上 下
42 / 42

40「人生最期の1分間」

しおりを挟む
「1分経ったわ。どう、いいねは減ってない!?」

 果たして――――……













































『減ってません!!』




 蹴鞠くんの、歓喜の声!

『やった、やった! 減ってませんよ!』

「はぁぁぁぁ……」

 私は思わず、その場に座り込んでしまった。いったん電話を切り、震える指でTwittooを操作する。例のアカウント、『favo_min』が、

「消えてる」

 除霊は、完遂されたのだ。
 今度は蹴鞠くんからの着信。

「もしもし」

『今、画面右上にずっと表示されていた残いいねも消えました!』

「例のアカウントも消えてたわよ」

『じゃあ、本当に!?』

「ええ。おめでとう! 申し訳ないのだけれど、クラスのみんなに情報連携と、いいね稼ぎの為に馬鹿な行動に出ないようにと言い含めておいてもらえる?」

『分かりました!』

 やはり、蹴鞠くんは頼りになるな。

『あのぅ……』切ろうとしたところで、蹴鞠くんが不安げな声で尋ねてきた。『僕達、本当に助かったんですよね……?』

「そうよ、大丈夫」本当だろうか。今また再び、『favo_min』が復活するのではないか? だが、それを彼に言って何になる。「大丈夫、大丈夫」

『はい!』

 今度こそ、通話を終了した。

 ――怪異は、解決した。
 正直、実感はない。が、どんな怪異現象も、終わりはいつもこのようなものなのだ。強大な悪霊との除霊バトルを演じたりとか、実はとんでもない陰謀が裏にあったりだとか……そんな、大衆向けホラー小説めいた展開は、現実にはあり得ない。




 ムーッ
      ムーッ
  ムーッ
       ムーッ




 その時、私のスマホに着信が来た。発信者は――

「かるたくん」

 ……そうだ。こちらの方にも、決着を付けなければ。

『もしもし』

 音が澄んでいる。その事で、私は『呪い』が確かに解決した事を確信する。

『ひどいですよ。さっきから何度も話し掛けているのに無視して』

「ごめんなさい。ごめんね、かるたくん」

『頼々子さん?』

「あのね、かるたくん。かるたくんのお陰で、『呪い』は解決出来たの。だからかるたくん、貴方はもう、眠ってもいいのよ。……どうか、安らかに。貴方は私にとって、大切な大切な弟だった」

『何を言っているんです? 今の頼々子さん、何だか変ですよ』

「ああ、あぁぁ……そう、か。キミはまだ、気付いていないのね」

 私はスマホを肩と耳で挟み、玄関ドアに歩み寄る。
 ドアにもたれかかっている人物を覆い隠していたジャケットを、外した。

『え? それ――

「そうよ」

 出てきたのは、かるたくん。
 眠る様に目を閉じたかるたくんの、遺体だ。

「貴方はもう、死んでいるのよ。昨日の深夜に、いいねが尽きて」



   💭   🔁   ❤×????



「…………え?」

 頼々子さんが、何やら変な事を言っている。僕がもう、死んでいる? 何をバカな事を――。

『どうしても信じられないのなら』電話越しに僕に話し掛けながら、頼々子さんが泣いている。はらはら、はらはらと泣いている。『あなたをこれ以上苦しめたくはないけれど……貴方のアカウントに、例の1分間動画が上がっているわ。でも、見ない方がいい。見ない方が……ねぇかるたくん、よく聞いて。貴方はこのまま通話を切って、目を閉じなさい。そうしたらきっと、次に目を開いた時には、天国にいるから』

 僕は、通話を切った。Twittooを開く。自分のページを開き、下へスワイプしていけば、

「あぁぁ……あぁぁああああぁあああああッ!!」

 ――あった。
 1分間動画。
 僕の、人生最期の1分間を綴った動画が!

 ……見ない方がいい。そう思った。見たら、絶対後悔する。
 ふと、顔を上げれば、頼々子さんが泣いている。泣きながら、きょろきょろと辺りを伺っている――僕を、探しているのだ。僕の姿が、見えていないのだ。
 震えが止まらない。怖い怖い怖い。でも、それでも僕は動画の再生ボタンを押した。『見たい』という欲求に抗えなかった。




『も・の・の・べ・くん』




 動画の中から、鈴の鳴るような可愛らしい声が聴こえてきた。
 星狩さんだ。動画の中の星狩さんが、ドアの前で座り込む僕に、キスをしている。
 あぁ、これが、星狩さんの声だったんだ。好きになった女の子の声を初めて聴くのが、こんな形になるなんて。
 キスをしながら、星狩さんの手が僕の首を絞め始める。動画の中で、僕の体が激しく抵抗している。

 その時、床に落ちたスマホから、青白い炎に包まれた腕が、飛び出してきた。

 全身が炭化してしまった州都すとさんの腕が、上半身がスマホから這い出してきて、僕の体にしがみつく。ジュッ、と音がして、動画の中の僕から湯気が立つ。

「――熱ッ!?」

 気が付けば、僕自身の足にも州都すとさんがしがみついている!

