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ぼくは帰って来た男 7
まだ彼はプリンを嫌いな人は居ないと信じている
しおりを挟む「せっかくだから、お邪魔する時に持って行くケーキのお勧めを教えてもらおうかな。お礼にキミたちが食べたい物も追加していいからね」
「先輩、太っ腹ぁ!」
「ごちそーになります」
そしてケースに並んだ彩鮮やかなケーキを見て「うわぁ、選べないぃ」と唸る美玖を横目に、「ここにあるスイーツを全部一つずつ、それとは別に焼き菓子はもうワンセット別に分けて、お会計はこれで」とお約束の様にカードを出した。
「長引きそうだからね」
素直に『スゴイモノを見てしまった』という顔で目を丸くする二人に「無事の帰還へのお祝いだよ」と好青年の笑顔を向けるサインである。
ケーキ・パイ・タルトなどだけでもそれぞれ十種類以上あるのに、それに加えてシュー菓子やプリン、マカロンやクッキーなどの焼き菓子。
さらにチョコレート細工やアイスなど商品は多岐に渡るのだ。
「でも、こんなにいっぱい、ぼくもお手つだいするけど、おもち帰りが大へんでしょ?」
勇者の方も洗練された日本のスイーツは嫌いではないので、色々な種類を大量に口にできそうな状況を歓迎しないわけがない。
しかし変に悪目立ちするだろうに構わないのだろうかと、今後の方針については聞かせてもらいたいのだが。
すると店の奥からスーツの男が現れて、商品をせっせと箱詰めしている店員の横から「ご心配なく、坊ちゃん」と勇に話し掛けて来た。
「三角様はお得意様でよく大量にお買い上げいただいて、お車までお運びするのは当然サービスのうちですので」
「やあ、オーナー。今日は個室独占して悪かったね」
おそらくサインは上得意というやつなのだろう、「いえいえ、込み合う時間は避けてただけておりますし、是非またご利用ください」と注文が大量なので、接待のトークをしながら自ら焼き菓子などの取分けを始めた。
美玖が手持ち無沙汰らしい様子なのを見たサインは、商品が詰められレジ打ちまで済ませた箱をレジ前のカウンターから移動させている店員を差して「暇なら車に積むのを見届けておいで」と車のキーを放って寄越した。
用事ができた事にホッとしたらしい美玖は、「じゃ、せっかくなんで少し手伝いまーす」と焼き菓子の包みを片手で持てる分だけ持つと、少し弾んだ足取りで店員に先行して店を出て行った。
勇はどうしようかと小首を傾げたが、「子供に労働はね?」とサインが頭に手を乗せてくるので、どうやらコマンドは『ステイ』らしい。
常連らしいこの店で『物腰柔らかく毒が無いキャラか』とそれがサインの定着させたいイメージだと勇者は察した。
サインの取り巻きの多くは、少なからず彼の毒の部分にカリスマ性を強く感じていた節があるので、その性格設定は正解だと思う。
なるほどと納得した勇は、子供らしく少しキョロキョロとしながら彼の近くで待ちの姿勢になった。
「いつもクルミ……あ、美玖さんだね。彼女にお土産を買うついでにうちの社員にも差し入れするんだけど、子持ちも居るし家に持って帰るっていうのも多くてね」
そう話し掛けてきたサインは「キミ位の年の子は、どういうお菓子が好きかな?」と勇にしれっと尋ねて目配せした。
これは今までも、家で留守番をしていた身元不明の少女への土産を購入していたという、アリバイ工作なのだと察して「プリンおいしいの」とよりによって保存が面倒臭そうな物を子供の素直さで勧めておいたのだった。
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