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ぼくは帰って来た男 7
家にご招待
しおりを挟む以前から無人神社では人が現れたり消えたりという現象が確認され、実際に「そんな非現実な事があるか! 何が神だ、馬鹿馬鹿しい」と悪態を吐いた警察関係者が、現場確認で神社にいた全員の視線が外れた瞬間に消え、遠く離れた場所で発見されたという事があったらしい。
周囲の状況が変わっていたのを気のせいだと思い込み、いつの間にか全員が許可なく撤収したと腹を立てていたそうだが――
運良く近所の交番で現在地の確認を行ったおかげで、通行人相手に問題が起こらなかった幸運を、関係者一同は神に感謝したのだとか。
そういう経緯もあって、実際に神隠しが起こっていると証明されてしまったが、それを前提に警察が捜査をするわけにはいかない様だ。
当然その説明にも困っているため神隠し関連の問題は、一応の辻褄さえ合えばそれが事実として認められてしまうのが現状だという。
なおこの話をサインは、散歩中に義父の三角氏から「無人神社の界隈での周知の事実」として聞かされた。
実は氏の幼い息子も大分前に行方不明になり、未だに手掛かり一つも見付からず神隠しに逢ったのではないかという話だとか。
三角氏も神隠しなら息子はどこかで無事に生きていると信じて、今でも夫婦で彼が戻るのを待っているのだという。
神社で見付かった身元不明のサインを養子として引き取ってくれたのも、息子の事が理由の一つになっているのは間違いないだろう。
そういう前提もあって実際にこれで丸く収まりそうなものを、わざわざ引っ掻き回したがる関係者はそうは居ないだろう。
行方が分からなくなった時にクルミと呼ばれ記憶が無かったのも、その間にサインが世話をしていたのも事実なので、嘘をつけない性格の美玖でも堂々と説明できる内容だ。
異世界に関する事だけ黙っていれば、空白の一年については誤魔化せるとサインが言い切った。
「今は一人暮らしだし、まあ何人かは暗示を掛けてアリバイ作りの必要はあるけど、神隠しで記憶喪失なのでびびって引き籠っていたっていうのもどうにか納得させる様に説明できると思うよ。美玖さんがテンパって妙な発言をしなければ余裕なんだけど、どうかなあ?」
「言わなきゃいけない事以外は黙ってますよう。むしろ黙ってていいなら助かるんですけど」
「ミクお姉ちゃんが言っていいことだけ決めておいたら、大ジョーブなんじゃないかな? それでね、どーきょの三匹には会って、リアクション見たほうがいいかもってぼく思うよ」
勇者が思い付いたので勇の口から指摘すると、「そうだね、早いうちに『ここで預かってました』的に家を見てもらった方がいいか」とこの後すぐ、来見家の二人を自宅に招待するサインだった。
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