ぼくは帰って来た男

東坂臨里

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ぼくは帰って来た男 7

アリバイ作るよ

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「それで、お母様へのご挨拶はいつ向かえばいいかな?」
「ひぇっ?!」
「お兄ちゃんのサインさんは、トシミおばちゃんのおともだち?」
「それはこれからの話かなあ? 後、サインお兄ちゃんでいいよ」

 案の定、美玖みくの行方不明だった間について、それなりに辻褄を合わせた設定を用意してきたらしい。
わざわざ母親へと言及したのも、ある程度の状況は確認済みだという意味で、それでこのタイミングという事なのだろう。
 ゆうの方は、母親が外出中に知人に会うと「お友達にご挨拶するから」と待たされる事があるので、単純にそう思ったらしい。

「ボクは今、一人暮らし――いや、同居しているカワイ子ちゃんたちも……」

 そう言ってコートのポケットからタブレットを取り出すと、手早く操作して向かいの席にいる二人に画面を向けた。
そこに映った画像に異口同音に「カワイイ!」と声が上がる。
黒い小型犬が二匹、フローリングの床をトコトコとそれぞれ好き勝手に歩き回り、時々端の方を白い猫が飄々と横切っていく動画だ。

「こっちの子が胡桃くるみ、こっちが勇太ゆうた。猫の方は先生せんせいって名前だよ。一年同居してたって事で、美玖さんはちゃんと覚えておくんだよ」
「え?! 何が同居? えっ、え?!」

 心の準備ができていなかったのもあるだろうが、すっかり動揺して頭が回っていない美玖に「ミクお姉ちゃん、一年居なかった間のお話だと思うよ?」と勇者チートもあって察しのいい六歳児は助言するのであった。

「え? ああ、行方不明の……確かに、時々凄くどうしてたのかってグイグイ来る人が居て困ってたんですよね。って、え? アリバイ作り手伝ってもらえるんですか?!」
「まあ、世界規模で考えたらボクにも責任が全く無いとは言えないし」
「わあ、ほんっとすっごく助かります! お母さんにも色々と黙ってるのもアレだけど、上手い言い訳も思い付かなくって会話し辛い時があったんですよねー」

 なまじっかクルミとしての人生経験があるせいで、思い付く言い訳が穴だらけだと気付いてしまって、むしろ子供なら苦笑いで見逃してもらえるラインまで「これはバカすぎるでしょ……」と口にできない美玖なのである。
それで美玖は単純に今一番の悩みが解決しそうな事に喜んでいるが、「今後、接触しやすくなるから丁度いい」と続く言葉は聞こえなかった様だ。
勇はサインとの絡みで、中の勇者が自分に合った楽しみに関われるかもしれないので、『頑張れミクお姉ちゃん』と密かにエールを送った。
勇者はぼんやりと見てるだけで癒されていると言うが、六歳児の生活は勇ですら『今さらコレかあ』と思う時があるので、正直退屈してないかと気になっていたのだ。

「まあ神社で消えた事に関しては、今後もその可能性は皆無では無いし、ぶっちゃけるとそういう移動もしてるから召喚・転移関係は神隠しで統一しておこうと思う。丁度うちの近所にも無人神社があって、パワースポットとしても活きているからね」
「でも、先輩。勝手にそんな事言っちゃって、バチ当たりませんかね?」
「何言っているんだい? あちらでは神殿で神にお伺いを立てて許可を得て、その返答として日時・場所・召喚陣の式と神託があってから召喚の実行というのが正式な流れになるんだよ?」
「えぇえ?! 何かそれって、初耳ですがっ」
「その辺は神殿関係が内密に手順を済ませて、折を見て公表する事になっていたからね。召喚が失敗したなんて、噂だけでも士気に関わるだろう?」
「あ~う~、分かる様な気もするんだけどぉ。それならうちの父親みたいな人には神隠しを神託でお知らせしてくれないと、家庭内不破がぁ」

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