「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
文字の大きさ
大中小
5 / 143
第1章 「私が初めて殺されるまでの話」
3歳「九九ランニング。あと鐙は軍事チートの嗜み」
しおりを挟む
3歳になった。
まぁ数え年で3歳だから、実質2歳だけど。
「くいちがく!」
「「「「「「くいちがく!」」」」」」
「くにじゅうはち!」
「「「「「「くにじゅうはち!」」」」」」
春先の朝。
私は、砦兼練兵場に詰める軍人さんたちのランニングに付き合っている。正確には【浮遊】の上位互換魔法【飛翔】で、新人軍人数十人の先頭を飛んでいる。
ちなみに私の格好はパンツスタイル。いつもそこら辺をふわふわ漂っているものだから、『女の子らしい格好をさせられない』とママンがよく嘆いている。
「くさんにじゅうしち!」
と私が言えば、
「「「「「「くさんにじゅうしち!」」」」」」
屈強なあんちゃんたちが繰り返す。まぁ、掛け声の代わりだね。
パパンがママンに『新人が阿呆で困っている』ってグチってたのを聞いて、そろそろお喋り解禁かと思ってた私が、『さんじゅつを、まなばせてみては?』って提案したのだ。一応、喋り方は幼い感じを偽装した。
算数は論理的思考の基礎。剣を振るうのが軍人さんの仕事とはいえ、上官の命令からその意図を正確に汲み、遅滞なく遂行するにはロジカルな脳みそが必要だ。
『な、ななな……アリス、もうそんなに喋れるようになったのか!? いやそれよりもその歳で算術まで!?』
『だってアナタ、アリスちゃんは神童だもの!』
親バカを爆発させるパパンとママンに簡単な四則演算をして見せて、そのあまりの速度に驚かれ、
『かんたんなかけざんは、あんきするのです』
――九九のお披露目とあいなったわけだ。
しかしこの九九ランニング、地味にキツい。一の段から九の段まで言い終えるのは結構時間がかかるし、肺活量も鍛えられるってすんぽーだ。
ランニングでラーニング、なんちゃって!
「くくはちじゅういち!」
「「「「「「くくはちじゅういち!」」」」」」
「はい、しゅ~りょ~」
「はぁ~終わったぁ~……」
「朝っぱらから堪えるぜ!」
口々に軽口を言う新人さんたち。
いやぁ、若い筋肉ってのはいいね! お姉さん、ちょっとドキドキしちゃうよ!
「おみず、どうですか」
無詠唱の【アースボール】で空中に人数分のコップを作り、時空魔法【テレキネシス】で宙に浮かす。【アースボール】はボールと言いつつ、コツを掴めばどんなふうにも造形できる便利魔法だ。
続いて【アイス・ウォーターボール】でコップを満たす。もちろん水に土が混じるようなことなど万に一つもない。
この程度の魔法など、日々研鑽を怠らない私にとっては児戯にも等しいのだ!
3歳児だけに!
「ありがてぇ、嬢ちゃんは魔法の天才だな!」
「将来はすげぇ美人の魔法使いになるぞ!」
口々に私をヨイショする軍人さんたち。そう、私は若干3歳にして、筋肉オタサーの姫となったのだ!!
使い終わったコップは、地面に置いてもらえば私が土に返す。たまに、持って帰りたいという人もいる。
朝のひとっ走りが終わり、朝食の時間となる。
三々五々と散っていく軍人さんたちを尻目に、私は【飛翔】で砦上空へと飛ぶ。
あ、一応私、砦内に限ってはひとり歩きの許可をもらっている。
『ひとりで歩き回っ――飛び回って? と、とにかく怪我でもしたらどうするの!』ってママンが最後まで抵抗していたけど、【飛翔】ですいすいと空中を泳ぐ私の姿を見て、根負けした形だ。ごめんね、ママン。
逆にパパンは、『元気なのはいいことだ。将来は勇者かな?』なんて言って、私をドキリとさせた。
パパンとママンにステータスウィンドウを見せたことはない。とはいえステータスウィンドウを開けるのは別に私だけというわけではなく、鍛錬から戻ったパパンが自分のステータスを確認している姿を見たことがある。
1歳の頃から魔法でやりたい放題やってるのに、聞かれないのはなぜだろう?
