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第四十三話
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ギル様が魔族を撃退したことで大きく変わったことがあります。
『一度目』の世界と明確に歴史が変わったとも言えます。
まずは仲間の存在。わたしたちは正式にハークレイ小隊として認可されました。
ふふん。ギル様が折れた感じですね。
わたしのアプローチに応えてくれた結果と言えます。
次に魔導機巧人形の大量生産化です。
さすがにリネット様一人で魔導機巧人形を大量生産するのは無理ですからね。リネット様にはお金面での野望もありませんし、さっさと魔導具協会に技術供与して魔導機巧人形のレベルを上げたほうが効率的なので。
しかし、本格的に生産するには色々としがらみがあります。
それを取り払うために今、わたしたちはガルガンティアの幕舎に来ていました。
「む、むむむむ無理だよぉ……! 私が王子様と交渉なんて……!」
「大丈夫。ムカついたら殴り飛ばせばいいんです」
「絶対だめだよね!?」
あれ?
首を傾げると、ギル様が援護してくれます。
「ローズの言う通りだ。あいつはそこまで大層な人間でもないぞ」
「さすが我が推し。分かっていらっしゃいますね」
「ふ。当然だ」
「あなたたちの基準がおかしいんですよぉ!!」
いやいやリネット様。
こんな街中で叫ぶだけの度胸があれば王子とのお話なんて余裕ですよ。
「はぁ……まったく。ギルティア様はセシル様の幼い頃からの親友だからともかく……ローズ、あなたも少しは自重しなさい」
「なんですかサーシャ。文句あるならかかってきやがれですよ」
「ついこの間までただの小隊員だったリネットさんに、大聖女だったあなたと同じ態度で臨めというほうが無茶でしょう」
……む。サーシャの癖に理に適ったこといいますね。
仕方ありません。ここはわたしが引いてあげましょう。
なぜかリネット様が神でも見つけたように手を合わせました。
「サーシャ様。私、今ほどあなたが居てよかったと思った事はありません……」
「よしよし。ザ・常識外たちと一緒だとさぞ苦労したでしょう。もう大丈夫ですよ、リネットさん」
「うえぇえ~~~ん」
わたしとギル様は顔を見合わせました。
「ギル様、言われていますよ」
「君も言われていることを忘れるな」
「常識では計れない元聖女ですか。お褒め頂きありがとう存じます」
「褒めてない!」
最近、ギル様のツッコミがノリよくなってきたので嬉しいです。
これは心を許してくれてる証拠じゃないでしょうか。
というわけで、幕舎にやってきました。
ギル様の側にいる美女たちに兵士たちも視線が釘付けです。
「うわ、死神が仲間を連れ」
「はい、天誅です。『光のや』」
「「「やめなさい」」」
仲間が増えて天誅が難しくなってきました。残念。
元帥の部屋まで到着すると、護衛の兵士たちが戦々恐々とした目でわたしたちを見つめます。
何か文句がおありなのでしょうかと目を向ければ、サッと視線を逸らされました。そういえばこの人たちには大聖女時代に会ったことがあるような気がします。ふふん。既に格付けは終わっているようです。
「ようこそハークレイ小隊の諸君。会いたかったよ」
応接ソファで優雅にお茶を飲んでいるセシル様が出迎えてくれます。
