「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
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第1章 「私が初めて殺されるまでの話」
50(414歳)「初仕事はベアリング発明」
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私がギルマス部屋(2階)から降りてくると、ガヤガヤしてたギルドホールが、
シーン……
「ひぅっ」
一斉に集まった視線に、思わず悲鳴を飲み込む。
「じょ、嬢ちゃん……」
おずおずといった様子で、さっき私に殴りかかってきた冒険者さんが頭を下げてきた。
「さっきは悪かったな……昨日、依頼を失敗しちまってイライラしてたんだ」
「い、いえいえこちらこそ、投げ飛ばしちゃってごめんなさい」
「それでよ、さっき解体場から逃げてきたやつに聞いたんだが……じょ、嬢ちゃんが伝説の魔獣をいくつも納入したって?」
「はい。【アイテムボックス】! ――ほら」
地竜の頭をコンニチハ。
「「「「「「ぎゃぁぁあああああああ!?」」」」」」
いかん、茶目っ気のつもりが、冒険者さんたちとギルド職員さんたちをビビらせてしまった。
「えへへ……父と母に鍛えて頂いたもので」
「ま、ま、まさか……金髪碧眼、城塞都市の冒険者ギルドに伝説の魔獣を納入しまくり、魔法教本を流行らせて冒険者の質を底上げしたっていう……宙に浮いてこそいねぇが……」
あぁ、やっぱり私の定義って『宙に浮いてる子供』なのね。
しかし私や魔法教本のウワサって、王都にまで届いてるんだねぇ。
「ジークフリート・フォン・ロンダキルアの娘、アリス・フォン・ロンダキルアと申します」
言ってその場で礼。今日はスカートじゃないので男性用の礼だけど。
「「「「「「おぉぉおおおおおお!!」」」」」」
「ひっ!?」
「アリス様! 教本、魔法教本を売ってください! ここじゃいっつも売り切れで……」
最初に話しかけてきた冒険者さんが懇願してくる。
「あたしにも売ってほしいです!」
「俺も!」
お、おおお……。
あいにく【アイテムボックス】内には1冊しか入ってないんだよねぇ。
「じゅ、10分待ってて頂けますか?」
「「「「「「…………は?」」」」」」
「城塞都市から持ってきますので。――【瞬間移動】!」
◇ ◆ ◇ ◆
「おはようございまーす」
アルフォートさんの製紙・製本工場――工場っていっても機械設備はないけどね――に入ると、
「「「「「おはようございまーす!」」」」」
女性職員のみなさん――というか職員は全員女性――から元気なお返事が。挨拶しながらも手は止めない。んむ、教育が行き届いておるようじゃな。
「これはこれはアリス様! どうかなさいましたか?」
奥の事務室からアルフォートさんが飛び出してきた。
「急にすみません。魔法教本と聖書セット、在庫はどれだけありますか?」
「昨晩〆た時点で320セット、うち100セットにはすでに予約が入っています」
「その220セットを今すぐ私に売って頂くことってできますか? 王都の冒険者さんたちが欲しがってて」
「他ならぬアリス様のご要望とあらば。倉庫へ参りましょう」
「ありがとうございます!」
ということで現金220万ゼニスを支払い、在庫を【アイテムボックス】へ。
◇ ◆ ◇ ◆
「お待たせしました~」
「「「「「「!?」」」」」」
果たして冒険者さんたちはちゃんと待っててくれた。
「う、ウワサ通り、本当に【瞬間移動】が使えるんですね……それも王都と城塞都市間でなんて……」
最初に話しかけてきた冒険者さんが話しかけてくる。
「えへへ。【アイテムボックス】!」
そばのテーブルの上に、220冊の魔法教本・聖書セットをどんっと置く。
もともと持ってた1冊は私が見本用とかに使ってて中古品になるから、売り物にするのは忍びない。
そういえば今まで明言はしてなかったけど、『セット』と言いつつ本は1冊になっている。魔法教本と聖書を上下逆さまに印刷していて、ある面から読めば魔法教本に、裏返して読めば聖書になる。
「「「「「「な、ななな……」」」」」」
「1冊1万ゼニス! おひとり1冊までです!」
そして戦争が始まった。
◇ ◆ ◇ ◆
「騒がしいと思って来てみれば……嬢ちゃんの仕業かい」
ギルド職員さんにも手伝ってもらいながら売り捌いていると、ギルマスさんが下りて来た。
「仕業だなんてそんな。冒険者さんたちの生存率向上に貢献してるんですよ」
接客しながら答える。価格は一律1万ゼニスなのでカンタンだ。