――閑話休題。
この砦、銃や火薬は見当たらなかったけどクロスボウは見かけた。黒色火薬チートもできないではなさそうだけど、火と風と土の複合魔法による『爆発』という現象を知っているこの世界の人たちには効果薄そうなんだよね。火薬で軍馬をビビらせて敵騎兵壊滅チートは無理そうだ。
魔法が使える軍人さんも多く、この街に詰めてる領主軍&王国軍人計数千人のうち、数十メートル先の的へ炎の矢を当てられるくらいの人が数十人はいるのだそうだ。
とはいえこれは、貴族家やその従士家で高等な教育を受けられる子弟だからこその数値であって、全人族の1パーセントが皆、魔法の才能を持つというわけではないとのこと。
これらの具体的数字は、転生前のオリエンテーションで女神様から得たもの。
女神様からは人族領域の地理情報も頂いている。
まず、この地は魔族が支配する大陸の西の西の端っこにちょこんと生えた半島。面積は日本列島の本島くらいで、東西に長い。
気候も東京と同じくらいで、四季がある。
とはいえ世界観は中世ヨーロッパ風で、主食は小麦やライ麦だ。西の方では米も栽培してるらしいけど。
そして、ここ。
ここはその半島と、魔族が支配する大陸の境界線。つまり魔王国との国境。
砦の上空、東の方へ視線を向けると、まず目に入るのが壁。
南北にどこまでも続く人族を守る盾なんだけど、結構ガタがきてて、ところどころ崩れたり穴開いたりしてるんだよね。
補修したいんだけど、【土魔法】はまだまだ要鍛錬で、コップは作れても、魔物の突進に耐え得る強度の壁を作れるほどにはなっていない。
【土魔法】だけでやろうとするからダメなのか? 【時空魔法】で圧縮したり、【火魔法】で焼き入れしたらどうだろう……要研究だな。
さて、そんな壁の向こうに見えるのが、どこまでも果てしなく続く広大な森。
この森は恐ろしくも『魔の森』と呼ばれ、約100年前の人魔大戦で魔族が強力な魔物を多数放ったため、ドラゴンとかグリフォンとかフェンリルとかオルトロスとかが跋扈する、まさにラストダンジョン手前の森。まさしくロンダ○キアって感じだ。
……やっとの思いでロンダ○キアへの洞窟を抜けてからのザ○キ連発は悪魔の所業。絶対に許してはならない。
ブリザ○ド、お前のことやぞ!!
魔族は魔物の【従魔】が比較的得意な種族だが、【従魔】されていない魔物は基本的に、人族だろうが魔族だろうがエサとみなして襲ってくる。
魔族が強力な魔物を森に放ったのは、『無制限の【従魔】能力』という、『ぼくのかんがえたさいきょうのスキル』を持つ魔王の存在を前提とした作戦だった。
その魔王が先代勇者の捨て身の突撃で封印されたため、魔族の侵攻が止まり、魔の森が緩衝地帯となったことで、人族は生き長らえたわけだ。
……その封印も、あと9年で解けることになる。
私が勇者であることと、封印のこと。その話をいつ、どのような形で切り出すべきか、私は決めあぐねている……。
さて、魔の森から人族を守る万里の長城&堀と、その中心の砦。さらにその西側には、砦に詰める軍人さんの住居と、軍人さんたちを目当てにした市・商店・鍛冶屋・酒場や、行商人の為の宿等々が立ち並ぶ街が形成されており、さらにその外側に軍人さんたちが耕す畑。そしてそれらを取り巻く城壁&堀。
人口1万人弱の『ロンダキルア領城塞都市』の完成だ。
上空から見たら、こんな感じ。
北 壁 森……
西 東 壁 森……
南 壁 森……
壁 森……
壁壁壁壁 森……
壁壁壁 壁 森……
壁壁 壁 森……
壁壁 壁 森……
壁 央 壁 森……
中 広 砦壁 森……
壁 場 壁 森……
壁壁 壁 森……
壁壁 壁 森……
壁壁壁 壁 森……
壁壁壁壁 森……
壁 森……
壁 森……
壁 森……
壁 森……
こんな最前線も最前線に住んでるなんて、パパンとママンは勇ましいね!
ちなみに人族の総人口が1千万人程度。戦火の中を逃げ延び、この100年弱で増えたことを思えば多い方かな?
総人口の千分の一がこの城塞都市に終結していると考えれば、相当な力の入れようではある。
ずっと西の方の肥沃な平地に王都があり、そこにも常備軍はいるのだけれど、常備軍の半数以上をこちらに張りつかせているのだそうだ。
有事の際は王都の常備軍と冒険者――という名の傭兵――がさらに集まり、1万人弱の軍勢となる。関ヶ原の戦いでぶつかり合った人数が十数万人だったことを思うとちょっと頼りないけど、この人数で戦うしかない。
幸い、魔王国軍が攻めてくるには魔の森を抜けてこなきゃならず、そんな大所帯で森越えは難しいだろう……空とか飛んでこない限りは。
魔族側の強さが未知数なのが怖いんだよね……まぁ、【ふっかつのじゅもん】を駆使して試行錯誤するしかないか。
あと城壁の外側には、あまり上品ではない商売――賭博場とか色町とか――と、そういった客のための市や酒場、宿が形成され、さらには入城税や人頭税が払えない層――浮浪者とかゴロツキとかのスラム街もある。
「おーい、アリス!!」
おや、パパンの声?
下を見れば、馬に乗ったパパンが私を見上げている。
うおっ、ぼーっとしてたら砦の外にまで漂ってしまっていた!
やばいやばいと慌てて下降し、パパンの腕の中に収まる。
「こらアリス! ひとり歩きは砦の中だけだという約束だろう!」
「ご、ごめんなさい……」
「まったく、いつまでたっても食堂に来ないからと探してみれば……」
お説教が続きそうだったので、話題をそらす意図もあり、日頃から気になっていたことをパパンに聞いてみる。
「あの、おとうさま、馬に鐙はつけないのですか?」
そう、この世界に来てから乗馬している人はたくさん見たが、誰も鞍に鐙――騎乗時に足を引っかけるやつ――をつけていないんだよね。
「ん? アブミとはなんだ?」
「馬上で足を引っかけてバランスを取るやつです」
「足を、引っかける……? どうしてそんなものが必要なんだ?」
「えーと、馬上で踏ん張ることができないと、走る時に振り落とされそうになりませんか?」
「ん、んんん……? そんなものは訓練でなんとかするしかないだろう?」
「?? で、ではどうやってバランスを取るのですか……?」
「そりゃこう、太ももでぎゅっと挟んでだな――」
「ぎゅっとはさんで?」
「あとは気合いだ」
「!? !? !?」
思わず感嘆符と疑問符を連打してしまう私。
「で、でも馬上で足場があれば踏ん張りが利いて安定しますし、立ち上がることだってできるようになりますよ?」
「だが馬に乗ってるのに足場なんてないだろう」
「足場がないなら、足場を作ればいいじゃない!」
「……は? アリス、お前いったい何を言って――」
私は【飛翔】でふわりと降り、【土魔法】で鐙モドキを精製する。ホントは鐙の部分は鉄で、鞍と鐙をつなぐ『鞍革』は革で作りたいところだけど、今の私の魔法ではどっちも無理なので、できるだけ硬くした岩で作る。鞍革部分は鎖状にした。
「さ、おとうさま、一度降りてください。――はい、これをこんなふうに鞍にかけて、そう、こんな感じ……はいおとうさま、もう一度馬に乗ってみてください。
……おとうさま?」
パパンは鐙を見つめたまま動かない。
「あれ、おとうさま、おとうさま……?」
【飛翔】でパパンの顔をのぞき込んでみれば。
「た、立ったまま気絶してる……」
◇ ◆ ◇ ◆
それからパパンは3日間寝込んでしまった。
私が使う魔法のチートっぷりにはすっかり慣れっこなパパンだ。驚いたのは私の土魔法に対してではない。
人族最前線の辺境伯領を守る従士長として、鐙の有用性と、それがもたらすであろう軍事的革命に衝撃を受けたのだ。そして、それが魔族側にバレた時の恐ろしさも……。
◇ ◆ ◇ ◆
念願のテレビゲーム無双だけど、これが難航してる。
魔法的な力でパパッと出せるんじゃない? 【万物創生】魔法とか教本に載ってんじゃない? なんて軽く考えてたけど、そうは問屋が卸さないっぽい。
あとカードゲームやボードゲームなんだけど、そもそもこの世界、紙がない。ヨレヨレの羊皮紙では、均一な柄のトランプが作れない……。
まぁまだ3歳(実質2歳)だ。地道に行こう!
