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ぼくは帰って来た男 7
セーラー服でした
しおりを挟む召喚が許可制だったと言うなら、『実質それは神隠しだよな』と同意を求める勇者に、内心で「だよねえ」と勇も頷く。
ハッキリと神託と分かってからの方が怯んでいるのが、美玖らしいと言えばらしいが、むしろこっちはお礼を言われる側だ。
勇は頑張った分は報われたと勇者が納得しているので、もう召喚の事で貸し借り的な引っ掛かりは無いが、美玖はもう少し――せめてクルミ位には堂々と自分の権利としてのフォローを求めても、それこそバチは当たらないと思うのだが。
そこでふと勇者が『ああ、そういうのはサインさんに任せるのが織り込み済みなのか』とサインをちらりと見ると、彼もそれに気付いてにこりとした。
「じゃあ、その神社でサインお兄ちゃんがミクお姉ちゃんを見つけて、おうちでおとまりしてましたって、トシミおばちゃんたちに言うの?」
「まあ、少し遅い時間に愛犬の散歩をしようと近所の神社に出掛けたら、記憶喪失でぼんやりしてる子が居て拾ったとかいい線だと思うわよ」
「暗い所で足元の犬に驚いて転んだら、服も汚れたしとりあえず連れ帰った辺りが基本かな」
「え~、そこはせめて胡桃ってワンちゃん呼んだら、名前のそこだけ覚えていた私の方も反応したとかー」
「なるほど、そこで大きい方のクルミとか呼ばれてたという事になるわけだね」
“美玖がクルミと呼ばれていた一年間”の設定がサクッと決まっていくのは、あちらの世界で召喚された時の実際の話を使っているからだ。
確か聞いた話では、召喚されたがパーソナルな記憶が「くるみ…く…みく?」位しか無く、しかも彼女が聖女として呼ばれた理由というのはむしろ、アーカイブされてしまった能天気な方の性質によるものが大きかったのだろう。
聖女としての芽はあったのに、無意識に頼りになる母親を模したクルミとしての人格でそれは開花しなかった。
その上、言語のスキルで言葉に不自由が無かったのがこの世界の者と変わらない様に見られたらしく、祝福として与えられたモノが逆に働き「偽聖女」と呼ぶ者も多かったのだ。
それで賢者の元に保護された面もあり、兄弟子であるサインが実はクルミの保護役も兼ねていたのは公然の秘密の様なものだった。
ただサインの場合、彼女が持ち込んだ教科書類が目当てだとも噂され、実際にその解読のために内容を説明できるだけの基礎を叩き込んだ。
結果、立派な研究オタクにまで育ったのが、巡り巡って反則的な召喚陣の式を展開させるまでに至ったのだから、それも天の配剤だったと言えるのかもしれない。
何と言っても神が選んで、一つの世界を救う歯車に組み込まれた異世界の住人なので、それに報いるために多少は優遇措置もしようというものだろう。
「あ、そうだ。私が召喚で神隠しに逢った時って、制服だったわけじゃないですか」
そう言い出した美玖は、サインが彼女を発見してそのまま保護していたという言い訳について、一応は最低限の話を合わせる必要があるのではと心配になったらしい。
行方不明の時には制服を着ていたけどその辺はどうするのかと美玖に聞かれたサインが言うには、この近隣に同じデザインの制服の学校があるので、それで誤魔化せるのだそうだ。
「制服ですぐ身元なんて分かっちゃうから、そこも誤魔化さなきゃって思ったけど、セーラー服のデザインがそっくりって……しかも、クルミって名前の女の子でその学校にそんな子は居ないとなったら――」
「遠くに同じデザインの学校があるって考えるよりは、学外生が制服を着ていたって思うだろうしね。移動の目撃も無いわけだから、どちらも近隣で対応して情報が繋がらなかったという解釈になるだろうね」
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