ちょっと失礼かもしれないけど、相手がギルマスさんなら冒険者さんたちも悪くは思わないだろう。
「そりゃちげぇねえが……」
「ところで私、依頼を受けに行きたいんですけど……このまま、ギルド職員さんたちに販売をお願いしちゃダメでしょか?」
「はぁ? ちょっ、お前、自分でこの状況を作っておきながら!?」
「販売益と売れ残った本は全てギルドに寄付しますので。お願いします!」
「はぁ~……城塞都市の各ギルドマスターから何度も教えられていたが、嬢ちゃんにゃ大人を振り回すクセがあるってのは本当のことらしいな」
「えへへ……」
すみません……自覚はあります。
「わぁったよ、ほら行け」
「ありがとうございます!」
優しいギルマスさんで良かったよ。
◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、戦争の横で依頼ボードを眺める。身長が足りないから【浮遊】しながら。
異世界物によくある、依頼内容の書かれた羊皮紙が釘で打たれているやつだね!
ファンタジー!
「じゃあGランクらしく荷運び依頼を……染物工房で水汲み?」
羊皮紙を千切り取って受付へ持って行く。
受付嬢さんは、この戦場を生み出した張本人が平然と別のことをしてることに引きつり笑いしてた。
すみません……そこについても、自覚はあります。
◇ ◆ ◇ ◆
「というわけで、やって参りました王都工房街の染物工房!」
扉をノックすると、
「あんだぁ? この忙しい時に……あん?」
男性――依頼主?――が出てきたが、視線の先には誰もいない。
「すみません、下です」
「うぉっ、なんだぁ坊主? いや女?」
「Gランク冒険者のアリスと申します」
依頼書を見せると、
「随分幼い上に、アリスっていや女の子か! 力仕事だ、冷やかしは――っても受けちまった以上は追い返すわけにもいかねぇか……」
私が依頼失敗にならないよう配慮してくれてるらしい。
優しい人のようだね。
というわけで、工房の中に招いて頂いた。
◇ ◆ ◇ ◆
「ご覧の通り、自慢の水車が壊れちまってよぅ……」
軸が見事に折れた水車が、庭に横たわっていた。
川のすぐそば。
染物工房としては最良の立地だけど、頼みの水車が使い物にならなきゃ意味がないってことか。
「染物には綺麗な水がたくさんいる。がんばって川から汲んでほしいが……嬢ちゃん、本当に大丈夫か?」
「綺麗な水があればいいんですよね?」
「――はぁ?」
「【ウォーターボール】! お水、どこに入れましょう?」
「……お、おおぉ……嬢ちゃん、魔法使いか! ちっこいのに大したもんだ。とりあえずその水はこの桶に入れてくれ。
――こりゃあ透き通った綺麗な水だ! 嬢ちゃん、この水、あとどのくらい出せる?」
「いくらでも!」
「――はぁ?」
「いくらでも出せますよ!」
「――あっ! そういや街でウワサになってる5歳児って嬢ちゃんのことか!? 第二王子殿下をオーガの群れからお救いしたとか、盗賊団を捕縛したとか……」
へぇ……ウワサが広まるのは早いねぇ。
「たぶん、その5歳児だと思います」
「あっはっはっ! まさかウワサの英雄様が水汲みとはね!」
「あ、あははは……これでもGランク冒険者ですので……」
まぁG(S)ランクだけど、ね。
◇ ◆ ◇ ◆
依頼主さんの指示に従い、工房の各所で水を注ぐことしばし。
「いやぁ助かった! 早い上に水も綺麗! 依頼評価はAランクにするぜ」
「あの、もしよければ水車も直しましょうか?」
「――はぁ?」
「私、高レベル【鑑定】持ちでして。【鑑定】すれば、故障の原因と修理方法が分かるんです。あとは――【アイアンボール】! こんな感じで鉄で部品なんかも作れます」
「な、ななな……」
いやぁ、実は一昨日ノティアさんからお借りした聖級魔法教本で、数ヵ月ほど練習したんだよね。もちろん【1日が100年になる部屋】内部でだけど。
そんで、教本に乗ってる聖級はすべて覚えた。4大属性と光・闇のレベルは8になったよ。
鉄生成魔法はLV8だった。まぁほぼ神の御業レベルだもんねぇ。
「も、もう少ししたら建築ギルドの修理人がやってくるんだ! 一緒に見てやってくれねぇか!?」
『建築』といいつつ、建築ギルドは機械も作る。
◇ ◆ ◇ ◆
「誰ですかい、このお嬢ちゃんは……」
ガチムチな建築ギルドの修理人さんが私を指さして依頼主に尋ねる。
「聞いて驚いてくれよ!? なんとウワサの英雄・アリスちゃんだ! 魔法もすごいんだぞ?」
『ちゃん』呼びってことは、私が貴族令嬢ってことまでは広まっていないのかな?
