ぼくは帰って来た男

東坂臨里

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ぼくは帰って来た男 6

大人の事情の記憶

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 あちらに居た頃よく賢者が、“おそらく記憶を失ったクルミの故郷”の話を彼女に話すついでに自分にも聞かせてほしいと時間を取った時に、サインも同席を求めていたのだが、そういう熱心さは感じなかったのでクルミは油断したのかもしれない
興味は示すが四方山話といった感じで、普段の研究者として対象に向ける集中具合を知っているだけに、目先の変わった片手間程度の興味だと誤魔化されてしまったのだ。
 もしも彼が召喚陣の向こうの世界に興味を持っていると悟っていたら、少なくともクルミが素直に研究の成果を渡すなんて事は無かっただろうから、彼の目論見としては大成功だろう。

 そうなる事に薄っすらと気付いていた勇者だが、思うところがありあえてサインの妨害をしなかった。
まず、サインは実家の後ろ盾があって研究に横槍が入らないと聞いた割には、家名を名乗ろうとしないのに引っ掛かったのが最初の切っ掛けだった。
彼は興味を持った事を熱心に観察する割に、実際の研究はそれとズレている様な気がしたが、金になる研究優先だろうと考えて一旦は納得した。
 しかしゆうが酸いも甘いも噛み分ける頃になると、金になる研究じゃないと横槍が入るという見方もできる事に気付いてしまったのだ。
そうすると、彼の研究はむしろ惰性の産物であって、本人としては家の事は足枷になっている部分が大きいのではないかと思えてきた。
 サインについてはクルミが賢者に引き取られる前から先輩としてそこに居て、家令夫婦は勇と同様に幼年時代から世話をしているとも聞いた。
力のある実家だと聞いているのに、賢者を高給で教師として雇うより子供を弟子として家を出す選択から、癖の強さが窺える気がする。
 そして勇が勇者として名が売れてからも、サインは実家と引き合わせたりはせず、個人的に接触があっても相手にしない事を推奨していた。
 
 おそらく乱世を収束すべく召喚された人間の利用価値の高さゆえ、身内に引き入れ搾取を狙う素振りがあるとサインは見なしていたのだろう。
ただでさえ魔物相手に荒れた世で、内外にコネクションを持つ賢者が保護をするという意味は大きく、強引な引き抜きの抑止になっていた様だ。
賢者の保護下の者たちに干渉し、その結果として賢者との間に溝を作るのは致命的な愚挙になりかねないのは勇でも想像がついた。
第一、勇者の役割を聞けば俗世の事に煩わせるべきでは無く、人間同士のゴタゴタに巻き込むなどまともな人間なら避けるだろう。
しかし、そんな時でも実際の現状から遠いせいで災禍を過小に考え、“自分の敵”の力を削ぐ機会を窺っている俗物はいる。

 つまり勇者の推測では、サインの実家は賢者相手にもある程度の嫌がらせができる力があり、彼は間に立って利益を与える事で黙らせていたのだ。

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