***************************************
追記回数:4,649回 通算年数:3年 レベル:1
次回、主人公アリスが異世界にグー○ルを現出させて、異世界のことを学び始めます。
まぁ数え年で3歳だから、実質2歳だけど。
「くいちがく!」
「「「「「「くいちがく!」」」」」」
「くにじゅうはち!」
「「「「「「くにじゅうはち!」」」」」」
春先の朝。
私は、砦兼練兵場に詰める軍人さんたちのランニングに付き合っている。正確には【浮遊】の上位互換魔法【飛翔】で、新人軍人数十人の先頭を飛んでいる。
ちなみに私の格好はパンツスタイル。いつもそこら辺をふわふわ漂っているものだから、『女の子らしい格好をさせられない』とママンがよく嘆いている。
「くさんにじゅうしち!」
と私が言えば、
「「「「「「くさんにじゅうしち!」」」」」」
屈強なあんちゃんたちが繰り返す。まぁ、掛け声の代わりだね。
パパンがママンに『新人が阿呆で困っている』ってグチってたのを聞いて、そろそろお喋り解禁かと思ってた私が、『さんじゅつを、まなばせてみては?』って提案したのだ。一応、喋り方は幼い感じを偽装した。
算数は論理的思考の基礎。剣を振るうのが軍人さんの仕事とはいえ、上官の命令からその意図を正確に汲み、遅滞なく遂行するにはロジカルな脳みそが必要だ。
『な、ななな……アリス、もうそんなに喋れるようになったのか!? いやそれよりもその歳で算術まで!?』
『だってアナタ、アリスちゃんは神童だもの!』
親バカを爆発させるパパンとママンに簡単な四則演算をして見せて、そのあまりの速度に驚かれ、
『かんたんなかけざんは、あんきするのです』
――九九のお披露目とあいなったわけだ。
しかしこの九九ランニング、地味にキツい。一の段から九の段まで言い終えるのは結構時間がかかるし、肺活量も鍛えられるってすんぽーだ。
ランニングでラーニング、なんちゃって!
「くくはちじゅういち!」
「「「「「「くくはちじゅういち!」」」」」」
「はい、しゅ~りょ~」
「はぁ~終わったぁ~……」
「朝っぱらから堪えるぜ!」
口々に軽口を言う新人さんたち。
いやぁ、若い筋肉ってのはいいね! お姉さん、ちょっとドキドキしちゃうよ!
「おみず、どうですか」
無詠唱の【アースボール】で空中に人数分のコップを作り、時空魔法【テレキネシス】で宙に浮かす。【アースボール】はボールと言いつつ、コツを掴めばどんなふうにも造形できる便利魔法だ。
続いて【アイス・ウォーターボール】でコップを満たす。もちろん水に土が混じるようなことなど万に一つもない。
この程度の魔法など、日々研鑽を怠らない私にとっては児戯にも等しいのだ!
3歳児だけに!
「ありがてぇ、嬢ちゃんは魔法の天才だな!」
「将来はすげぇ美人の魔法使いになるぞ!」
口々に私をヨイショする軍人さんたち。そう、私は若干3歳にして、筋肉オタサーの姫となったのだ!!
使い終わったコップは、地面に置いてもらえば私が土に返す。たまに、持って帰りたいという人もいる。
朝のひとっ走りが終わり、朝食の時間となる。
三々五々と散っていく軍人さんたちを尻目に、私は【飛翔】で砦上空へと飛ぶ。
あ、一応私、砦内に限ってはひとり歩きの許可をもらっている。
『ひとりで歩き回っ――飛び回って? と、とにかく怪我でもしたらどうするの!』ってママンが最後まで抵抗していたけど、【飛翔】ですいすいと空中を泳ぐ私の姿を見て、根負けした形だ。ごめんね、ママン。
逆にパパンは、『元気なのはいいことだ。将来は勇者かな?』なんて言って、私をドキリとさせた。
パパンとママンにステータスウィンドウを見せたことはない。とはいえステータスウィンドウを開けるのは別に私だけというわけではなく、鍛錬から戻ったパパンが自分のステータスを確認している姿を見たことがある。
1歳の頃から魔法でやりたい放題やってるのに、聞かれないのはなぜだろう?
