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第五十四話 聖女の真実

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「太陽教会の枢機卿が今さら何の話だ」

 突然の乱入者に対して俺は警戒混じりに言った。

 ……こいつは知っている。

 セシルに依頼して調査させた報告書の中にあった男だ。
 ユースティアを大聖女に祭り上げローズを虐げた張本人。
 そんな男の吐く言葉が信用できるわけがない。

(そんなことより、早くローズを追わねば……)
「聖女の真実を知りたくはありませんか?」
「……なに?」
「それは同時に、ローズが隠している真実でもあります。私の話を聞けば、彼女がなぜ我々教会を目の敵にしているかおのずと分かるでしょう。その愚かさと合わせて、ね」
「……」

 俺は目を瞑り、王都中に魔力を巡らせる。

(ローズは……空中。今は動いていない、か)

 出来れば一刻も早く彼女の元に駆け付けたいが、今、俺が向かったところで先ほどの二の舞になるだけだ。そうなるくらいなら枢機卿の話を聞いてローズが何を隠しているか知ってもおかしくはない、か? まぁ、こいつの話が信用できるならの話だが。

 ……出来るだけ手短に済ませよう。

「どこに行くんだ。座標を言えば転移する」
「王都の神殿。私の執務室へ」

 俺が枢機卿の腕を掴むと、アミュレリアが引き止めて来た。

「ギル」
「セシル、アミュレリアを守れ。傷つけたら殺す」
「言われなくてもそのつもりだよ」

 王都の神殿へ転移し、枢機卿の執務室へ。
 奴が本棚の一つを押すと仕掛けが作動し、音を当てて本棚がズレた。
 そして現れた地下への階段に俺は眉を顰める。

「隠し通路か。話をするならこの場でやってもらいたいのだがな」
「私の話は信用できないでしょう。実際に見てもらった方が早い」

 枢機卿はそう言って歩き出し、俺は後ろを歩く。
 螺旋状に伸びている地下階段はかなり長く、どこまでも続いているように思えた。

(こんなところに一体何を隠している?)
「時にギルティア殿。あなたは聖女についてどれくらいご存知ですか?」
「……神殿が神聖術の才を見出した子供たちを育てたのが聖女だろう」
「それは嘘です」

 堂々と嘘と言われて俺は面食らった。

「……どういうことだ」
「あなたは聖女の顔を見たことがありますか?」

 地下階段の下は整備された石畳の通路が伸びていた。
 魔石灯の光が蒼く光る場所には仮面をつけた聖女たちが行き交っている。
 通路にある扉に出入りする聖女たちを見て俺は応えた。

「ある。ローズと……ユースティアの顔だ」
「ならばその二人以外は?」
「……ない」
「そうでしょうね。あの仮面は取れないようになっていますから」

 だんだんとイライラしてきた。

「何が言いたい。誤魔化すなら……」
「──着きましたね」

 俺の言葉を無視して枢機卿は言う。
 通路の先にある光は眩しく、俺は思わず目を細めた。

「ご覧なさい。あなたが知りたかった真実だ」

 は?

「………………なんだこれは」

 目の前に広がっていたのは、広大な空間だった。
 五百メートル四方の空間に所せましと光る柱が並んでいる。

 光る柱の正体は蒼い液体に満たされた培養槽だ。
 その中には裸の少女たちが膝を丸めていて眠っている。

「ローズ……?」

 その全員が、ローズ・スノウと同じ顔をしていた。
 ローズと同じ白髪の髪、ローズと同じ色素のない肌、ローズと同じ──

 数百人のローズが、そこにいた。

「…………っ!」

 俺は慌てて近くを通った聖女の肩を掴み、無理やり聖女の仮面を壊す。

 ──ローズと同じ顔だった。

「聖女計画。それがすべての始まりでした」

 そして枢機卿は、語りだす。

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