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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」

60(653歳)「ぼく れべりんぐ したい!」

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 そして2年の年月が流れた……漫画の最終回とかじゃなくて、実際に流れたよ!
 季節は、初春。

 この2年で、王国中を飛び回って魔物退治やら盗賊団討伐やら飢饉の解消やら街ごと疫病の治療やら、城壁修復・街道整備・河川整備・橋梁工事・井戸掘りと土木工事業者のようなことやらをひと通りやり尽した。
 だって、いつどこの冒険者ギルドに顔を出しても、陛下だの領主様だのの名前で緊急指名依頼が発行されてるんだもの。

 そのおかげで私の知名度はうなぎ登り。
 付いた称号は、

【竜殺し】
【王国の守護者】
【聖剣に認められし者】
【癒しの天使】
【恵みの天使】
【豊穣の女神】
【農耕神】
【井戸掘り名人】
【一夜城】
【歩いたところが道になる人】
【衛生の賢者】
【鐙の賢者】
【相場破壊神】
【常識破壊神】
【化粧業界破壊神】
【はちみつレモン】
【コンクリートの母】
【魔法教本の母】
【栄養学の母】
【蒸留酒の母】
【羅針盤の母】
【顕微鏡の母】
【ゴム長の母】
【銀行の母】
【経済学の母】
【ファンデーションの母】
【ベアリングの母】
【ボードゲームの母】
【カードゲームの母】
【絵本の母】
【ミニスカートの母】

 と多岐に渡る。

 ――そう、膝丈ミニスカート、地味に流行りつつあるのだ!
 街を歩くと、膝丈はまだまだ少なくても、すねくらいの丈……カーテシーしても引きずらない程度のスカートはよく見かけるようになった!
 やったぜ!

 そして、オセロ以外にもカードゲームとボードゲームを流行らせに流行らせまくった。娯楽チート発動!! いやぁ楽しかった!!

 各領主様たちとお会いし、7割ほどの方々からはおおむね好意的に受け入れられ、領主邸や各ギルドに私の従魔ブルーバードちゃんを常駐させてもらい、『アフレガルド王国対魔物警戒網』はほぼ完成。
 一部強硬な内務閥と他ならぬ実家――ロンダキルア辺境伯――には受け入れてもらえず、そういうところは行政府ではなく各ギルドに従魔ブルーバードを置かせてもらっている。

 特にロンダキルア辺境伯様からの嫌われっぷりったらマジパネェ。私が何したってんだよ……結構いろいろしたな! 『破壊神』系の称号3つも持ってるし、塩の相場も破壊した。あ、もちろん失職した人は全員新産業へご案内したよ!?
 あと『強硬な内務閥』ってなんだよ……『過激な平和主義者』くらいに変な言葉だな!

 冒険の合間、フェッテン殿下とはひと月に1回くらいの頻度でデートしてる。
 実質王太子殿下となったフェッテン殿下が城下町に繰り出すわけにはいかないので、王城内でお茶したり、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】内で狩りしたり(城下町に繰り出すよりひでぇや)。

 今世の私ももう7歳。数え年だから実質6歳だけど、6歳といえば小学1年生! 二次性徴期にゃまだ3、4年早いけど、じょじょに女の子っぽさが出てくる年頃だ。
 自分で言うのもなんだけど、成長するにつれ絶世の美少女になりつつある私を見て、殿下は毎回大喜びだよ。
 そりゃそうか。私だって男だったらこんな美少女と付き合いたいわ。
 そして、ますます男らしさが出てきたフェッテン殿下……じゅるり。

 そして、最近、一番気になっているのが――

「おねぇさま」

「んーなぁに、ディータ?」

 可愛い弟・ディータきゅん4歳!(実質3歳)
 可愛いんだよねぇ……最近、2つ3つの単語をつなげて喋れるようになってきたんだよ。ウチの弟はテンサイかもしれない……この甘々な笑顔を見ているだけで高純度な砂糖が精製できそうだ。

「わんわん わんわん つよい?」

「強いよぉ~わんわん強い」

 じたくの自室にて、ディータがチビによじ登ろうとしてる。勝手知ったるチビは香箱座りして――ネコかおまいさんわ。でも犬ってマジで香箱座りするんだよ――ディータが登りやすいようにする。

