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37「真相」
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■■■8時過ぎ / 同じ旅館にて■■■
「いいね、まだ減り続けてるわよ!?」舞姫さんが絶叫する。「どういうことなの!?」
「そ、そんな――」言葉を失いかける私と、
「クソっ! コイツ、頼りにならねぇ!」
「やっぱり自分でいいね稼がねぇと!」
「信じてたのに……最悪」
次々と、旅館から出ていく2年4組のメンバー。
「待っ――」て、とは言えなかった。言う資格がなかった。
「ねぇ、どういうことなの刑事さん?」舞姫さんが詰め寄ってくる。
「わ、私だって――」分からない。が、それを言ってしまったら終わる。この捜査も、この子達からの信頼も。「くっ――」
だから私は電話を架ける。今一番『呪い』の近くにいるであろう彼――かるたくんに。ワンコール、ツーコール――
『も……し』
かるたくんが出てくれた。
「もしもし、かるたくん!? 」
が、電波が悪いのか音質が劣悪で、声が聴き取れない。スマホに耳を強く当てると、何やら金切声のような謎の騒音。
「頼子です。かるたくん、星狩良子の自殺告知ツイートにクラス全員のいいねを付けたんだけど、『呪い』が止まらないの!」
『え……そ…な……』
「星狩良子はまだそばにいるの!? いるなら彼女から、本当の解呪方法を聞き出して頂戴!」
💭 🔁 ❤×????
「わ、分かりました」
あれから僕は、あてども無く住宅街をさまよい歩いていた。家の中には入れないし、旅館に戻るにはあまりに忍びなかった。
『……ねぇ、ところで』電話口の向こうで、頼々子さんが言う。『この不気味な音は、何? 金切声みたいな――』
「え? 何のことです?」
ここは閑静な住宅街。時々通勤・通学する人とすれ違うけれど、『金切声』なんて聴こえてこない。
ふと、振り向く。僕の放浪に付いて来ていた星狩さんだが、今も付いて来ているか不安になったからだ。すると――
「ヒッ――」
すぐ背後に、狂気に彩られた笑みを浮かべた星狩さんがいた。声が出せるなら、けたたましい笑い声でも上げているところだろう。
僕は思わずスマホを取り落とす。次に拾った時、通話は途切れてしまっていた。
……まぁ、いい。
「なぁ、星狩さん」僕は星狩さんと向かい合う。「呪い、止まってへんのやって。星狩さんが教えてくれた『願望』は、生前最期の『後悔』は、ウソやったん?」
『ウソじゃないよ』とスマホへ高速で打鍵する星狩さん。
「でも、呪いは止まってへんって」
『ねぇ、カタルくん』
「…………え?」
『どうしてあの時、いいねくれなかったの?』
「カタルって――…」
『キミは、首を吊ろうとした私を、必死に止めてくれたよね。みんなが「さっさと死ね」ってコメントする中で、キミだけが私を止めてくれて――私、嬉しかったんだよ』
「おい、やめろや……」
『なのにどうして、私の自殺告知ツイートにいいねをくれなかったの!?』
「やめろ!!」
僕は尻もちをつく。そうしてついに、僕は認めざるを得なくなる。
「そうか……やっぱり星狩さんは、スターハントさんやったんか」
■■■8時過ぎ / 同じ旅館にて■■■
かるたくんとの通話が切れてしまった。もう一度ダイヤルするも、『電波が届かない場所にいるか、または電源が入っていないため――』となった。
「そうだ、リストの見直しを――」
今ここで、私にできることは少ない。ならばせめて、いいね漏れが無いかの見直しを行おう。
「あの……刑事さん?」エントランスのソファでノートPCを広げていると、蹴鞠くんがPCを覗き込んできた。「これ、物部くんが抜けているように見えるんですけど」
それは、そうだ。だってかるたくんは、星狩良子が自死したあとに2年4組にやって来た。それにかるたくんは――星狩良子に操られていたとは言え――彼女に好意的に接してきた。彼女には、かるたくんに対する恨みはないはずだ。そんなかるたくんを、星狩良子が『呪い』に組み込むとは思えない。
そういう旨の説明をすると、
「でも、試す価値はあるでしょう。彼のスマホにも残いいねが表示されていたのは確かなんですし。それに……」蹴鞠くんが言いよどむ。
「ん? どうしたの?」
「ええと、これは刑事さんには言い難いのですが……」
「――刑事さん、あんなやつ、何でそんなに信じられるんだ?」
ふと、底冷えするような声。
「キミは――米里くん」
星狩良子の席に毎朝欠かさず花を供えていた少年。星狩良子の自殺の契機と考えられる、『いいねされなきゃ生きてる価値は無い』という言葉をぶつけた人物。
「刑事さんの前ではどんな顔してるのか知らねぇけどよ、あいつ、ロクでもないやつなんだぜ? だって――」
そうして米里くんが、衝撃的な言葉を口にする。
「出目の死体を真っ先に晒し上げたのも、あいつなんだぜ?」
「え――――……」
かるたくんはメールでのやりとりで、死体晒し上げツイートをしていいねを稼ぐクラスメイトたちのことを悪し様に語っていた。『僕は小説宣伝ツイートでいいねが稼げるので大丈夫ですけど』とも。
私がそのことを口にすると、
「ははっ、やっぱりあいつ、頭おかしいよ」米里くんが嘲笑した。「ほら、あいつのTwittoo見てみろよ、刑事さん」
次々と出てくる、死体晒しのツイートや、死に際の1分動画のリツイート。かるたくんが『浅ましい』と罵っていた行為そのものだ。
「ど、どういうこと……?」
「刑事さん、アンタ、騙されてたんだよ」
「そ、そんなはずは――」
「いや、騙すよりももっとたちが悪いかもしれないな。ほら、見てみろよコレ」
米里くんが見せてきたのは、かるたくんの、自作ホラー小説宣伝ツイート。
💭 0 🔁 0 ❤ 1
「……………………は?」
かるたくんは、
『自作小説の人気は上々』
『フォロワーが200人以上いる』
『宣伝ツイートは毎回必ず100いいねが付く』
と言っていた。だから『呪い』は大丈夫なのだ、と。だから私は、彼に対して優先的にいいねは付けなかった。他の、よりいいねの少ない子たちを優先させるように指示したのだ。
それが、たったの、1いいね?
「きっとアイツ、自分のことも騙してるんだ。転校してくる前から――星狩に憑りつかれる前から、とっくに狂ってたんだよ」
……分からない。
かるたくんの、気の弱そうな、それでいて人懐っこい笑顔。
ちょっとびっくりするくらい奥手で、何年たっても私のことを名前で呼ぶことが出来ず、『頼々子さん』と恥ずかしそうに呼んでくるかるたくん。
あの子には一体、何が視えているの?
あの子の目には、世界はどう映っているの――?
「いいね、まだ減り続けてるわよ!?」舞姫さんが絶叫する。「どういうことなの!?」
「そ、そんな――」言葉を失いかける私と、
「クソっ! コイツ、頼りにならねぇ!」
「やっぱり自分でいいね稼がねぇと!」
「信じてたのに……最悪」
次々と、旅館から出ていく2年4組のメンバー。
「待っ――」て、とは言えなかった。言う資格がなかった。
「ねぇ、どういうことなの刑事さん?」舞姫さんが詰め寄ってくる。
「わ、私だって――」分からない。が、それを言ってしまったら終わる。この捜査も、この子達からの信頼も。「くっ――」
だから私は電話を架ける。今一番『呪い』の近くにいるであろう彼――かるたくんに。ワンコール、ツーコール――
『も……し』
かるたくんが出てくれた。
「もしもし、かるたくん!? 」
が、電波が悪いのか音質が劣悪で、声が聴き取れない。スマホに耳を強く当てると、何やら金切声のような謎の騒音。
「頼子です。かるたくん、星狩良子の自殺告知ツイートにクラス全員のいいねを付けたんだけど、『呪い』が止まらないの!」
『え……そ…な……』
「星狩良子はまだそばにいるの!? いるなら彼女から、本当の解呪方法を聞き出して頂戴!」
💭 🔁 ❤×????
