アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家

文字の大きさ
上 下
89 / 121

レッスン83「スタンピード (1/3)」

しおりを挟む
「おい、オーギュス……それはさすがにヤバいぜ」

『街』で俺たちがアジトとして使っている宿の一室で。
 目の前に積み上げられた『魔物寄せの香木』を見てびびっちまったのか、冒険者崩れの男が引きつり笑いをする。

「悪ぃが俺は降りさせてもらう」

「お、俺もだ!」

「悪いな、俺も……」

 次々と逃げ出していく野郎ども。
 ふん……悪党にすらなり切れない、糞どもが。

 ――――難民村の川に糞を投げ込む策も、上手くいかなかった。

 一時は難民村が恐慌に陥り、この『街』から去ろうという意見を醸成することが出来たんだが、クリスのやつが、あの『アリス』とかいう女と一緒にあっという間に街中を治しちまった。

 ……クリス。
 どこまでも俺の邪魔をする、憎い男。

「だいたいお前、こんな量の魔物寄せをいっぺんに使ったら、魔物暴走スタンピードが起こる。いくら城壁に囲まれてるっつっても……この街が壊滅するぞ」

 まだ残っていた最後の男――孤児院時代から連れ立ってた悪党のひとりが、青い顔をして俺に言う。

「だから? それが目的なんだ。何が悪い」

「お前、いいのかよ……そうなったらシャーロッテだって、きっと死んじまう」

「ふん……」

 シャーロッテ……孤児院のガキどもの中で、唯一俺の思い通りにならなかった女。
 俺はあの孤児院で一番体が大きくて、腕っぷしも強かった。
 男も女も、ちょっと脅して殴ってやればすぐ思い通りになった。
 ……けどシャーロッテだけは、言うことを聞かなかった。
 女のくせに、気に食わない。
 孤児院の女の中で一番の美人で、気が強く、『次代のミルク・母乳メディエーター調停官・セカンド』だとか呼ばれて調子に乗っていた。
 屈服させたい……と、そう思った。
 そしてあの女は、まるで子犬でも可愛がるみたいに、クリスのことを可愛がっていた。
 あいつからクリスを取り上げたら、どんな顔するだろう?
 泣くだろうか? 怒るだろうか?
 俺がクリスをイジメる度に、あいつは堂々と俺に文句を言ってきた。

 イジメられるしか能がないクリス、そんなクリスを飼って自己満足にひたるシャーロッテ、そんなふたりが気に食わない俺。

 そういう関係が崩れたのは、1ヵ月前。
 あの、『アリス』とかいう女冒険者が現れてからだ。
 クリスは瞬く間に強くなり、兎の首を狩り、盗賊やオークの首を狩り飛ばすようになった。
 俺は薪の納入の件でクリスにハメられて、冒険者ランクを降格させられる憂き目に遭った。
 本当に、何もかもが気に食わない。
 クリスはクリスだ。
 あいつは惨めでなきゃならないんだ。
 あいつが笑うなんてことは、あっちゃならない。

「死んだらいいんだ、あんな女」

「付き合ってらんねぇよ……俺も降りる」

 そうして俺は、ひとりになった。


   ■ ◆ ■ ◆


魔物暴走スタンピードです!!」

 真夜中に血相を変えたミッチェンさんが訪れて、そう言った。

「西の森から魔物たちが湧き出て来て、この街の城壁に殺到しています!!」

「なんてこと――…」


   ■ ◆ ■ ◆


『街』の西端、難民村は戦場と化していた。
 壁を飛び越えることができる鳥系の魔物が入り込んでいて、警備をしていた冒険者たちと交戦している。

「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】! ――怪我はありませんか!?」

 鳥の魔物を【収納】しつつ冒険者に駆け寄る。
 相手はCランクのベテラン冒険者ベランジェさんとパーティーメンバー3人だった。

「ああ、大丈夫だ」

「ではベランジェさんたちは難民の避難誘導をお願いします!」

「はっ、すっかり町長気取りじゃねぇか」

「はは……」

 軽口を叩きつつも、ベランジェさんは難民村の方へ走っていく。





「ガァァァァァゴォォォオオオオッ!!」





 そのとき、壁の向こうで腹に響く咆哮が聞こえ、

 ガァァアアアアアンッ!!

 と、鉄の壁に何かがぶつかる音が聞こえた。

「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析アナライズ】――クリス、マズいさね。壁がたないかもしれない」

 隣でお師匠様が顔を歪める。

「えっ!? 厚さ1メートルの鉄の壁ですよ!?」

「壁の向こうにベヒーモスの成体がいる。あれの突進を何度も受けたら、壁自体が平気でも根元から倒れるさね」

「あああ……」

 壁はあくまで地中5メートルにはめ込んでいるだけであり、土中は石畳で舗装しているだけだ。

「【収納】するしかありませんわよ、クリス君!」

 隣でノティアが言う。

「壁の上まで飛びましょう――【飛翔レビテーション】!」

 ノティアに、壁の上へと引き上げてもらう。

「【灯火トーチ】!」

 ノティアが壁の下を明かりで照らし上げる。

「――ヒッ!?」

 まるで、『波』のような魔物の群れが、壁の下を埋め尽くしていた!
 四足獣の魔物、ゴブリン、オーク、オーガの群れ、そしてその中心にいるのが、

「あ、あれがベヒーモス……」

 あらかじめお師匠様に教えられていなければ、それを生き物だとは認識できなかったろう。
 まるで岩山のように巨大な、鋭い角を持った四本足の獣――伝説級の魔獣だ。
 Aランク冒険者パーティーが束になっても敵わないような強敵。

「さぁ、クリス君!」

「う、うん――…」

 僕はベヒーモスへ意識を集中し、丹田から両手の平へ魔力を引き出して、

「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】!!」

 ――――バチンッ!!

 と、ベヒーモスの周りに白い魔力光が発生した。
 そして、【収納】したはずのベヒーモスの姿が、まだそこにある。
 こ、この感覚は知っている……風竜ウィンドドラゴンのときと同じだ。

「あ、あぁ……抵抗レジストされた……ッ!!」

「そんな――…」

「ガァァァァァゴォォォオオオオッ!!」

 ベヒーモスによるさらなる突進!!
 壁がぐらぐらと揺れ、僕たちは空へと退避する。

 ……まずい。
 まずいまずいまずい!
 このままじゃ、壁が倒されてしまう!
 こんな数の魔物に侵入されてしまっては、街が壊滅する!!

 どうすれば――――……



***********************
 次回――――……
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】 異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。 『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。 しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。 そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...