まぁ冒険者として活動中の私は一介のGランク冒険者って扱いだから、制度上不敬にはならないし、そもそも私は気にしない。
「英雄……アリス……魔法……な、まさか――【コンクリートの母】様ぁ!?」
なんだよその称号わわわ。
◇ ◆ ◇ ◆
なんでも、私の存在は国中の建築ギルドで超有名らしい。【コンクリートの母】として。まさかこの私が母になる日が来るとは!
修理人さんは、私が【おもいだす】からのぉ【鑑定】で引っ張り出してきた水車の知識を嬉々として聞いてたよ。『アリス様から直接ご教示頂けるなんて、なんたる誉れ!』とか言いながら。
今回の故障個所は軸。そりゃもう見事に擦り切れ、耐えきれずにぽっきり折れたようだった。
で、負担がかかるから摩耗が早くなる。
水車と水車の歯車の数が『互いに素』になってないから軸への負担が大きくなる。
『互いに素』とは、2つある整数の両方ともを割り切ることができる整数が 1 のみの状態のこと。
例えば3と10を両方とも割り切れる整数は1だけなので、これらは『互いに素である』と言える。逆に、例えば3と6なら1以外に3でも割り切れるので、『互いに素ではない』となる。
で、肝心の、どうして歯車同士が『互いに素』なら一番負担が少ないのかの理由までは知らない……本当、なんでだろうね?
まぁ知識チートの嗜みとして知ってるだけだからねぇ……。
修理人さん相手には、『【鑑定】で出ただけで、理屈までは分かりません』って逃げたよ。
修理人さんは、ここまではついてこれた。
算術の心得があるようで――そりゃ家建てるにも機械作るにも算術は必須だわな――『互いに素』についても知恵熱を出しつつ、ついてきた。
でも、私が鉄生成魔法で軸受を作って軸にはめたところで、目を回して倒れてしまった。
なんとこの世界、ベアリングがない。軸剥き出しで直接台座の上に置かれていて、まぁ気休め程度に油が塗られる程度。
地球でも、2重の輪の間に小さなボールを転がらせて摩擦を軽減させる、いわゆるベアリングを最初に発明したのはレオナルド・ダ・ヴィンチだと言われてるくらいで、西洋で実用化されたのは産業革命期以降、日本で造られ始めたのなんて1900年代に入ってからだ。
そういう意味では、この技術はざっと1000年先のモノってことになるのか。
胸が熱いな! むねあつ!