「く、クソッ! 離れろ、離れろや!!」

 スマホの角で州都すとさんの頭を殴ると、頭蓋がボロボロと崩れ落ち、中から出てきた脳ミソが真っ赤に燃え上がる。

「ミーコが」

 不意に、背後から声がした。

「ミーコがいないのぉぉおおおッ!!」

 猫目さんが、喉から鮮血を吹き出させながら、僕の顔を掻きむしってくる。

「ポチ……ポチは何処だ!?」

 今度は、目の前に犬飼くん。彼が僕の鼻に噛みつき、喰い破る。

「いぇ~い!」

 鼻から脳ミソを垂らした馬子が、僕の肩に腕を回してきた。馬子が僕に顔を寄せてツーショットを撮る。

「Foo⤴⤴ 死亡なう」

 僕は顔中血まみれで、しかも鼻が無くなってしまっている。




 気が付けば、僕は学校の屋上に立っている。




 すでにフェンスは越えていて、あと一歩踏み出せば真っ逆さまだ。

「ほら」

 右隣に出目さんが居た。

「両手に花だよ」

 左隣にはVの体をまとった馬肉さん。

 二人に背中を押され、僕は真っ逆さまに落ちていく。
 上下逆さになった世界の中で、
 的場まとばくんが、
  相曽あいそさんが、
   馬子まごが、
    長々おさながくんが、
     種田たねだが、
    江口えぐちさんが、
   州都すとさんが、
  寄道よりみちくんが、
 蝿塚はえづかさんが、
  猫目ねこめさんが、
   犬飼いぬかいくんが、
    写楽しゃらくさんが、
     魚ノ目うおのめくんが、
      山野やまのくんが、
       武威ぶいくんが、
 死んでいったみんなが窓の中から僕を見ている。

「物部かるたくん――いえ、カタルくん」

 目の前に、星狩さんが居る。彼女は僕と一緒に落下しながら、その可愛らしい声でもって、僕に宣告する。

「キミはいいねを失いました」

 星狩さんの手が僕の両頬を包み込む。

「キミにはたくさんたくさんお世話になったから、助けて上げたかったんだけど……ごめんね」

 星狩さんが、僕にキスをする。
 それから、凄惨に微笑んだ。

「ルールは、ルール」




 どちゃっ、という音とともに、僕の意識は途切れた。









































   💭   🔁   ❤×0000









































(出席番号1番)犬飼いぬかいつよし 原因不明の顔面裂創による出血性ショック死
(2) 魚ノ目うおのめ漁太りょうた 神戸沿岸での溺死
(3) 長々おさなが責夢せきむ 原因不明の頸部圧迫による窒息死
(4) 蹴鞠けまり太陽たいよう 存命
(5) 米里こめざと王斗おうと 存命
(6) 種田たねだ下太郎しもたろう 喉に異物を挿入されたことによる窒息死
(7) 八角はっかく浩太こうた 存命
(8) 花園はなぞの甲太郎こうたろう 存命
(9) 武威ぶい好太郎こうたろう 顔面陥没によるショック死(発見時、スマートフォンの画面が顔面奥深くまで潜り込んでいた)
(10) 馬子まごカズヤ 脳の損傷によるショック死
(11) 正岡まさおか棋士きし 存命
(12) 的場まとば射太郎しゃたろう 自傷行為による頭部陥没に伴うショック死
(13) 物部もののべかるた 原因不明の頸部圧迫による窒息死
(14) 山野やまののぼる 六甲山での滑落死
(15) 寄道よりみち鉄夫てつお JR三宮駅での轢死
(16) 相曽あいそ恵美えみ 急性心不全による死亡
(17) 天晴あまはる陽子ようこ 縊死(自死)
(18) 江口えぐち艶子つやこ 原因不明の窒息死
(19) 上江かみえつかさ 存命
(20) 越古こしふる玲亜れいあ 存命
(21) 写楽しゃらくまこと 六甲山での滑落死
(22) 州都すとさやか ※※鉄鋼株式会社神戸工場での焼死
(23) 出目でめあゆ 墜落死(自死)
(24) 猫目ねこめ直子なおこ 原因不明の頸動脈裂創による出血性ショック死
(25) 蝿塚はえづか映子えいこ 神戸市国道※号線上での轢死
(26) 馬肉ばにく美穂みほ 墜落死(自死)
(28) 舞姫まいひめ麻衣まい 存命
(29) 八坂やさかあおい 存命
(30) 四谷よつや眞子まこ 存命
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