「どのくらい つよい? ゴブリンより つよい?」

「強いねぇ。ゴブリンなんざエンペラーが来たってしゅんころだよ」

「しゅんころ?」

「一瞬で殺せる」

 幼児相手になんてこと教えてんだって話ではあるものの、ここは魔物があふれ返る死地であり、日頃フェンリルたち従魔と戯れる機会の多いディータには、『魔物殺すべし慈悲はない』と、某忍者モノのような情操教育を施す方向で、パパン・ママンとも一致している。
 魔物殺すの可哀そう……などと言っていては、砦と壁を守る務めは果たせないからね。
 チビたちは大切な家族であると同時に、魔物や魔族と戦うための武器でもある。そのことは忘れちゃいけない。

「オークよりも つよい?」

「強いねぇ」

「しゅんころ? しゅんころ?」

「うんうん、しゅんころ」

「オーガは?」

「もちろんしゅんころさ」

「ドラゴンは? ドラゴンは?」

「しゅんころだよ」

「きゃぁ~~~~!」

 何かがツボにはまったらしい。チビの背中で手をバンバン叩いてる。

「ねぇ どうして つよいの?」

「そりゃレベリングしたからだよ」

 チビはすでにレベル400。おりチームの面々も、レベル500まで上げてきた……フェッテン殿下がマジで私以上のレベル600後半まで上げてきたことに、いたくプライドを刺激されたらしい。

 マジでフェッテン殿下、強すぎる。【首狩りアイテムボックス】その他の確殺系手段を封じた私では最近、勝てなくなってきてる。【片手剣術】と【闘気】はLV10カンストとのこと。
 逆に私の【片手剣術】は未だに6。まぁエクスカリバー込みなら9だからいいんだけどさ……。
 私ってつくづく【首狩りアイテムボックス】と【瞬間移動】頼みというか、トリッキーな戦い方しかできないんだよねぇ。

「れべりんぐ したら つよく なれる?」

「なれるよ。ディータだって、あっという間に強くなれる。お父様とお母様の子供だし、私の弟なんだから」

「おねぇさま みたく つよく なれる?」

「もちろん」

「おねぇさま!」

 突然、ディータが『僕は覚悟を決めた!』みたいな表情になった。

「ぼく れべりんぐ したい!」


    ◇  ◆  ◇  ◆


「ってことなんですがお父様」

 パパンとママンの寝室にて。パパンは練兵場から、ママンは城塞都市の仕立屋から連れて来た。ディータも連れて来ている。
 ちなみにママン、【マーメイドラインドレスの母】っていう称号持ちらしい。

「うーん……考えてみりゃディータももう、アリスが本格的に活動を始めた4歳と同い歳か。どうせ『お披露目会』がある来年の春までには事情を説明し、300くらいまでは上げようと考えていたんだ。1年早まったが、こういうのは本人のやる気があった方がいい。マリアもいいな?」

「はい」

 笑顔のママン。
 どうせあの安全なレベリング部屋で安全に養殖するんだ。不安はないんだろう。

「いつからやります?」

「父さんは明後日からでもいけるぞ? そのためのバルトルトだ」

 バルトルトさんェ……可哀そうに。

「じゃあちょっと、今から陛下に相談してきます」


    ◇  ◆  ◇  ◆


 フェッテン殿下の部屋の隣、『アリス部屋』へ【瞬間移動】し、ノックするとすぐに出てくるフェッテン殿下。

「会いに来てくれたのか!?」

「ご、ごめんなさいぃ……陛下に謁見させて頂きたくて。あ、でももしよければフェッテン様、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】でデートします? 私の家族と一緒にはなっちゃいますけど」

 満面の笑みの殿下――もといフェッテン様。
 この2年の間に、な、名前呼びするようになったんだよね……なんか距離が縮まったみたいでドキドキする。
 本人は『様もいらない』って言ってるけど、いやいやいやいやさすがにそれはないでしょ。よしんばふたりきりの時にそう呼んだとして、人前でそのクセが出たら非常にまずいし。


    ◇  ◆  ◇  ◆


「というわけで、明後日から数日間、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】で弟のレベリングを行いたいのです。そこまで緊急を要する指名依頼は出ていなかったかとは存じますが、ワガママを聞いて頂けますでしょうか?」

