28 / 57
ぼくは帰って来た男 7
取り換えっこ
しおりを挟む「そういえばさっきの水晶玉。キレイだったから、もう一回ちゃんと見てみたいなー」
すっかり皿を空にした美玖が、勇の前にまだ手付かずのプリンアラモードが残っているのを見て、慌てさせないためもあるのかそう言い出したので、預かっていたサインがそれを取り出した。
「あの占い師自慢の傷の一つも無い水晶より純粋でこの大きさだから、なかなか値打ち物だよ」
次元倉庫の中を把握できていない上に、力を使って創造した水晶がどういう性質を持っているかも不明なので、念のためサインに預かってもらっていたのだが、勇としては例えそれがガラス玉であろうが持っているだけで言い訳に困ってしまう。
ゆえに水晶に関しては「使ったぶんの石と取りかえっこする?」一択である。
しげしげと水晶を見ていた美玖は「え~っ、もったいない」と口にしてから、「あ、でも誰かに見られちゃって、何でこんなの持ってるかって話になっても困るかぁ」とすぐに手放すのに納得した。
勇の申し入れをすぐに承諾すると、サインは次元倉庫から取り出した細かい魔石の詰まった小袋を手渡す。
勇が手元にある物で色々と工夫するのは勇者時代にもよく見掛けていたので、あえて必要な部分を割った後の破片をまとめていた物を選んだ。
「中の石で色々と実験してぜひ結果を聞かせて欲しいな。後この袋は遮断の効果があるから、次元倉庫から物を出し入れするのに使うといい」
「ぅわ~、これぜ~んぶぼくがもらってもいいのお?」
「ああ、こっちも良いモノ貰えたしね。この水晶があると、離れた場所の確認が楽になるんだ」
小袋を手にするとそれは勇の片手に余る程で、『形状もバラバラだな』と勇者がその感触で判断したのを次元倉庫にそっと仕舞った。
サインの方は特に商売に使うつもりでは無い様で、ソフトボール大の水晶はもう使う予定ができているらしい。
何でも彼には鳥居から鳥居への移動ができる手段があり、その出入りする瞬間を目撃されるのは拙いので確認用の“目”を飛ばすのだが、場所が神社なせいか勘の鋭い者が居合わせる事もあり不審そうにするのだとか。
しかしこの水晶玉を通せば、自然のフィルターを掛けて某クグルストリートをリアルタイムにした様に、目的地の確認ができるのだそうだ。
「でもやっぱり先輩は、それの替わりにせめて玩具の一つも上げるべきだと思いまーす。魔石は勇君の実験にも興味があるんだろうし、結果によっては先輩の実験助手みたいになっちゃいそうだしぃ」
思ったよりも当たりが柔らかいのと会話をしているうちに慣れてきたのか、紅茶を口にしながら美玖がサインに軽口を叩くと、彼は「そうだね、勇君は何か欲し欲しい物は?」とあっさり頷いた。
「あのね、ビー玉入れる箱がいいな。小っちゃい石でも、いっぱいできちゃうんだもん」
「いいけど、ガラス玉だけ作り続けるのかい? もう少し複雑な形の、組み立て式のパーツなんかだと面倒臭くて丁度よくないかな?」
「ブロックとかプラモデルみたいなの? ん、おもしろいかもっ」
「慣れたら細かい絵柄のパズルとか、全体と細部が正確にピタリと嵌まる物なんかだと、精神が鍛えられそうだろう?」
「あ、それ私もやってみようかな。ステンドグラスの小さいの、色付きなら雰囲気でそれっぽく作れそうな気がする」
美玖まで一緒にその気になってしまい、『誘導されてるなぁ』と勇者は思ったが、サインは元々使える人材が大好きなタイプだ。
なのでむしろこれは良い傾向で、もしかしたら美玖が「何か騙された?!」と我に返るかもしれないが、特に問題にはなるまい。
彼のやり方は、今後役に立つという口実で彼らを利用しようとしている様にも見えるが、いざとなればその窓口として間に立って、二人の存在を隠すつもりだとも取れる。
そしてこのタイミングで現れたのも、おそらくは燻ったままの問題を収めておこうという考えなのではないかと勇者は推測する。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる