にしてないつもりだよ? 有言実行というやつ」
「あれ? 言われてみれば確かに、不吉な預言者という呼び名は伊達では無かったと……あっ」
「フフフ、ご期待に添えないイカサマ預言者で申し訳なかったかなあ」
「あぁ~、口は禍の門~、門番の勇君へるぷみー」
「え? えと、リアじゅーおつ?」
「いやいや、充実してないからっ、むしろリアルは波乱万丈してるからっ」
「ハハッ、退屈はさせないよ」
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