金髪の優男は淑女を虜にする気色悪い営業スマイルを浮かべました。
ギル様の横にわたし、リネット様、サーシャの順番で座ります。
「俺はコーヒー。ローズはココア。リネットとサーシャは紅茶だ」
「あ、わたしはクッキーもお願いします」
「うちは喫茶店じゃないんだけどね!?」
「似たようなものだろう」
「全然似てないんだけどねぇ……!」
「ほらねリネット様。大した男じゃないでしょう」
「ぴっ!?」
「ローズ、あなたほんとに黙ってなさい……!」
そしてなんだかんだと出てくるクッキーです。
サーシャの手が伸びてきてわたしの口にクッキーが突っ込まれました。
「こんなんで黙られると……もぐもぐ……思わないことで……もぐもぐ」
「馬鹿が黙っている間にさっさと本題に入ろう」
ギルティア様がため息をついて言いました。
「魔導機巧人形の大量生産にまつわる交渉。開発者はリネットとローズだが、二人は特許にまつわるすべてを放棄し、魔道具協会に技術供与すると言っている」
「はぁ……それは事前に聞いてたけどさ。本当にいいの?」
セシル元帥はリネット様へ確かめるように問いかけます。
「ぶっちゃけ君が開発した魔導機巧人形だけどね。今の技術の十年は先を行く技術だ。この特許を持っていれば生きているだけでお金が手に入るし、一生遊んで暮らせるよ? クウェンサ家だって君を見直して出迎えてくれると思うけど」
「い、いいんです」
リネット様は緊張気味に頷きました。
「私が欲しいものは……欲しかったものは、もう手に入ったから」
「……ふぅん?」
リネット様の視線につられてセシル元帥がわたしを見ます。
もぐもぐ。しかしこれ美味しいですね、もぐもぐ……。
セシル元帥は頭をがしがしと掻いてため息をつきました。
「ぶっちゃけそこまで無欲だと、逆に不気味なんだけど……」
「リネットに含むところはない。俺も、ローズも同じだ」
ギル様は真剣な声音です。
「俺は、俺たちは戦争を終わらせたい。ただそれだけだ」
「そのために魔導機巧人形が必要だと」
「断言する。あれは戦争の形を変える」
「……君がそこまで言うほどか。まぁあのデータを見たら納得するけど……」
セシル元帥は頷きました。
「分かった」
お。意外と物分かりがいいではないですか。
わたしたちは顔を見合わせて口元をほころばせます。
「と言いたいところなんだけどね」
え?
セシル元帥はいきなり頭を下げて、
「ごめん、無理だ。魔道具協会が反発した」
はぁああああああああああああああああ?
『一度目』の世界と明確に歴史が変わったとも言えます。
まずは仲間の存在。わたしたちは正式にハークレイ小隊として認可されました。
ふふん。ギル様が折れた感じですね。
わたしのアプローチに応えてくれた結果と言えます。
次に魔導機巧人形の大量生産化です。
さすがにリネット様一人で魔導機巧人形を大量生産するのは無理ですからね。リネット様にはお金面での野望もありませんし、さっさと魔導具協会に技術供与して魔導機巧人形のレベルを上げたほうが効率的なので。
しかし、本格的に生産するには色々としがらみがあります。
それを取り払うために今、わたしたちはガルガンティアの幕舎に来ていました。
「む、むむむむ無理だよぉ……! 私が王子様と交渉なんて……!」
「大丈夫。ムカついたら殴り飛ばせばいいんです」
「絶対だめだよね!?」
あれ?