◇ ◆ ◇ ◆
当座は私が水車の軸を鉄製に置換することでしのぐことにした。
歯車の数からして変えないといけないし、軸受が入るように台座も改造しなきゃならないので……。
依頼主さん的には私の応急処置だけでも十分満足っぽかったけど、私は王国の産業を前に進めたいんだよ。
ということで、私がお金を出して、建築ギルドに『ベアリング付きで互いに素な水車』を開発してもらい、染物工房に設置させて頂くことにした。
依頼主さんは大喜びだったよ。そりゃそうか。
あ、依頼達成の評価は最上のAだったよ。そりゃそうか。
というわけで、私はGランク冒険者からFランク冒険者になった。
*******************************************
追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
次回、アリスが陛下から呼び出しを食らいます。
シーン……
「ひぅっ」
一斉に集まった視線に、思わず悲鳴を飲み込む。
「じょ、嬢ちゃん……」
おずおずといった様子で、さっき私に殴りかかってきた冒険者さんが頭を下げてきた。
「さっきは悪かったな……昨日、依頼を失敗しちまってイライラしてたんだ」
「い、いえいえこちらこそ、投げ飛ばしちゃってごめんなさい」
「それでよ、さっき解体場から逃げてきたやつに聞いたんだが……じょ、嬢ちゃんが伝説の魔獣をいくつも納入したって?」
「はい。【アイテムボックス】! ――ほら」
地竜の頭をコンニチハ。
「「「「「「ぎゃぁぁあああああああ!?」」」」」」
いかん、茶目っ気のつもりが、冒険者さんたちとギルド職員さんたちをビビらせてしまった。
「えへへ……父と母に鍛えて頂いたもので」
「ま、ま、まさか……金髪碧眼、城塞都市の冒険者ギルドに伝説の魔獣を納入しまくり、魔法教本を流行らせて冒険者の質を底上げしたっていう……宙に浮いてこそいねぇが……」
あぁ、やっぱり私の定義って『宙に浮いてる子供』なのね。
しかし私や魔法教本のウワサって、王都にまで届いてるんだねぇ。
「ジークフリート・フォン・ロンダキルアの娘、アリス・フォン・ロンダキルアと申します」
言ってその場で礼。今日はスカートじゃないので男性用の礼だけど。
「「「「「「おぉぉおおおおおお!!」」」」」」
「ひっ!?」
「アリス様! 教本、魔法教本を売ってください! ここじゃいっつも売り切れで……」
最初に話しかけてきた冒険者さんが懇願してくる。
「あたしにも売ってほしいです!」
「俺も!」
お、おおお……。
あいにく【アイテムボックス】内には1冊しか入ってないんだよねぇ。
「じゅ、10分待ってて頂けますか?」
「「「「「「…………は?」」」」」」
「城塞都市から持ってきますので。――【瞬間移動】!」
◇ ◆ ◇ ◆
「おはようございまーす」
アルフォートさんの製紙・製本工場――工場っていっても機械設備はないけどね――に入ると、
「「「「「おはようございまーす!」」」」」
女性職員のみなさん――というか職員は全員女性――から元気なお返事が。挨拶しながらも手は止めない。んむ、教育が行き届いておるようじゃな。
「これはこれはアリス様! どうかなさいましたか?」
奥の事務室からアルフォートさんが飛び出してきた。
「急にすみません。魔法教本と聖書セット、在庫はどれだけありますか?」
「昨晩〆た時点で320セット、うち100セットにはすでに予約が入っています」
「その220セットを今すぐ私に売って頂くことってできますか? 王都の冒険者さんたちが欲しがってて」
「他ならぬアリス様のご要望とあらば。倉庫へ参りましょう」
「ありがとうございます!」
ということで現金220万ゼニスを支払い、在庫を【アイテムボックス】へ。
◇ ◆ ◇ ◆
「お待たせしました~」
「「「「「「!?」」」」」」
果たして冒険者さんたちはちゃんと待っててくれた。
「う、ウワサ通り、本当に【瞬間移動】が使えるんですね……それも王都と城塞都市間でなんて……」
最初に話しかけてきた冒険者さんが話しかけてくる。
「えへへ。【アイテムボックス】!」
そばのテーブルの上に、220冊の魔法教本・聖書セットをどんっと置く。
もともと持ってた1冊は私が見本用とかに使ってて中古品になるから、売り物にするのは忍びない。
そういえば今まで明言はしてなかったけど、『セット』と言いつつ本は1冊になっている。魔法教本と聖書を上下逆さまに印刷していて、ある面から読めば魔法教本に、裏返して読めば聖書になる。
「「「「「「な、ななな……」」」」」」
「1冊1万ゼニス! おひとり1冊までです!」
そして戦争が始まった。
◇ ◆ ◇ ◆
「騒がしいと思って来てみれば……嬢ちゃんの仕業かい」
ギルド職員さんにも手伝ってもらいながら売り捌いていると、ギルマスさんが下りて来た。
「仕業だなんてそんな。冒険者さんたちの生存率向上に貢献してるんですよ」
接客しながら答える。価格は一律1万ゼニスなのでカンタンだ。
ちょっと失礼かもしれないけど、相手がギルマスさんなら冒険者さんたちも悪くは思わないだろう。
「そりゃちげぇねえが……」
「ところで私、依頼を受けに行きたいんですけど……このまま、ギルド職員さんたちに販売をお願いしちゃダメでしょか?」
「はぁ? ちょっ、お前、自分でこの状況を作っておきながら!?」
「販売益と売れ残った本は全てギルドに寄付しますので。お願いします!」
「はぁ~……城塞都市の各ギルドマスターから何度も教えられていたが、嬢ちゃんにゃ大人を振り回すクセがあるってのは本当のことらしいな」
「えへへ……」
すみません……自覚はあります。
「わぁったよ、ほら行け」
「ありがとうございます!」
優しいギルマスさんで良かったよ。
◇ ◆ ◇ ◆
というわけで、戦争の横で依頼ボードを眺める。身長が足りないから【浮遊】しながら。
異世界物によくある、依頼内容の書かれた羊皮紙が釘で打たれているやつだね!
ファンタジー!
「じゃあGランクらしく荷運び依頼を……染物工房で水汲み?」
羊皮紙を千切り取って受付へ持って行く。
受付嬢さんは、この戦場を生み出した張本人が平然と別のことをしてることに引きつり笑いしてた。
すみません……そこについても、自覚はあります。
◇ ◆ ◇ ◆
「というわけで、やって参りました王都工房街の染物工房!」
扉をノックすると、
「あんだぁ? この忙しい時に……あん?」
男性――依頼主?――が出てきたが、視線の先には誰もいない。
「すみません、下です」
「うぉっ、なんだぁ坊主? いや女?」
「Gランク冒険者のアリスと申します」
依頼書を見せると、
「随分幼い上に、アリスっていや女の子か! 力仕事だ、冷やかしは――っても受けちまった以上は追い返すわけにもいかねぇか……」
私が依頼失敗にならないよう配慮してくれてるらしい。
優しい人のようだね。
というわけで、工房の中に招いて頂いた。
◇ ◆ ◇ ◆
「ご覧の通り、自慢の水車が壊れちまってよぅ……」
軸が見事に折れた水車が、庭に横たわっていた。
川のすぐそば。
染物工房としては最良の立地だけど、頼みの水車が使い物にならなきゃ意味がないってことか。
「染物には綺麗な水がたくさんいる。がんばって川から汲んでほしいが……嬢ちゃん、本当に大丈夫か?」
「綺麗な水があればいいんですよね?」
「――はぁ?」
「【ウォーターボール】! お水、どこに入れましょう?」
「……お、おおぉ……嬢ちゃん、魔法使いか! ちっこいのに大したもんだ。とりあえずその水はこの桶に入れてくれ。
――こりゃあ透き通った綺麗な水だ! 嬢ちゃん、この水、あとどのくらい出せる?」
「いくらでも!」
「――はぁ?」
「いくらでも出せますよ!」
「――あっ! そういや街でウワサになってる5歳児って嬢ちゃんのことか!? 第二王子殿下をオーガの群れからお救いしたとか、盗賊団を捕縛したとか……」
へぇ……ウワサが広まるのは早いねぇ。
「たぶん、その5歳児だと思います」
「あっはっはっ! まさかウワサの英雄様が水汲みとはね!」
「あ、あははは……これでもGランク冒険者ですので……」
まぁG(S)ランクだけど、ね。
◇ ◆ ◇ ◆
依頼主さんの指示に従い、工房の各所で水を注ぐことしばし。
「いやぁ助かった! 早い上に水も綺麗! 依頼評価はAランクにするぜ」
「あの、もしよければ水車も直しましょうか?」
「――はぁ?」
「私、高レベル【鑑定】持ちでして。【鑑定】すれば、故障の原因と修理方法が分かるんです。あとは――【アイアンボール】! こんな感じで鉄で部品なんかも作れます」
「な、ななな……」
いやぁ、実は一昨日ノティアさんからお借りした聖級魔法教本で、数ヵ月ほど練習したんだよね。もちろん【1日が100年になる部屋】内部でだけど。
そんで、教本に乗ってる聖級はすべて覚えた。4大属性と光・闇のレベルは8になったよ。
鉄生成魔法はLV8だった。まぁほぼ神の御業レベルだもんねぇ。
「も、もう少ししたら建築ギルドの修理人がやってくるんだ! 一緒に見てやってくれねぇか!?」
『建築』といいつつ、建築ギルドは機械も作る。
◇ ◆ ◇ ◆
「誰ですかい、このお嬢ちゃんは……」
ガチムチな建築ギルドの修理人さんが私を指さして依頼主に尋ねる。
「聞いて驚いてくれよ!? なんとウワサの英雄・アリスちゃんだ! 魔法もすごいんだぞ?」
『ちゃん』呼びってことは、私が貴族令嬢ってことまでは広まっていないのかな?
