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ぼくは帰って来た男 7
取り換えっこ
しおりを挟む「そういえばさっきの水晶玉。キレイだったから、もう一回ちゃんと見てみたいなー」
すっかり皿を空にした美玖が、勇の前にまだ手付かずのプリンアラモードが残っているのを見て、慌てさせないためもあるのかそう言い出したので、預かっていたサインがそれを取り出した。
「あの占い師自慢の傷の一つも無い水晶より純粋でこの大きさだから、なかなか値打ち物だよ」
次元倉庫の中を把握できていない上に、力を使って創造した水晶がどういう性質を持っているかも不明なので、念のためサインに預かってもらっていたのだが、勇としては例えそれがガラス玉であろうが持っているだけで言い訳に困ってしまう。
ゆえに水晶に関しては「使ったぶんの石と取りかえっこする?」一択である。
しげしげと水晶を見ていた美玖は「え~っ、もったいない」と口にしてから、「あ、でも誰かに見られちゃって、何でこんなの持ってるかって話になっても困るかぁ」とすぐに手放すのに納得した。
勇の申し入れをすぐに承諾すると、サインは次元倉庫から取り出した細かい魔石の詰まった小袋を手渡す。
勇が手元にある物で色々と工夫するのは勇者時代にもよく見掛けていたので、あえて必要な部分を割った後の破片をまとめていた物を選んだ。
「中の石で色々と実験してぜひ結果を聞かせて欲しいな。後この袋は遮断の効果があるから、次元倉庫から物を出し入れするのに使うといい」
「ぅわ~、これぜ~んぶぼくがもらってもいいのお?」
「ああ、こっちも良いモノ貰えたしね。この水晶があると、離れた場所の確認が楽になるんだ」
小袋を手にするとそれは勇の片手に余る程で、『形状もバラバラだな』と勇者がその感触で判断したのを次元倉庫にそっと仕舞った。
サインの方は特に商売に使うつもりでは無い様で、ソフトボール大の水晶はもう使う予定ができているらしい。
何でも彼には鳥居から鳥居への移動ができる手段があり、その出入りする瞬間を目撃されるのは拙いので確認用の“目”を飛ばすのだが、場所が神社なせいか勘の鋭い者が居合わせる事もあり不審そうにするのだとか。
しかしこの水晶玉を通せば、自然のフィルターを掛けて某クグルストリートをリアルタイムにした様に、目的地の確認ができるのだそうだ。
「でもやっぱり先輩は、それの替わりにせめて玩具の一つも上げるべきだと思いまーす。魔石は勇君の実験にも興味があるんだろうし、結果によっては先輩の実験助手みたいになっちゃいそうだしぃ」
思ったよりも当たりが柔らかいのと会話をしているうちに慣れてきたのか、紅茶を口にしながら美玖がサインに軽口を叩くと、彼は「そうだね、勇君は何か欲し欲しい物は?」とあっさり頷いた。
「あのね、ビー玉入れる箱がいいな。小っちゃい石でも、いっぱいできちゃうんだもん」
「いいけど、ガラス玉だけ作り続けるのかい? もう少し複雑な形の、組み立て式のパーツなんかだと面倒臭くて丁度よくないかな?」
「ブロックとかプラモデルみたいなの? ん、おもしろいかもっ」
「慣れたら細かい絵柄のパズルとか、全体と細部が正確にピタリと嵌まる物なんかだと、精神が鍛えられそうだろう?」
「あ、それ私もやってみようかな。ステンドグラスの小さいの、色付きなら雰囲気でそれっぽく作れそうな気がする」
美玖まで一緒にその気になってしまい、『誘導されてるなぁ』と勇者は思ったが、サインは元々使える人材が大好きなタイプだ。
なのでむしろこれは良い傾向で、もしかしたら美玖が「何か騙された?!」と我に返るかもしれないが、特に問題にはなるまい。
彼のやり方は、今後役に立つという口実で彼らを利用しようとしている様にも見えるが、いざとなればその窓口として間に立って、二人の存在を隠すつもりだとも取れる。
そしてこのタイミングで現れたのも、おそらくは燻ったままの問題を収めておこうという考えなのではないかと勇者は推測する。
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