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ぼくは帰って来た男 7
ラスボス疑惑
しおりを挟む子供の頃から名を知られていたサインは様々な柵から手も抜けず、日々の雑務をこなしているうちに自然と、“自分の上に立つのに相応しい”“導いてほしい”と求められる流れになってしまっていたのだ。
呪いでも掛かっているのかとウンザリする程に集団の頂点に祭り上げられ、勝手に勢力を拡大させられるのがパターン化していたのだ。
そういうわけで知名度がリセットされたこの世界では、程々に有能だった知人を参考にした上で、余暇を楽しむ緩さを演出している。
仕事で扱う物も機密だったり精密だったりする製品より、娯楽お気楽方面に力を入れて、選ばれたエリート思考の類と同じステージには立たないつもりだ。
そのために大学は適度に話が分かる変わり者の教員の授業を選んで、サインも変人という印象を強く持たせる様にしている。
ただ同じ大学の生徒という口実があるうちは、迂闊に関係者をスカウトできないので、実は社長という立場も公言してはいない。
その話に「わかるー。あのね、ぼくはお友だちもいっしょにせいちょーするのをがんばろうかなって思ってるの」と、きりっとした顔で宣言する勇に、彼の元の資質はこうだったのだなとサインは感慨深く思った。
彼は彼で“勇者”に関わる者としての優越感を持ちたい者や何とか利用して利益を得ようとする者などがいて、通常の友好関係を「勇者に相応しくない」という口実で排除されて諦めた頃があったのだ。
なお彼らに共通している目立ちたくないという気持ちは、問題のある者に好かれたくないという切実な思いから来ているのは言うまでもない。
「向うでも信者に囲まれていたし、ここでももう自分の要塞確保してるなんて。何か考えたら先輩ってラスボスみたいですよね」
深く考えたわけではないだろう、オシャレにトッピングされたミルクレープをもぐもぐと口にしてから、ふと思い付いた風に美玖が言った。
『おいおい、そりゃ洒落になってねーよ!』と中の勇者が速攻で返したので、口一杯をチョコとバナナと生クリームが塞いでいた勇は、目をぱちくりとさせるだけで反応し損ねた。
言われたサインの方も、「なるほど」と物凄く腑に落ちた。
勇者による討伐で魔獣の数が減り、例えリポップしても現地の戦力で対応できると言われる様になってから、やたらとサインの周囲で「今後の勇者は過剰戦力になり、存在だけで国家を刺激する」などと嘯く者の声が目立つ様になっていた。
その時のサインは、クルミが勇者を帰還させる陣の開発をほぼ完成させ、既に細かい調整に入っているのも知っていたので適当に流すばかりだったのだが、彼らは勇者を排除してそのドサクサのうちに天下を手中に収めさせるつもりでいたのだろう。
それはこちらの創作でよく見るラスボスの所業と変わらないだろうと、ここで完全な他所事として見たからこそ納得できた。
つまり運命の悪戯で一つボタンを掛け違えていたら、サインは勇に対してのラスボスになっていたのではなかろうかという事である。
サイン本人の気持ちより、立場や都合が優先して勇者と敵対する事に“なっていた”展開など、いくらでも想像できてしまう。
少なくとも賢者の存在が無く実家で育ったサインなら、拒絶するのも面倒で自然とラスボスという役を受け入れていた気がする。
やはりあちらの世界から離れた事で、ある程度決められていた巡り会わせから外れて、思考も自由になったのだと思う。
こちらと比べて力に満ちているのは神の加護によるモノであって、その分だけ宿命の強制力が強いのがあちらの世界なのだろう。
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