まぁ冒険者として活動中の私は一介のGランク冒険者って扱いだから、制度上不敬にはならないし、そもそも私は気にしない。
「英雄……アリス……魔法……な、まさか――【コンクリートの母】様ぁ!?」
なんだよその称号わわわ。
◇ ◆ ◇ ◆
なんでも、私の存在は国中の建築ギルドで超有名らしい。【コンクリートの母】として。まさかこの私が母になる日が来るとは!
修理人さんは、私が【おもいだす】からのぉ【鑑定】で引っ張り出してきた水車の知識を嬉々として聞いてたよ。『アリス様から直接ご教示頂けるなんて、なんたる誉れ!』とか言いながら。
今回の故障個所は軸。そりゃもう見事に擦り切れ、耐えきれずにぽっきり折れたようだった。
で、負担がかかるから摩耗が早くなる。
水車と水車の歯車の数が『互いに素』になってないから軸への負担が大きくなる。
『互いに素』とは、2つある整数の両方ともを割り切ることができる整数が 1 のみの状態のこと。
例えば3と10を両方とも割り切れる整数は1だけなので、これらは『互いに素である』と言える。逆に、例えば3と6なら1以外に3でも割り切れるので、『互いに素ではない』となる。
で、肝心の、どうして歯車同士が『互いに素』なら一番負担が少ないのかの理由までは知らない……本当、なんでだろうね?
まぁ知識チートの嗜みとして知ってるだけだからねぇ……。
修理人さん相手には、『【鑑定】で出ただけで、理屈までは分かりません』って逃げたよ。
修理人さんは、ここまではついてこれた。
算術の心得があるようで――そりゃ家建てるにも機械作るにも算術は必須だわな――『互いに素』についても知恵熱を出しつつ、ついてきた。
でも、私が鉄生成魔法で軸受を作って軸にはめたところで、目を回して倒れてしまった。
なんとこの世界、ベアリングがない。軸剥き出しで直接台座の上に置かれていて、まぁ気休め程度に油が塗られる程度。
地球でも、2重の輪の間に小さなボールを転がらせて摩擦を軽減させる、いわゆるベアリングを最初に発明したのはレオナルド・ダ・ヴィンチだと言われてるくらいで、西洋で実用化されたのは産業革命期以降、日本で造られ始めたのなんて1900年代に入ってからだ。
そういう意味では、この技術はざっと1000年先のモノってことになるのか。
胸が熱いな! むねあつ!
◇ ◆ ◇ ◆
当座は私が水車の軸を鉄製に置換することでしのぐことにした。
歯車の数からして変えないといけないし、軸受が入るように台座も改造しなきゃならないので……。
依頼主さん的には私の応急処置だけでも十分満足っぽかったけど、私は王国の産業を前に進めたいんだよ。
ということで、私がお金を出して、建築ギルドに『ベアリング付きで互いに素な水車』を開発してもらい、染物工房に設置させて頂くことにした。
依頼主さんは大喜びだったよ。そりゃそうか。
あ、依頼達成の評価は最上のAだったよ。そりゃそうか。
というわけで、私はGランク冒険者からFランク冒険者になった。
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追記回数:4,649回 通算年数:414年 レベル:600
次回、アリスが陛下から呼び出しを食らいます。
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