「わ、分かりました」
あれから僕は、あてども無く住宅街をさまよい歩いていた。家の中には入れないし、旅館に戻るにはあまりに忍びなかった。
『……ねぇ、ところで』電話口の向こうで、頼々子さんが言う。『この不気味な音は、何? 金切声みたいな――』
「え? 何のことです?」
ここは閑静な住宅街。時々通勤・通学する人とすれ違うけれど、『金切声』なんて聴こえてこない。
ふと、振り向く。僕の放浪に付いて来ていた星狩さんだが、今も付いて来ているか不安になったからだ。すると――
「ヒッ――」
すぐ背後に、狂気に彩られた笑みを浮かべた星狩さんがいた。声が出せるなら、けたたましい笑い声でも上げているところだろう。
僕は思わずスマホを取り落とす。次に拾った時、通話は途切れてしまっていた。
……まぁ、いい。
「なぁ、星狩さん」僕は星狩さんと向かい合う。「呪い、止まってへんのやって。星狩さんが教えてくれた『願望』は、生前最期の『後悔』は、ウソやったん?」
『ウソじゃないよ』とスマホへ高速で打鍵する星狩さん。
「でも、呪いは止まってへんって」
『ねぇ、カタルくん』
「…………え?」
『どうしてあの時、いいねくれなかったの?』
「カタルって――…」
『キミは、首を吊ろうとした私を、必死に止めてくれたよね。みんなが「さっさと死ね」ってコメントする中で、キミだけが私を止めてくれて――私、嬉しかったんだよ』
「おい、やめろや……」
『なのにどうして、私の自殺告知ツイートにいいねをくれなかったの!?』
「やめろ!!」
僕は尻もちをつく。そうしてついに、僕は認めざるを得なくなる。
「そうか……やっぱり星狩さんは、スターハントさんやったんか」
■■■8時過ぎ / 同じ旅館にて■■■
かるたくんとの通話が切れてしまった。もう一度ダイヤルするも、『電波が届かない場所にいるか、または電源が入っていないため――』となった。
「そうだ、リストの見直しを――」
今ここで、私にできることは少ない。ならばせめて、いいね漏れが無いかの見直しを行おう。
「あの……刑事さん?」エントランスのソファでノートPCを広げていると、蹴鞠くんがPCを覗き込んできた。「これ、物部くんが抜けているように見えるんですけど」
それは、そうだ。だってかるたくんは、星狩良子が自死したあとに2年4組にやって来た。それにかるたくんは――星狩良子に操られていたとは言え――彼女に好意的に接してきた。彼女には、かるたくんに対する恨みはないはずだ。そんなかるたくんを、星狩良子が『呪い』に組み込むとは思えない。
そういう旨の説明をすると、
「でも、試す価値はあるでしょう。彼のスマホにも残いいねが表示されていたのは確かなんですし。それに……」蹴鞠くんが言いよどむ。
「ん? どうしたの?」
「ええと、これは刑事さんには言い難いのですが……」
「――刑事さん、あんなやつ、何でそんなに信じられるんだ?」
ふと、底冷えするような声。
「キミは――米里くん」
星狩良子の席に毎朝欠かさず花を供えていた少年。星狩良子の自殺の契機と考えられる、『いいねされなきゃ生きてる価値は無い』という言葉をぶつけた人物。
「刑事さんの前ではどんな顔してるのか知らねぇけどよ、あいつ、ロクでもないやつなんだぜ? だって――」
そうして米里くんが、衝撃的な言葉を口にする。
「出目の死体を真っ先に晒し上げたのも、あいつなんだぜ?」
「え――――……」
かるたくんはメールでのやりとりで、死体晒し上げツイートをしていいねを稼ぐクラスメイトたちのことを悪し様に語っていた。『僕は小説宣伝ツイートでいいねが稼げるので大丈夫ですけど』とも。
私がそのことを口にすると、
「ははっ、やっぱりあいつ、頭おかしいよ」米里くんが嘲笑した。「ほら、あいつのTwittoo見てみろよ、刑事さん」
次々と出てくる、死体晒しのツイートや、死に際の1分動画のリツイート。かるたくんが『浅ましい』と罵っていた行為そのものだ。
「ど、どういうこと……?」
「刑事さん、アンタ、騙されてたんだよ」
「そ、そんなはずは――」
「いや、騙すよりももっとたちが悪いかもしれないな。ほら、見てみろよコレ」
米里くんが見せてきたのは、かるたくんの、自作ホラー小説宣伝ツイート。
💭 0 🔁 0 ❤ 1
「……………………は?」
かるたくんは、
『自作小説の人気は上々』
『フォロワーが200人以上いる』
『宣伝ツイートは毎回必ず100いいねが付く』
と言っていた。だから『呪い』は大丈夫なのだ、と。だから私は、彼に対して優先的にいいねは付けなかった。他の、よりいいねの少ない子たちを優先させるように指示したのだ。
それが、たったの、1いいね?
「きっとアイツ、自分のことも騙してるんだ。転校してくる前から――星狩に憑りつかれる前から、とっくに狂ってたんだよ」
……分からない。
かるたくんの、気の弱そうな、それでいて人懐っこい笑顔。
ちょっとびっくりするくらい奥手で、何年たっても私のことを名前で呼ぶことが出来ず、『頼々子さん』と恥ずかしそうに呼んでくるかるたくん。
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