――閑話休題。
この砦、銃や火薬は見当たらなかったけどクロスボウは見かけた。黒色火薬チートもできないではなさそうだけど、火と風と土の複合魔法による『爆発』という現象を知っているこの世界の人たちには効果薄そうなんだよね。火薬で軍馬をビビらせて敵騎兵壊滅チートは無理そうだ。
魔法が使える軍人さんも多く、この街に詰めてる領主軍&王国軍人計数千人のうち、数十メートル先の的へ炎の矢を当てられるくらいの人が数十人はいるのだそうだ。
とはいえこれは、貴族家やその従士家で高等な教育を受けられる子弟だからこその数値であって、全人族の1パーセントが皆、魔法の才能を持つというわけではないとのこと。
これらの具体的数字は、転生前のオリエンテーションで女神様から得たもの。
女神様からは人族領域の地理情報も頂いている。
まず、この地は魔族が支配する大陸の西の西の端っこにちょこんと生えた半島。面積は日本列島の本島くらいで、東西に長い。
気候も東京と同じくらいで、四季がある。
とはいえ世界観は中世ヨーロッパ風で、主食は小麦やライ麦だ。西の方では米も栽培してるらしいけど。
そして、ここ。
ここはその半島と、魔族が支配する大陸の境界線。つまり魔王国との国境。
砦の上空、東の方へ視線を向けると、まず目に入るのが壁。
南北にどこまでも続く人族を守る盾なんだけど、結構ガタがきてて、ところどころ崩れたり穴開いたりしてるんだよね。
補修したいんだけど、【土魔法】はまだまだ要鍛錬で、コップは作れても、魔物の突進に耐え得る強度の壁を作れるほどにはなっていない。
【土魔法】だけでやろうとするからダメなのか? 【時空魔法】で圧縮したり、【火魔法】で焼き入れしたらどうだろう……要研究だな。
さて、そんな壁の向こうに見えるのが、どこまでも果てしなく続く広大な森。
この森は恐ろしくも『魔の森』と呼ばれ、約100年前の人魔大戦で魔族が強力な魔物を多数放ったため、ドラゴンとかグリフォンとかフェンリルとかオルトロスとかが跋扈する、まさにラストダンジョン手前の森。まさしくロンダ○キアって感じだ。
……やっとの思いでロンダ○キアへの洞窟を抜けてからのザ○キ連発は悪魔の所業。絶対に許してはならない。
ブリザ○ド、お前のことやぞ!!
魔族は魔物の【従魔】が比較的得意な種族だが、【従魔】されていない魔物は基本的に、人族だろうが魔族だろうがエサとみなして襲ってくる。
魔族が強力な魔物を森に放ったのは、『無制限の【従魔】能力』という、『ぼくのかんがえたさいきょうのスキル』を持つ魔王の存在を前提とした作戦だった。
その魔王が先代勇者の捨て身の突撃で封印されたため、魔族の侵攻が止まり、魔の森が緩衝地帯となったことで、人族は生き長らえたわけだ。
……その封印も、あと9年で解けることになる。
私が勇者であることと、封印のこと。その話をいつ、どのような形で切り出すべきか、私は決めあぐねている……。
さて、魔の森から人族を守る万里の長城&堀と、その中心の砦。さらにその西側には、砦に詰める軍人さんの住居と、軍人さんたちを目当てにした市・商店・鍛冶屋・酒場や、行商人の為の宿等々が立ち並ぶ街が形成されており、さらにその外側に軍人さんたちが耕す畑。そしてそれらを取り巻く城壁&堀。
人口1万人弱の『ロンダキルア領城塞都市』の完成だ。
上空から見たら、こんな感じ。
北 壁 森……
西 東 壁 森……
南 壁 森……
壁 森……
壁壁壁壁 森……
壁壁壁 壁 森……
壁壁 壁 森……
壁壁 壁 森……
壁 央 壁 森……
中 広 砦壁 森……
壁 場 壁 森……
壁壁 壁 森……
壁壁 壁 森……
壁壁壁 壁 森……
壁壁壁壁 森……
壁 森……
壁 森……
壁 森……
壁 森……
こんな最前線も最前線に住んでるなんて、パパンとママンは勇ましいね!
ちなみに人族の総人口が1千万人程度。戦火の中を逃げ延び、この100年弱で増えたことを思えば多い方かな?