ハッピー
2023.03.02 ハッピー

サブさんの作風を無茶苦茶感じました

解除

あなたにおすすめの小説

呪詛人形

斉木 京
ホラー
大学生のユウコは意中のタイチに近づくため、親友のミナに仲を取り持つように頼んだ。 だが皮肉にも、その事でタイチとミナは付き合う事になってしまう。 逆恨みしたユウコはインターネットのあるサイトで、贈った相手を確実に破滅させるという人形を偶然見つける。 ユウコは人形を購入し、ミナに送り付けるが・・・

狙われた女

ツヨシ
ホラー
私は誰かに狙われている

マネキンの首

ツヨシ
ホラー
どこかの会社の倉庫にマネキンがあった。

友達アプリ

せいら
ホラー
絶対に友達を断ってはいけない。友達に断られてはいけない。 【これは友達を作るアプリです。ダウンロードしますか?→YES NO】

村の愛玩動物

ツヨシ
ホラー
営業で走り回っていると小さな村に着いた。

ホラフキさんの罰

堅他不願(かたほかふがん)
ホラー
 主人公・岩瀬は日本の地方私大に通う二年生男子。彼は、『回転体眩惑症(かいてんたいげんわくしょう)』なる病気に高校時代からつきまとわれていた。回転する物体を見つめ続けると、無意識に自分の身体を回転させてしまう奇病だ。  精神科で処方される薬を内服することで日常生活に支障はないものの、岩瀬は誰に対しても一歩引いた形で接していた。  そんなある日。彼が所属する学内サークル『たもと鑑賞会』……通称『たもかん』で、とある都市伝説がはやり始める。  『たもと鑑賞会』とは、橋のたもとで記念撮影をするというだけのサークルである。最近は感染症の蔓延がたたって開店休業だった。そこへ、一年生男子の神出(かみで)が『ホラフキさん』なる化け物をやたらに吹聴し始めた。  一度『ホラフキさん』にとりつかれると、『ホラフキさん』の命じたホラを他人に分かるよう発表してから実行しなければならない。『ホラフキさん』が誰についているかは『ホラフキさん、だーれだ』と聞けば良い。つかれてない人間は『だーれだ』と繰り返す。  神出は異常な熱意で『ホラフキさん』を広めようとしていた。そして、岩瀬はたまたま買い物にでかけたコンビニで『ホラフキさん』の声をじかに聞いた。隣には、同じ大学の後輩になる女子の恩田がいた。  ほどなくして、岩瀬は恩田から神出の死を聞かされた。  ※カクヨム、小説家になろうにも掲載。

【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗
ホラー
――その幻想から、逃れられるか。 降霊術。それは死者を呼び出す禁忌の術式。 歴史を遡れば幾つも逸話はあれど、現実に死者を呼ぶことが出来たかは定かでない。 だがあるとき、長い実験の果てに、一人の男がその術式を生み出した。 降霊術は決して公に出ることはなかったものの、書物として世に残り続けた。 伍横町。そこは古くから気の流れが集まる場所と言われている小さな町。 そして、全ての始まりの町。 男が生み出した術式は、この町で幾つもの悲劇をもたらしていく。 運命を狂わされた者たちは、生と死の狭間で幾つもの涙を零す。 これは、四つの悲劇。 【魂】を巡る物語の始まりを飾る、四つの幻想曲――。 【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】 「――霧夏邸って知ってる?」 事故により最愛の娘を喪い、 降霊術に狂った男が住んでいた邸宅。 霊に会ってみたいと、邸内に忍び込んだ少年少女たちを待ち受けるものとは。 【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】 「どうか、目を覚ましてはくれないだろうか」 眠りについたままの少女のために、 少年はただ祈り続ける。 その呼び声に呼応するかのように、 少女は記憶の世界に覚醒する。 【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】 「……だから、違っていたんだ。沢山のことが」 七不思議の噂で有名な流刻園。夕暮れ時、教室には二人の少年少女がいた。 少年は、一通の便箋で呼び出され、少女と別れて屋上へと向かう。それが、悲劇の始まりであるとも知らずに。 【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】 「……ようやく、時が来た」 伍横町で降霊術の実験を繰り返してきた仮面の男。 最愛の女性のため、彼は最後の計画を始動する。 その計画を食い止めるべく、悲劇に巻き込まれた少年少女たちは苛酷な戦いに挑む。 伍横町の命運は、子どもたちの手に委ねられた。

#この『村』を探して下さい

案内人
ホラー
 『この村を探して下さい』。これは、とある某匿名掲示板で見つけた書き込みです。全ては、ここから始まりました。  この物語は私の手によって脚色されています。読んでも発狂しません。  貴方は『■■■』の正体が見破れますか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。