ぼくは帰って来た男

東坂臨里

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ぼくは帰って来た男 4

まほーが使えます

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「ミクお姉ちゃんは、帰って来てから、むこうのナニかためしてみた?」

 言われた方の美玖みくはキョトンとしてから、「あー……」と頬を掻く。

「実はまだ、なーんにもやってないんだなー。迂闊に発動しちゃうところ見られでもしたら、フォローできないかなーって」

 それから視線を下げて「それに」と続ける。

「正直、試して発動しなかったら、本当に頭がおかしいって事になりそうでしょ?」

 自分の正気を試すみたいでおっかなかったと彼女は言った。

「記憶にあったゆう君のランドセルのタグの住所がうちの近所にある母親の実家で、話に聞いた時期からして越して来ているか微妙だし、お父さんの事故を止められたら引っ越しは無いだろうから、そこに居なくてもおかしくないとか考えたり……」

 それで祖父母の家に寄って、さり気なく親戚に勇君がいないか尋ねてみたりして、母親の兄の息子が彼らしいと判明してホッとしたりしていた様だ。

「そんな時だったから、ここに来る途中の伯父さんの話で、本当に勇君が居るかもってすっごくドキドキしてね……」
「ミクお姉ちゃん?」
「どんな顔していいか分からなくなって、母さんの背中から出ていけなかった」
「ん~」

 今、勇の中には分裂しているわけでは無いが、勇者と六歳児が存在している。
おそらく両方が存在している事で、アイデンティティが強化されているのだろう。
あるいは子供の柔軟性が、ネガティブな思考にストップを掛けているのかもしれない。
例え勇者が悲観的な想像をしても、「なんで?」攻撃を繰り出してくる相手だ。
実際に有る事を、常識的な考えから否定されるのは、六歳児には疑問でしかないのだろう。

「じゃあもうだいじょーぶだよね? あのね、マホーはこっちでも使えるけど、ちょっとだけなの」

 なので細かいところは飛ばして、あっさり重大発表を報告してしまうのだった。
それに今までの憂いが全部消失した勢いで、「マジでぇ?!」と顔を上げた美玖は根が能天気だ。

「うん、ぼくころんじゃったときに、ちょっとだけうかんでたし、すりむいたおヒザも“きゅあ”できたもん」

 少し状況が分かり難いが、転んだ弾みに自然と何らかの術を発動させ、回復術の“キュア”を使って怪我を治療できたという事らしい。
美玖は思わず、「うわぁ、回復使えるのってすっごいね!」と声を上げた。

「それでね、マホーが使えるなら次元そーこも気になるんだけど、ぼく合わせるのがうまくいくか分からないから、あぶないなーって」

 どういう事かと美玖が問えば、「ドサドサーって」と中の物をまとめて引っ張り出す恐れがあるという事らしい。

「大きいときと力もちがうし、こっちの世界はあっちよりもマホーに使う空気がうすいでしょ? 」
「力があっても隠さないとかなーとか、こっちに術は有るのかなって考えてるだけでね。私ってば試そうとかも思ってなかったから、分かんないや」

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