首を傾げると、ギル様が援護してくれます。
「ローズの言う通りだ。あいつはそこまで大層な人間でもないぞ」
「さすが我が推し。分かっていらっしゃいますね」
「ふ。当然だ」
「あなたたちの基準がおかしいんですよぉ!!」
いやいやリネット様。
こんな街中で叫ぶだけの度胸があれば王子とのお話なんて余裕ですよ。
「はぁ……まったく。ギルティア様はセシル様の幼い頃からの親友だからともかく……ローズ、あなたも少しは自重しなさい」
「なんですかサーシャ。文句あるならかかってきやがれですよ」
「ついこの間までただの小隊員だったリネットさんに、大聖女だったあなたと同じ態度で臨めというほうが無茶でしょう」
……む。サーシャの癖に理に適ったこといいますね。
仕方ありません。ここはわたしが引いてあげましょう。
なぜかリネット様が神でも見つけたように手を合わせました。
「サーシャ様。私、今ほどあなたが居てよかったと思った事はありません……」
「よしよし。ザ・常識外たちと一緒だとさぞ苦労したでしょう。もう大丈夫ですよ、リネットさん」
「うえぇえ~~~ん」
わたしとギル様は顔を見合わせました。
「ギル様、言われていますよ」
「君も言われていることを忘れるな」
「常識では計れない元聖女ですか。お褒め頂きありがとう存じます」
「褒めてない!」
最近、ギル様のツッコミがノリよくなってきたので嬉しいです。
これは心を許してくれてる証拠じゃないでしょうか。
というわけで、幕舎にやってきました。
ギル様の側にいる美女たちに兵士たちも視線が釘付けです。
「うわ、死神が仲間を連れ」
「はい、天誅です。『光のや』」
「「「やめなさい」」」
仲間が増えて天誅が難しくなってきました。残念。
元帥の部屋まで到着すると、護衛の兵士たちが戦々恐々とした目でわたしたちを見つめます。
何か文句がおありなのでしょうかと目を向ければ、サッと視線を逸らされました。そういえばこの人たちには大聖女時代に会ったことがあるような気がします。ふふん。既に格付けは終わっているようです。
「ようこそハークレイ小隊の諸君。会いたかったよ」
応接ソファで優雅にお茶を飲んでいるセシル様が出迎えてくれます。
金髪の優男は淑女を虜にする気色悪い営業スマイルを浮かべました。
ギル様の横にわたし、リネット様、サーシャの順番で座ります。
「俺はコーヒー。ローズはココア。リネットとサーシャは紅茶だ」
「あ、わたしはクッキーもお願いします」
「うちは喫茶店じゃないんだけどね!?」
「似たようなものだろう」
「全然似てないんだけどねぇ……!」
「ほらねリネット様。大した男じゃないでしょう」
「ぴっ!?」
「ローズ、あなたほんとに黙ってなさい……!」
そしてなんだかんだと出てくるクッキーです。
サーシャの手が伸びてきてわたしの口にクッキーが突っ込まれました。
「こんなんで黙られると……もぐもぐ……思わないことで……もぐもぐ」
「馬鹿が黙っている間にさっさと本題に入ろう」
ギルティア様がため息をついて言いました。
「魔導機巧人形の大量生産にまつわる交渉。開発者はリネットとローズだが、二人は特許にまつわるすべてを放棄し、魔道具協会に技術供与すると言っている」
「はぁ……それは事前に聞いてたけどさ。本当にいいの?」
セシル元帥はリネット様へ確かめるように問いかけます。
「ぶっちゃけ君が開発した魔導機巧人形だけどね。今の技術の十年は先を行く技術だ。この特許を持っていれば生きているだけでお金が手に入るし、一生遊んで暮らせるよ? クウェンサ家だって君を見直して出迎えてくれると思うけど」
「い、いいんです」
リネット様は緊張気味に頷きました。
「私が欲しいものは……欲しかったものは、もう手に入ったから」
「……ふぅん?」
リネット様の視線につられてセシル元帥がわたしを見ます。
もぐもぐ。しかしこれ美味しいですね、もぐもぐ……。
セシル元帥は頭をがしがしと掻いてため息をつきました。
「ぶっちゃけそこまで無欲だと、逆に不気味なんだけど……」
「リネットに含むところはない。俺も、ローズも同じだ」
ギル様は真剣な声音です。
「俺は、俺たちは戦争を終わらせたい。ただそれだけだ」
「そのために魔導機巧人形が必要だと」
「断言する。あれは戦争の形を変える」
「……君がそこまで言うほどか。まぁあのデータを見たら納得するけど……」
セシル元帥は頷きました。
「分かった」
お。意外と物分かりがいいではないですか。
わたしたちは顔を見合わせて口元をほころばせます。
「と言いたいところなんだけどね」
え?
セシル元帥はいきなり頭を下げて、
「ごめん、無理だ。魔道具協会が反発した」
はぁああああああああああああああああ?
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