「よいよい。儂や各領主たちにとっても、『アリスなし行政』を思い出す良い機会じゃ。儂も人のことは言えんが……皆、困ったことはアリスたちのパーティーに頼めばなんとかしてもらえると思っとる節があるからのぅ」

「あ、あははは……」

『アリスなし行政』って……私ゃインフラ設備か何かか。

「ただ、本当の緊急時には呼び出させてもらうからな?」

「それはもちろんです」

「パーヤネン女準男爵とフェンリス騎士爵には、『たまには職場に顔を出してやれ』と伝言を頼めるかの?」

「畏まりました!」

 というわけで久々の連休ゲット!


    ◇  ◆  ◇  ◆


 ホーリィさん、ノティアさん、リスちゃんに事情を説明し、自室に戻ってきた。
 正確には、砦上空に【瞬間移動】し、自室を【探査】した上で自室へ【瞬間移動】。そうしないと、たまたま部屋にいた誰かとごっちんこするかもしれないから。部屋を掃除してくれてるメイドさんとかね。
 
 で、部屋を出てパパンとママンの寝室に向かい、ノックしてから入る。

「それでな、これは本当に大事で、ナイショのお話なんだが……お姉様はな、【勇者】なんだ!」

「ゆーしゃ!?」

 ちょうどパパンがディータに『事情説明』している最中のようだった。

「おねぇさま ゆーしゃ!?」

 とてとてと駆け寄ってきて、私に抱きつくディータ。

「そうだよぉ~、お姉様、勇者なの。でもこの話はナイショ。お父様とお母様とお姉様と、ディータだけのナイショだよ」

 ……まぁ正確には、明後日合流するフェッテン様もご存じだが。

「ナイショ! ナイショ!」

 力いっぱいジャンプしながら喜ぶディータ。かわえぇのぅ……。

 ちなみになぜディータが勇者のことを知っているかというと、先代勇者様の伝承を元に、私がいくつか絵本を作ったからだ。

 なまじひとり目の子供が私だった所為せいか、ママンがディータを寝かしつける時に魔法教本を読み上げようとするものだから……私が慌てて製紙・製本屋のアルフォートさんにお願いして絵本を刷ってもらったんだよね。

 イラストは私がつけた。いや、絵心なんて全然ないけど、【おもいだす】で昔読んだ絵本とか漫画とかのイラストをウィンドウに表示させ、それをトレースして【アイアンウォール】でイラストの活版を作成し、アルフォートさんへ提供した。

 アルフォートさん、目からウロコのような表情をしていたけど、残念ながら魔法なしでのイラスト活版はちと難易度が高いかもね……まぁ芋版と同じと考えれば、できないこともないかもしれないけど……。
 インクジェットプリンターとか、造れないかしら。


    ◇  ◆  ◇  ◆


 というわけで、恒例の【契約】でディータに部屋のことを他言無用にした上で、【1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】の中へ。

1日が100年になるワンハンドレット・部屋ルーム】内での1日目(数十年分)の話は、正直あまりしたくない……。
 だって4歳児(実質3歳児)に魔物を殺すように強要したり、ディータきゅんがレベルアップ酔いで苦しんだり……。できるだけ低レベルな魔物を拾ってきて順次レベルを上げていったけど、酔わないわけじゃない。
 いつも人や従魔がレベルアップ酔いでのたうち回ってるのを笑って見てるじゃんって? うん、それはまぁそうなんだけど……ガチ幼児でしかも実の弟相手ってのは正直キツかったよ。

 とはいえ初日を終える頃にはディータのレベルは200を越え、王国の歴史を流暢な言葉でそらんじられるようになり、全属性の聖級魔法までを習得し、【アイテムボックス】も【瞬間移動】も【飛翔】も【グロウ】も【発酵】も使えるようになっていた。

 パパンとママンの遺伝子は伊達ではない!

 ついでに言うと。
 計5日間の養殖から明けたディータは、【片手剣術】がLV7になってた。
 わ、私のレベルを超えるなんて……っていうか私の剣術の才能、なさすぎィ!





*******************************************
追記回数:4,649回  通算年数:960年  レベル:691

次回、「そして、3年後――」。
第1章最終回まで、あと 7 話。
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