79 / 121
レッスン73「飛翔レース (2/6)」
しおりを挟む
「【西風神ゼフュロスよ・春と生命の司よ】」
「【西風神ゼフュロスよ・春と生命の司よ】」
「【我を暖かな風で風で包み込み・その身を浮かび上がらせよ】」
「【我を暖かな風で風で包み込み・その身を浮かび上がらせよ】」
「「――【浮遊】ッ!」」
西の森からほどよく離れた草原で。
ふたりして詠唱したにも関わらず、ノティアの体だけが、ふわりと浮き上がる。
ノティアはローブの裾を押さえながらふわふわ浮き上がり、空を泳ぐようなしぐさで、僕の周りを漂う。
「【飛翔】の前提となる魔法で、初級風魔法なんですけれどねぇ……」
「分かってたことさね。やはりこいつには、【無制限収納空間】以外の才能は無い。ゼロだ」
「分かってたならなんでやらせたんですかぁ!」
女性陣からの心無い罵倒に抗議するも、
「うふふ、泣き顔クリス君可愛い」
うっとり顔で僕を見つめるノティアと、
「はんっ、大の男がめそめそと」
ため息を吐くお師匠様。
……まるで取り合ってもらえない。
「だが、お前さんには【無制限収納空間】がある。ほれ、いっちょ空を【収納】してみな」
「はぁ? 空を、【収納】!?」
「そうさねぇ……【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】、【視覚共有】」
いつものやつが始まったので、僕は目を閉じる。
すると、お師匠様の視界の先で、僕らの上空で数十メートル四方くらい? の空間が薄っすら白く輝いている。
「ほれ、【収納】してみな」
「は、はい……【無制限収納空間】!」
途端、僕らの体が引っ張られるようにして舞い上がり、空に放り出される!!
「「「うわぁぁあぁあああああぁぁああああ!?」」」
「悪いノティア、頼むさね!」
「なんでアリスさんまで驚いてますの! まったく――【飛翔】」
空高く放り上げられた僕とお師匠様を、ノティアが器用に拾い上げ、ゆっくりと地面に降ろしてくれる。
――あぁ、怖かった!!
「な、ななななんてことさせるんですかお師匠様!!」
「あははっ、悪い悪い! けど【収納空間】で空を飛べただろう? 空気を【収納】することで真空空間を作り出し、そこに集まる空気に、体を引っ張り上げてもらうんだよ。この前お前さんが海水を一気に【収納】したときに津波が出来たのと同じようなものさね」
「な、なるほど……ってぇ、いやいやいやこんなの使い物になりませんって! もし仮に使いこなせたとしても、周囲が大迷惑するでしょう!?」
飛翔『レース』というからには周りに競走相手がいるわけで、その人たちを巻き込んでしまう。
「ふむ……そう言えばそうさねぇ」
「そうさねぇじゃなくって!! もう大会には申し込んじゃったんですよ!?」
「安心おし」
お師匠様がニヤリと微笑む。
「奥の手がある」
…………嫌な予感しかしないのだけれど。
■ ◆ ■ ◆
平和のうちに、数日が過ぎた。
……いやまぁ、相変わらず『街』は治安が悪いし、西の森には魔物や盗賊が出てくるから僕、お師匠様、ノティアの3人で出撃なんかも度々したけれど。
正直僕はもう、僕単体でも盗賊やオーク、オーガ上位種なんかが相手でも軽々と首を狩れるようになった。思えば強くなったものだよ。
とは言えちょっと油断した途端、ゴブリンが飛ばしてきた弓に手足を射抜かれたりして、その度にベソをかきながらお師匠様に治癒してもらった。
僕は弱い。僕の強さはお師匠様とノティアのサポートがあったればこそだ。
慢心してはいけないのだ。
■ ◆ ■ ◆
「こ、これが王都……ッ!!」
「の、城門だけどね」
初めての王都に驚くシャーロッテに答える。
僕はまぁ、移築の為の家をもらい受けに、ノティアと一緒に何度も来ているから。
僕らがいまいるのは、王都の城門の外――入城待ちの行列の中だ。
メンバーは、お師匠様、ノティア、シャーロッテとそして僕。
使用人組はお留守番というかまぁ普通に屋敷の維持管理のお仕事だね。
行列がどんどんはけていき、やがて僕らの番になる。
「身分を証明するものを」
と衛兵さんに言われたので、ノティアがAランク冒険者のカードをかざして見せる。
「あ、あわわAランク冒険者様――というか『不得手知らず』様! どうぞどうぞお通りくださいませ!」
ノティアと一緒に何度も王都に来たけれど、毎回こんな感じ。
ノティアの冒険者証があれば、同行者もノーチェックで通してもらえる。
■ ◆ ■ ◆
「わぁ! ここが王都一のスイートルーム!? ってぇ……」
高級宿の部屋に入ったシャーロッテが、急に落ち着く。
「クリスの家と大差ないわね」
「うん……確かに」
……ミッチェンさん、いったいぜんたいどれほど高級な屋敷を僕にくれたんだ?
まぁいいや。
明日はいよいよ、レース大会当日。
***********************
次回、アリス・アインス師匠がクリスに授けた『奥の手』とは!?
「【西風神ゼフュロスよ・春と生命の司よ】」
「【我を暖かな風で風で包み込み・その身を浮かび上がらせよ】」
「【我を暖かな風で風で包み込み・その身を浮かび上がらせよ】」
「「――【浮遊】ッ!」」
西の森からほどよく離れた草原で。
ふたりして詠唱したにも関わらず、ノティアの体だけが、ふわりと浮き上がる。
ノティアはローブの裾を押さえながらふわふわ浮き上がり、空を泳ぐようなしぐさで、僕の周りを漂う。
「【飛翔】の前提となる魔法で、初級風魔法なんですけれどねぇ……」
「分かってたことさね。やはりこいつには、【無制限収納空間】以外の才能は無い。ゼロだ」
「分かってたならなんでやらせたんですかぁ!」
女性陣からの心無い罵倒に抗議するも、
「うふふ、泣き顔クリス君可愛い」
うっとり顔で僕を見つめるノティアと、
「はんっ、大の男がめそめそと」
ため息を吐くお師匠様。
……まるで取り合ってもらえない。
「だが、お前さんには【無制限収納空間】がある。ほれ、いっちょ空を【収納】してみな」
「はぁ? 空を、【収納】!?」
「そうさねぇ……【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】、【視覚共有】」
いつものやつが始まったので、僕は目を閉じる。
すると、お師匠様の視界の先で、僕らの上空で数十メートル四方くらい? の空間が薄っすら白く輝いている。
「ほれ、【収納】してみな」
「は、はい……【無制限収納空間】!」
途端、僕らの体が引っ張られるようにして舞い上がり、空に放り出される!!
「「「うわぁぁあぁあああああぁぁああああ!?」」」
「悪いノティア、頼むさね!」
「なんでアリスさんまで驚いてますの! まったく――【飛翔】」
空高く放り上げられた僕とお師匠様を、ノティアが器用に拾い上げ、ゆっくりと地面に降ろしてくれる。
――あぁ、怖かった!!
「な、ななななんてことさせるんですかお師匠様!!」
「あははっ、悪い悪い! けど【収納空間】で空を飛べただろう? 空気を【収納】することで真空空間を作り出し、そこに集まる空気に、体を引っ張り上げてもらうんだよ。この前お前さんが海水を一気に【収納】したときに津波が出来たのと同じようなものさね」
「な、なるほど……ってぇ、いやいやいやこんなの使い物になりませんって! もし仮に使いこなせたとしても、周囲が大迷惑するでしょう!?」
飛翔『レース』というからには周りに競走相手がいるわけで、その人たちを巻き込んでしまう。
「ふむ……そう言えばそうさねぇ」
「そうさねぇじゃなくって!! もう大会には申し込んじゃったんですよ!?」
「安心おし」
お師匠様がニヤリと微笑む。
「奥の手がある」
…………嫌な予感しかしないのだけれど。
■ ◆ ■ ◆
平和のうちに、数日が過ぎた。
……いやまぁ、相変わらず『街』は治安が悪いし、西の森には魔物や盗賊が出てくるから僕、お師匠様、ノティアの3人で出撃なんかも度々したけれど。
正直僕はもう、僕単体でも盗賊やオーク、オーガ上位種なんかが相手でも軽々と首を狩れるようになった。思えば強くなったものだよ。
とは言えちょっと油断した途端、ゴブリンが飛ばしてきた弓に手足を射抜かれたりして、その度にベソをかきながらお師匠様に治癒してもらった。
僕は弱い。僕の強さはお師匠様とノティアのサポートがあったればこそだ。
慢心してはいけないのだ。
■ ◆ ■ ◆
「こ、これが王都……ッ!!」
「の、城門だけどね」
初めての王都に驚くシャーロッテに答える。
僕はまぁ、移築の為の家をもらい受けに、ノティアと一緒に何度も来ているから。
僕らがいまいるのは、王都の城門の外――入城待ちの行列の中だ。
メンバーは、お師匠様、ノティア、シャーロッテとそして僕。
使用人組はお留守番というかまぁ普通に屋敷の維持管理のお仕事だね。
行列がどんどんはけていき、やがて僕らの番になる。
「身分を証明するものを」
と衛兵さんに言われたので、ノティアがAランク冒険者のカードをかざして見せる。
「あ、あわわAランク冒険者様――というか『不得手知らず』様! どうぞどうぞお通りくださいませ!」
ノティアと一緒に何度も王都に来たけれど、毎回こんな感じ。
ノティアの冒険者証があれば、同行者もノーチェックで通してもらえる。
■ ◆ ■ ◆
「わぁ! ここが王都一のスイートルーム!? ってぇ……」
高級宿の部屋に入ったシャーロッテが、急に落ち着く。
「クリスの家と大差ないわね」
「うん……確かに」
……ミッチェンさん、いったいぜんたいどれほど高級な屋敷を僕にくれたんだ?
まぁいいや。
明日はいよいよ、レース大会当日。
***********************
次回、アリス・アインス師匠がクリスに授けた『奥の手』とは!?
20
お気に入りに追加
334
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
俺の畑は魔境じゃありませんので~Fランクスキル「手加減」を使ったら最強二人が押しかけてきた~
うみ
ファンタジー
「俺は畑を耕したいだけなんだ!」
冒険者稼業でお金をためて、いざ憧れの一軒家で畑を耕そうとしたらとんでもないことになった。
あれやこれやあって、最強の二人が俺の家に住み着くことになってしまったんだよ。
見た目こそ愛らしい少女と凛とした女の子なんだけど……人って強けりゃいいってもんじゃないんだ。
雑草を抜くのを手伝うといった魔族の少女は、
「いくよー。開け地獄の門。アルティメット・フレア」
と土地ごと灼熱の大地に変えようとしやがる。
一方で、女騎士も似たようなもんだ。
「オーバードライブマジック。全ての闇よ滅せ。ホーリースラッシュ」
こっちはこっちで何もかもを消滅させ更地に変えようとするし!
使えないと思っていたFランクスキル「手加減」で彼女達の力を相殺できるからいいものの……一歩間違えれば俺の農地(予定)は人外魔境になってしまう。
もう一度言う、俺は最強やら名誉なんかには一切興味がない。
ただ、畑を耕し、収穫したいだけなんだ!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる