ぼくは帰って来た男

東坂臨里

文字の大きさ
上 下
11 / 57
ぼくは帰って来た男 4

お片付けするのは当たり前

しおりを挟む

 さて、まだ積まれた箱と寝具一式しかない美玖みくの部屋は問題外なので、ゆうの部屋で積もる話である。
カラフルなクッションが転がるラグの上で、本人たちも転がった。
 そこで当然話題になるのが召喚陣が起動して後の事だが、勇がこちらに戻れたのと前後して美玖の方も、例の神社へと戻れていたそうだ。
当時彼女の一家が住んでいた家は父の実家、つまり勇の祖父母の近所で、やはりあの神社で一休みしていた時の召喚だったらしい。

「学校に置いてあった荷物、持ち帰るのが重くてねー」

 終業式までに少しずつ片付ける予定が、「今日中に全部持ち帰る様に」と伝達があったそうだ。
中には「勝手に捨てといて~」という猛者もいたが、基本的に美玖は規則は守る派である。
「ナニ、まじめ~?」と言われながらも、持ち帰る事にしたのだそうだ。

「その教科書とか色々のおかげで、向こうで賢者の弟子になれたわけで大正解だったけどね」

 それに対して内なる勇者は、『大荷物でなければ、神社に寄らないで召喚も無かったのでは?』と思った。
しかし良い子の六歳児は、お片付けするのは当たり前なので、特に美玖に突っ込みは入らないのだった。


 ただ帰還時にはこちらでの記憶が無く、不確定要素がどう作用するかも不明だったわけで。
こちらの記憶が戻っていなかった場合、ある日いきなり性格が激変したという状況になっていただろう。
その場合、下手すると精神の病を疑われる可能性まであったのだ。
特に今回まともに話すより前に、「家出してバツが悪いから記憶喪失なんて言い出した」と決めつけた父親が問題だった。
あの父親なら、「頭がおかしくなった」と考えて、すぐに精神科へ強制連行されそうだ。

「一年ずれただけ帰れたのって、多分幸運なのよねぇ」

 美玖は召喚時に言語情報などを押し込まれ、それまでの記憶をアーカイブされたゆえの記憶喪失だったらしい。
個人情報などのファジーな部分をまとめて奥の方へ押し込まれ、公部分はどちらの世界にも共通項が多く問題無く残されたのだろう。
それで最低限の生活には困らない判断力はあったが、知識が大分偏って性格にも影響が出たのではないかと思われる。
その仕舞われていた記憶がこちらに戻った時に復元され、今が本来の美玖なのだそうだ。

「クルミさんは、トシミおばちゃんに似てたって思うなあ。だから今、ヘンな感じなのー」
「あー何か自覚ある。それはそうと何で母さんはちゃんで、私はさんなのかな? あと美玖って呼んでね」
「えぇ~? じゃあ、ミクお姉ちゃん?」
「うんうん、それがいいよ。私今日から、お姉ちゃんね!」

 そのやり取りを耳にしながら六歳児の中にいる勇者の意識は、『オレに気付かないといいけどな』と思うのだった。
おそらく『気付いたら独り言を聞かれた的な羞恥心に襲われそうな気がする……』のである。
 勇者の身につまされる思いのせいか、六歳児は話題を変えようと気を利かせたらしい。
そこまで話してから「あのね」と声を、ひそひそ話のトーンに変えた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...