成金令嬢の幸せな結婚~金の亡者と罵られた令嬢は父親に売られて辺境の豚公爵と幸せになる~

山夜みい

文字の大きさ
上 下
3 / 44

第三話 唯一の安らぎ

しおりを挟む
 

「お姉様、聞きましたわよ!」

 ばんっ!! と扉を開いて現れたのはわたしの愛する妹だ。
 お風呂上りなのか、父譲りの淡い金髪に石鹸の匂いを纏わせた彼女は眉を怒らせながらわたしの下まで駆け寄ってくる。

「婚約破棄の上に借金まで背負わされるなんて……身売りに行くというのは本当ですか!?」
「身売りって……まぁ、婚約支度金を貰うことを身売りというならそうだけれど、滅多なことを言うものではないわよ、フィオナ」
「言葉を繕って本質が変わるわけではないでしょう?」

 フィオナのこういうところは本当にわたしによく似ている。
 それがいいことか悪いことかは分からないけれど。
 わたしはバツが悪くなって目を逸らした。

「……まぁ、そういうことよ」
「そんなのあんまりです!」

 フィオナは納得しなかった。

「確かにお姉さまはお金にがめついしケチだし時々変な顔もしますけど!」
「フィオナ?」
「でも、とっても優しい私のお姉さまなのに!」

 目に涙を溜めた妹の言葉にわたしは胸を衝かれた。

「フィオナ……」
「それに、お姉さまが新しい婚約を受けたのも私のためでしょう?」
「……」

 フィオナは来年から貴族院に通うことが決まっている。
 けど、貴族院は高位貴族になればなるほど金がかかるのだ。

 見栄であったり舞踏会やお茶会の主催であったり、流行を生み出すためにドレスを何着も買ったり……正直、かなり馬鹿にならない金額がかかる。本当は貴族院入学に備えて貯金をしておくものだけど……ラプラス領の経営は三年前まで赤字だったから、そんな余裕はなかった。

「あなたのことは関係ないわ。どうせ婚約破棄で傷物になったんだから売れる時に売らないと。それが商売の基本だと教えたでしょう?」
「ご自身を商売道具にするのは止めてください、お姉さまのバカ!」

 ぐうの音も出ないわたしである。

「大体、お父様もお父様です! なんでお姉さまばっかり責めるんですか! へっぽこおデブのへんちくりんの癖に、お姉さま抜きで領地を経営できると本気で思っているのでしょうか! お母様が夜逃げしてから、あの人はただ酒を飲むばかりで何も──」
「それ以上はダメよ、フィオナ」

 いくらフィオナでも父親の悪口は言わせたくない。
 たとえわたしを愛さない父親であっても、フィオナはこれからいくでも接する機会があるだろうから。

(この子を置いていくのは、本当に心苦しいのだけど)

 これはわたしのミスで、わたしの責任だ。
 フィオナの未来を守るためにも、わたしは婚約を受けないといけない。

「でも、でも……よりにもよって相手は豚公爵なんですよ!?」
「……フィオナも知ってるのね。オルロー公爵のこと」
「まだデビュタントしたばかりの私の耳にも入ってきますよ……あの人は確かに先々代王弟殿下の直系にあたる方で、血筋としては申し分ない分でしょうけど……彼の容姿はとても人間とは思えないほど横に太くて、しかも好色家で、今まで何人も婚約者が逃げ出している絶倫男なのだとか」

 加えて言えば、オルロー公爵領は亜人たちが多く住まう『野蛮の住処』と呼ばれている。それもあって、体型が太い公爵を人間扱いしない貴族は多かった。

「フィオナ。会ったことのない人の悪口を言ってはいけません」
「でも……」
「でももなんでもない。そういうのは……」
「相手を潰したい時に、効果的に、秘密裏に使う。ですよね」
「分かっているならいいの」

 まぁ、この教訓が生かせなかった結果がわたしなのだけど。
 わたしはフィオナに自分の轍を踏まないようにと、強く言い含めた。

「お姉さま、本当に行っちゃうんですね……」
「仕方のないことよ」
「お姉さまも私を置いていくんですか。あの人みたいに」
「……いい、フィオナ」

 わたしは膝を突き、フィオナを抱きしめた。

「わたしはあなたを世界一大切に思ってる、それは本当よ」
「……はい」
「お父様と一緒に居るのに罪悪感を感じる必要なんてない。愛されているうちに、いっぱい甘えなさい。そして出来れば、侯爵領を良い方向に導いてあげて。それが出来るのは……声を届けてあげられるのは、フィオナだけだから……」
「お姉さまぁ……」

 わたしの肩に顔を押し付けて涙をこぼすフィオナ。
 可愛い妹の甘えた姿にわたしは心が癒された。

「今日は久しぶりに、一緒に寝ましょうか?」
「うん!」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です

灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。 顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。 辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。 王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて… 婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。 ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。 設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。 他サイトでも掲載しています。 コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。 それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。 一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。 いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。 変わってしまったのは、いつだろう。 分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。 ****************************************** こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏) 7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

【完結】裏切ったあなたを許さない

紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。 そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。 それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。 そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。

処理中です...