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ぼくは帰って来た男 2
帰って来た勇君ちの事情
しおりを挟むあちらの世界で形成された人格は、気合を入れればある程度“勇者ごっこ”で再現できるが、現在はあくまでも六歳児の勇である。
未来のスペックには十分期待できても、現在そのボディに宿る未発達の脳では、それ相応の短時間しか集中力も続かないのだ。
いわゆる創作小説で見掛ける、転生主人公の幼児が前世の記憶を持っているというパターンに、近いと言えば近いのかもしれない。
ただ勇者の意識を表の六歳児に引き上げると、脳が圧迫されるので幼児の意識が嫌がるし、勇者の方もすっかり隠居気分でやる気というものが無かった。
それにやっと幼児から脱したばかりの児童には、不必要なストレスを掛けるものではないという主張が、召喚初期の頃を結構根に持っている勇者の本音だ。
とは言え、父親の災難を阻止できた件で、今は召喚に関する全ての事を許せる気持ちが正直なところだったりもする。
やり直せたからには、小学生――せめて低学年のうちはパパとママに甘える可愛い息子としての生活をエンジョイさせてやるのだ。
それこそがあの頃、勇者の卵が何度も夢見た事なのだから。
そんな誓いを叶えるために、問題は小さなうちに潰さなければという考えの元、今夜も勇は家の中をパトロールしている。
子供が寝た後の両親の会話をこっそり聞いて、いざという時は問題は排除しようと企んでいるのだ。
そうやって自ら普通の生活を外れていってしまう、無自覚に勇者な六歳児こと勇なのであった。
ちなみに勇者としてはその気持ちも分かるので、よっぽどの事でなければ勇の行動は静観するつもりでいる。
「そう言えば、歳三の所の美玖ちゃん、完全に親権取ったってさ。家は処分して忠二は実家に戻るらしいけど、歳三はこっちの本社勤務になりそうだから、母娘で越して来る事になりそうだ」
「あらまあ、住む所はどうなってるの? うちは部屋余ってるし、客間とか使ってもらっても良くない? 二階の部屋も荷物片付ければ空くし」
「ああ、裕美がいいならそう勧めてみる。しかし忠二の奴はなー」
「気に入らないとすぐ出て行けって口癖で、それで夫婦喧嘩になっての離婚だったのよね? 美玖ちゃんの事も家出娘が帰って来て、周囲に恥ずかしいって決めつけてるっていう話でしょ? 何だか思い込みが激しい人よねえ」
「うん。うちの田舎は神隠しとか、昔からリアルにある感じでさ。忠二も従兄弟だから法事とかにそこで会うんだけど、そういう田舎の因習みたいなのを信じてる奴は馬鹿だっていつも言ってるよ」
「歳三さんは割と信心深いタイプよね。何だか相性悪そうなのに、どうしてまた結婚しようってなったのかしら。美男美女だから、普通に恋愛?」
「いやいや、親戚の世話好きが、同職だからいいんじゃないかって取り持ったんだよ。忠二は未婚じゃ世間体悪いが理由で、歳三は子供は欲しいなって」
「ああ……何だかすごく納得しちゃった。まあ、とにかくあなたの妹さんなんだから、できるだけうちでフォローしましょう?」
「ありがとう、裕美。歳三も喜ぶよ」
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