総人口の千分の一がこの城塞都市に終結していると考えれば、相当な力の入れようではある。
ずっと西の方の肥沃な平地に王都があり、そこにも常備軍はいるのだけれど、常備軍の半数以上をこちらに張りつかせているのだそうだ。
有事の際は王都の常備軍と冒険者――という名の傭兵――がさらに集まり、1万人弱の軍勢となる。関ヶ原の戦いでぶつかり合った人数が十数万人だったことを思うとちょっと頼りないけど、この人数で戦うしかない。
幸い、魔王国軍が攻めてくるには魔の森を抜けてこなきゃならず、そんな大所帯で森越えは難しいだろう……空とか飛んでこない限りは。
魔族側の強さが未知数なのが怖いんだよね……まぁ、【ふっかつのじゅもん】を駆使して試行錯誤するしかないか。
あと城壁の外側には、あまり上品ではない商売――賭博場とか色町とか――と、そういった客のための市や酒場、宿が形成され、さらには入城税や人頭税が払えない層――浮浪者とかゴロツキとかのスラム街もある。
「おーい、アリス!!」
おや、パパンの声?
下を見れば、馬に乗ったパパンが私を見上げている。
うおっ、ぼーっとしてたら砦の外にまで漂ってしまっていた!
やばいやばいと慌てて下降し、パパンの腕の中に収まる。
「こらアリス! ひとり歩きは砦の中だけだという約束だろう!」
「ご、ごめんなさい……」
「まったく、いつまでたっても食堂に来ないからと探してみれば……」
お説教が続きそうだったので、話題をそらす意図もあり、日頃から気になっていたことをパパンに聞いてみる。
「あの、おとうさま、馬に鐙はつけないのですか?」
そう、この世界に来てから乗馬している人はたくさん見たが、誰も鞍に鐙――騎乗時に足を引っかけるやつ――をつけていないんだよね。
「ん? アブミとはなんだ?」
「馬上で足を引っかけてバランスを取るやつです」
「足を、引っかける……? どうしてそんなものが必要なんだ?」
「えーと、馬上で踏ん張ることができないと、走る時に振り落とされそうになりませんか?」
「ん、んんん……? そんなものは訓練でなんとかするしかないだろう?」
「?? で、ではどうやってバランスを取るのですか……?」
「そりゃこう、太ももでぎゅっと挟んでだな――」
「ぎゅっとはさんで?」
「あとは気合いだ」
「!? !? !?」
思わず感嘆符と疑問符を連打してしまう私。
「で、でも馬上で足場があれば踏ん張りが利いて安定しますし、立ち上がることだってできるようになりますよ?」
「だが馬に乗ってるのに足場なんてないだろう」
「足場がないなら、足場を作ればいいじゃない!」
「……は? アリス、お前いったい何を言って――」
私は【飛翔】でふわりと降り、【土魔法】で鐙モドキを精製する。ホントは鐙の部分は鉄で、鞍と鐙をつなぐ『鞍革』は革で作りたいところだけど、今の私の魔法ではどっちも無理なので、できるだけ硬くした岩で作る。鞍革部分は鎖状にした。
「さ、おとうさま、一度降りてください。――はい、これをこんなふうに鞍にかけて、そう、こんな感じ……はいおとうさま、もう一度馬に乗ってみてください。
……おとうさま?」
パパンは鐙を見つめたまま動かない。
「あれ、おとうさま、おとうさま……?」
【飛翔】でパパンの顔をのぞき込んでみれば。
「た、立ったまま気絶してる……」
◇ ◆ ◇ ◆
それからパパンは3日間寝込んでしまった。
私が使う魔法のチートっぷりにはすっかり慣れっこなパパンだ。驚いたのは私の土魔法に対してではない。
人族最前線の辺境伯領を守る従士長として、鐙の有用性と、それがもたらすであろう軍事的革命に衝撃を受けたのだ。そして、それが魔族側にバレた時の恐ろしさも……。
◇ ◆ ◇ ◆
念願のテレビゲーム無双だけど、これが難航してる。
魔法的な力でパパッと出せるんじゃない? 【万物創生】魔法とか教本に載ってんじゃない? なんて軽く考えてたけど、そうは問屋が卸さないっぽい。
あとカードゲームやボードゲームなんだけど、そもそもこの世界、紙がない。ヨレヨレの羊皮紙では、均一な柄のトランプが作れない……。
まぁまだ3歳(実質2歳)だ。地道に行こう!
***************************************
追記回数:4,649回 通算年数:3年 レベル:1
次回、主人公アリスが異世界にグー○ルを現出させて、異世界のことを学び始めます。
0
お気に入りに追加
314
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる