上 下
88 / 121

レッスン82「疫病 (5/5)」

しおりを挟む
 そして、病人はいなくな――らなかった。
 なぜだか再び、難民の中から腹痛で苦しむ人たちが病院に担ぎ込まれるようになった!

「な、何で!?」

 小休止のときに、僕は頭を抱える。

「病気の原因がどこかにあるってことさね」

「お師匠様……原因、分かりますか?」

「実は、何となく見当はついているんだ」

「え、そうなんですか!?」

「まず、難民で腹痛や下痢に悩まされてる奴らはみな、『大腸菌』という菌に侵されているんだ」

「ダイチョウキン……? 病魔ですか!?」

「いや、この菌はどんな人間の体内にもいて、本来あるべき場所――腸内にいる間は無害なんだ。が、ひとたびそれを経口摂取してしまうと、腹痛や下痢を起こし、最悪の場合、死に至る。
 ――ちょうど患者もはけたようだ。見に行こうかね」


   ■ ◆ ■ ◆


 というわけで、久しぶりの村歩き。
 ノティアとシャーロッテも当然の顔をしてついて来ている。

「あの川さね」

 お師匠様が、北の山から引いてきた本流から、この村の為に分岐させた支流を指して言う。

「水を【収納】して出しな」

「はい――【収納アイテム空間・ボックス】――【収納アイテム空間・ボックス】」

 そこそこ距離があったけれど、僕は難なく川の水を遠隔【収納】して、コップに入れた状態で手の上に出現させる。

「【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析アナライズ】……あぁ、やっぱり。【視覚共有シンクロナイズド・アイ】――見てみな」

 見ろと言われたので目を閉じると、お師匠様の司会の先では、コップの中で白いモヤモヤが蠢いている!!

「ひえっ」

「大腸菌さ」

「「「なっ!?」」」

 僕、ノティア、シャーロッテの声が重なる。

「えぇぇえッ!? ってことは、誰かがこの川に糞を捨ててるってことですか!?」

「ってことになるねぇ」

「あ、あり得ない!!」

 そう、東王国で、糞便を野や川に捨てるなんてことはあり得ないんだ。
 東王国では、マジックバッグを設置した椅子型トイレが一般的だ。
 用を足す度に若干の魔力が必要にはなるものの、臭いは立たないし虫も寄らない。
 で、定期的にマジックバッグを所定の肥溜めに持っていくわけだ。
 僕が難民の皆さんに提供した家にも、同じトイレがついているわけだけど……。

「――あっ! まさか難民の人たちって、マジックバッグを起動させるだけの魔力すら持ってないってこと……? いやだからって川に捨てるかなぁ?」

「ま、とにかくいまは、この川から大腸菌を軒並み【収納】しちまえばいい。病気の根源退治さね」

「――はい!!」


   ■ ◆ ■ ◆


 川を綺麗にしてから数日のうちに、病人はすっかりいなくなった。
 村長さんに確認したところ、確かにマジックバッグを起動させるだけの魔力も持たない住民は一定数いるそうなのだけれど、そういう家でもちゃんと汲み取り式便所を作り、糞便は村の肥溜めで適切に管理しているとのことだった。
 とにかく、くれぐれも川を汚さないように、と強くお願いした。
 自分たちで川を汚して病気になって、それで瘴気だ祟りだなんて言われても、困ってしまうよ……。


   ■ ◆ ■ ◆


「【無制限アンリミテッド収納・アイテム空間・ボックス】! はい、どうですか?」

「まぁっ! すべすべ! もうクリス君無しじゃ生きていけないよ!」

 ムダ毛が【収納】された脚を撫でながら、この街で宿を営む女将さんが笑う。

「あ、あはは……」

 病人の数が減っていき、いつの間にかこの病院は『美容院』と呼ばれるようになっていた。

『アリスさんは足の裏が綺麗でうらやましいですわ』

 と、ノティアがある日の『魔力養殖』のときに言ったのが、すべての始まりだった。

『足の裏?』

『こう、歩いてるとかかとの皮が厚くなってバキバキになりません?』

『あぁ、角質かい。クリスなら、綺麗に【収納】できるんじゃあないかい?』

 そこから始まる、ノティアの『あれも【収納】してほしい』『これも【収納】してほしい』という無限の欲望!
 お師匠様の視界越しとは言え、女性の体をまじまじと見なければならないので、正直恥ずかしいのだけれど……ノティアは逆に、僕に見られて喜んでたね……はぁ。

 で、その話が使用人組にバレて、そばかすを【収納】してほしいだのほくろを【収納】してほしいだのという話に発展し、何がどういう経路で漏れたのか、この病院に女性客が殺到するようになった。
 あとは、『食べ過ぎてお腹が苦しいから胃の中を【収納】してくれ』とかふざけたことをいう大富豪や貴族様ね……。
 腹についた贅肉を【収納】してくれっていう依頼は、さすがに怖すぎて手が出せなかったよ。
 中には『矢じりが体の奥深くまで刺さって……』みたいな切実なのもあったので、そういうのは最優先で治療したよ、もちろん。

 そんなふうにして、平和な日々が続いた。
 領主様は約束通り無駄な召喚をしなくなったし、慌ただしいけれど平和な日々だった。
 そんな日々がいつまでも続いてくれれば良かったのに…………本当に。



***********************
 アリス・アインス師匠「【収納アイテム空間】使い・ボクサーは美容整形外科医」

 次回、魔物暴走スタンピード
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜

ワキヤク
ファンタジー
 その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。  そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。  創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。  普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。  魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。  まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。  制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。  これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

処理中です...