46 / 121
レッスン44「街 (6/7)」
しおりを挟む
「おう、聞いたぜ。西の森の隣にできた『街』の、警備任務依頼を発行したいんだって?」
城塞都市『外西地区』の冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋にて。
「はい。近頃、街で強姦、強盗、恫喝等の事件が多くて多くて……」
「条件は?」
「受注可能なのはEランク以上の冒険者」
「ゴロツキ相手っつってもれっきとした対人戦闘だ。妥当だな」
「報酬はEランクが1人1日10ルキ、Dランクが20ルキ、Cランクの人が受けてくれるかは分かりませんが……いたら30ルキ。1人捕まえるごとに10ルキ。寝泊まりするところは提供します。食事は提供しませんが、料亭や屋台ならたくさんあります」
宿の食堂もあるしね。
「破格じゃねぇか! 大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です」
もちろん、ミッチェンさんとも相談済だ。
ミッチェンさんは、この為のお金は全額商人ギルドが出すと言ってくれた。
最初は僕が出そうかと思っていたんだけれど、「お前さんが出す必要はないさね」ってお師匠様に止められたんだよね。
「その条件なら願ったり叶ったりだ。Eランクの小僧どもの、いい対人戦闘訓練になるしな!」
■ ◆ ■ ◆
「というわけでミッチェンさん、この前【収納】させて頂いた建屋を警備員用の詰め所として配置したいんですけど、置いていい場所を指定してもらえませんか?」
「おおっ、ついに警備員導入ですね!」
急ごしらえだった商人ギルド支部も、今や街の中心部で巨大な3階建ての建屋に成り代わっている。
その3階、支部長室でミッチェンさんと面会する。
どれだけ忙しくても、僕が来たらミッチェンさんは最優先で時間を空けてくれる。
いやはや頭が下がるね。
ミッチェンさんは街の計画地図を広げ、
「ずばり、ここですね」
街の中心点ともいえる猫々亭と、西の森東端の中間点――ちょうど、一番最初にテントや屋台が立ち並んでいた地点との境目当たりの、中央通り沿いを指さす。
「西の森は、浅いところでは一角兎くらいしか生息していないとは言え、魔物の棲み処であることに変わりはありません。西の森を睨みつつ街全体の治安を守るとなると、ここが理想的な立地かと」
「分かりました! じゃあ、行ってきますね」
「はい、よろしくお願い致します!」
■ ◆ ■ ◆
「ここですわね」
「うん」
中央通り沿いに歩くことしばし。
街道の先に見えるテントや屋台は、その数をだいぶ減らしている。
その分、東の方に広がる街に立派な建屋とともに移管されてるんだけどね。
「ではクリス君、移築対象の家屋を見せて頂いてもよろしくて?」
「うん――【目録】」
ノティアが僕の肩に触れ、もう何十回も行ったお決まりのルーチンを行う。
「【念話】――【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】」
ノティアが僕の【目録】越しに移築対象の家の面積、形状を把握し、
「【視覚共有】」
僕が土を掘り、基礎を築くべき範囲の土を視界の中で白く光らせる。
ノティアの視界を借りた僕は、
「【無制限収納空間】、【無制限収納空間】、【無制限収納空間】――」
慣れ親しんだ手順で穴を掘り、石を敷き詰め、セメントを流し込んで石畳を敷く。
「【火炎の壁】」
そしてノティアが焼き入れし、
「【無制限収納空間】!」
基礎の上に、2階建ての巨大な長屋が姿を現す。
「うふふ、もう息ぴったりですわね」
「あはは……ええと」
ノティアの攻勢を適当に受け流そうと言葉を選んでいると、
「「「「「うぉぉおおおおおッ!?」」」」」
背後で男臭い雄たけびが聞こえた。
「――な、なに!?」
慌てて振り向くと、そこにはいかにも駆け出しふうな冒険者の少年少女たちがたくさんと、少数のいっぱし風冒険者たちが立っていて、僕たちが見せた移築の魔法に興奮している様子だった。
「――あっ」
そして、その先頭に立っているのは、
「――エンゾ!?」
「え、えへへ……ご無沙汰してるっす。ここの警備の依頼を受けて来たっす」
■ ◆ ■ ◆
かつて僕を彼のパーティーから追放し――けれど、紆余曲折を経て和解した、エンゾ・ドナ・クロエたちEランクパーティー。
他にも、僕をさんざん殴って足蹴にして追放したD・Eランクパーティーたちが、総勢数十人ほど。
そして、
「へへ、世話になるぜ、依頼主サマ!」
筋骨隆々の偉丈夫、Cランクのベテラン冒険者・ベランジェさんが笑いかけてくる。
彼の後ろには、パーティーメンバーも一緒だ。
「あ、あはは……ど、どうもヨロシクオネガイイタシマス」
冷や汗が止まらない。エンゾといいベランジェさんといい、僕をさんざん罵倒して殴って殴って蹴って蹴って蹴って、地べたに這いつくばらせてくれた方々だ。
彼らは――僕が直接脅したエンゾたちを除けば――みな一様に、悪びれもなく立っている。
……まぁ、ここは魔王国から忘れられた辺境の地。
そして彼らは、明日をも知れぬ冒険者の身の上。
金になると知れば、過去のことなんて忘れて誰にだってすり寄って行くくらいのたくましさがなきゃ、生きていけない。
――僕も、腹をくくるとしよう。
これはビジネスだ。ドライに行こう。
***********************
ここまでお付き合い下さり誠にありがとうございます!!m(_ _)m
どうぞ、最後までお付き合い頂けれますよう、何卒宜しくお願い致します。m(_ _)m
次回、クリス、かつて自身をさんざんになじり殴り蹴り虐待してきた相手に対等以上に交渉する!!
城塞都市『外西地区』の冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋にて。
「はい。近頃、街で強姦、強盗、恫喝等の事件が多くて多くて……」
「条件は?」
「受注可能なのはEランク以上の冒険者」
「ゴロツキ相手っつってもれっきとした対人戦闘だ。妥当だな」
「報酬はEランクが1人1日10ルキ、Dランクが20ルキ、Cランクの人が受けてくれるかは分かりませんが……いたら30ルキ。1人捕まえるごとに10ルキ。寝泊まりするところは提供します。食事は提供しませんが、料亭や屋台ならたくさんあります」
宿の食堂もあるしね。
「破格じゃねぇか! 大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です」
もちろん、ミッチェンさんとも相談済だ。
ミッチェンさんは、この為のお金は全額商人ギルドが出すと言ってくれた。
最初は僕が出そうかと思っていたんだけれど、「お前さんが出す必要はないさね」ってお師匠様に止められたんだよね。
「その条件なら願ったり叶ったりだ。Eランクの小僧どもの、いい対人戦闘訓練になるしな!」
■ ◆ ■ ◆
「というわけでミッチェンさん、この前【収納】させて頂いた建屋を警備員用の詰め所として配置したいんですけど、置いていい場所を指定してもらえませんか?」
「おおっ、ついに警備員導入ですね!」
急ごしらえだった商人ギルド支部も、今や街の中心部で巨大な3階建ての建屋に成り代わっている。
その3階、支部長室でミッチェンさんと面会する。
どれだけ忙しくても、僕が来たらミッチェンさんは最優先で時間を空けてくれる。
いやはや頭が下がるね。
ミッチェンさんは街の計画地図を広げ、
「ずばり、ここですね」
街の中心点ともいえる猫々亭と、西の森東端の中間点――ちょうど、一番最初にテントや屋台が立ち並んでいた地点との境目当たりの、中央通り沿いを指さす。
「西の森は、浅いところでは一角兎くらいしか生息していないとは言え、魔物の棲み処であることに変わりはありません。西の森を睨みつつ街全体の治安を守るとなると、ここが理想的な立地かと」
「分かりました! じゃあ、行ってきますね」
「はい、よろしくお願い致します!」
■ ◆ ■ ◆
「ここですわね」
「うん」
中央通り沿いに歩くことしばし。
街道の先に見えるテントや屋台は、その数をだいぶ減らしている。
その分、東の方に広がる街に立派な建屋とともに移管されてるんだけどね。
「ではクリス君、移築対象の家屋を見せて頂いてもよろしくて?」
「うん――【目録】」
ノティアが僕の肩に触れ、もう何十回も行ったお決まりのルーチンを行う。
「【念話】――【赤き蛇・神の悪意サマエルが植えし葡萄の蔦・アダムの林檎――万物解析】」
ノティアが僕の【目録】越しに移築対象の家の面積、形状を把握し、
「【視覚共有】」
僕が土を掘り、基礎を築くべき範囲の土を視界の中で白く光らせる。
ノティアの視界を借りた僕は、
「【無制限収納空間】、【無制限収納空間】、【無制限収納空間】――」
慣れ親しんだ手順で穴を掘り、石を敷き詰め、セメントを流し込んで石畳を敷く。
「【火炎の壁】」
そしてノティアが焼き入れし、
「【無制限収納空間】!」
基礎の上に、2階建ての巨大な長屋が姿を現す。
「うふふ、もう息ぴったりですわね」
「あはは……ええと」
ノティアの攻勢を適当に受け流そうと言葉を選んでいると、
「「「「「うぉぉおおおおおッ!?」」」」」
背後で男臭い雄たけびが聞こえた。
「――な、なに!?」
慌てて振り向くと、そこにはいかにも駆け出しふうな冒険者の少年少女たちがたくさんと、少数のいっぱし風冒険者たちが立っていて、僕たちが見せた移築の魔法に興奮している様子だった。
「――あっ」
そして、その先頭に立っているのは、
「――エンゾ!?」
「え、えへへ……ご無沙汰してるっす。ここの警備の依頼を受けて来たっす」
■ ◆ ■ ◆
かつて僕を彼のパーティーから追放し――けれど、紆余曲折を経て和解した、エンゾ・ドナ・クロエたちEランクパーティー。
他にも、僕をさんざん殴って足蹴にして追放したD・Eランクパーティーたちが、総勢数十人ほど。
そして、
「へへ、世話になるぜ、依頼主サマ!」
筋骨隆々の偉丈夫、Cランクのベテラン冒険者・ベランジェさんが笑いかけてくる。
彼の後ろには、パーティーメンバーも一緒だ。
「あ、あはは……ど、どうもヨロシクオネガイイタシマス」
冷や汗が止まらない。エンゾといいベランジェさんといい、僕をさんざん罵倒して殴って殴って蹴って蹴って蹴って、地べたに這いつくばらせてくれた方々だ。
彼らは――僕が直接脅したエンゾたちを除けば――みな一様に、悪びれもなく立っている。
……まぁ、ここは魔王国から忘れられた辺境の地。
そして彼らは、明日をも知れぬ冒険者の身の上。
金になると知れば、過去のことなんて忘れて誰にだってすり寄って行くくらいのたくましさがなきゃ、生きていけない。
――僕も、腹をくくるとしよう。
これはビジネスだ。ドライに行こう。
***********************
ここまでお付き合い下さり誠にありがとうございます!!m(_ _)m
どうぞ、最後までお付き合い頂けれますよう、何卒宜しくお願い致します。m(_ _)m
次回、クリス、かつて自身をさんざんになじり殴り蹴り虐待してきた相手に対等以上に交渉する!!
33
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説

無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

異世界ハズレモノ英雄譚〜無能ステータスと言われた俺が、ざまぁ見せつけながらのし上がっていくってよ!〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
【週三日(月・水・金)投稿 基本12:00〜14:00】
異世界にクラスメートと共に召喚された瑛二。
『ハズレモノ』という聞いたこともない称号を得るが、その低スペックなステータスを見て、皆からハズレ称号とバカにされ、それどころか邪魔者扱いされ殺されそうに⋯⋯。
しかし、実は『超チートな称号』であることがわかった瑛二は、そこから自分をバカにした者や殺そうとした者に対して、圧倒的な力を隠しつつ、ざまぁを展開していく。
そして、そのざまぁは図らずも人類の命運を握るまでのものへと発展していくことに⋯⋯。
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる