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第二十三話 新しい仲間
しおりを挟む「──というわけで、リネット様の小隊加入の手続きをお願いします」
「何がというわけでだ、この馬鹿者」
「いだだだだだだだっ、いだいっ、ギルひゃま、ほおはらめれすっ」
推しがいない間にリネット様を連れ込んだら頬を引っ張られました。
隣の席に座ったわたしに容赦のないギル様です。
まぁ、口では痛いと言いつつもそんなに痛くはありません。
むしろ推しに触れてもらえたのでご褒美まであります。
この頬、しばらく洗いませんよ。
「いいなぁ……」
むふ。向こうの席に座るリネット様の眼差しが突き刺さります。
心なしかほっぺたを突き出しているのがお可愛らしいです。
「それで──リネット・クウェンサだったか」
「は、はひっ!」
ギル様はリネット様の頬は触らず問いかけました。
あとでわたしがやってあげましょう。
「お前はいいのか。私がいる部隊で。この女に無理やり引っ張られたのだろう」
「は、はい! わわ、私なんかがお役に立てるのであれば……!」
「それは絶対に問題ありませんよ」
わたしはすかさずフォローします。
「リネット様は必ずギル様のお役に立ちます。この街にいる誰よりも」
「なぜそう言い切れる。この子の評価を見たがどれも平凡ランクだぞ」
「ふふ。ギル様、わたしは大聖女だった女ですよ?」
こんな時だけ聖女ぶるわたしです。
散々利用されたのですから、その肩書きくらい使い倒してやりましょうとも。
「リネット・クウェンサは世紀の大天才です。このわたしが保証しましょう」
「ろ、ローズさん……」
「……ふん。また悪女らしいこと企んでいるのか?」
「えぇ、まぁ」
迷いなく頷くと、ギル様は仕方なさそうにため息を吐かれました。
「……何を企んでいるのか言え。そうしたら許可は出してやる」
「ほんとですかっ」
「名前を置くだけだ。俺と共に戦うわけではない」
まぁリネット様がギル様の隣で戦うのは絶対に無理ですしね。
でも、意外です。もう少し粘られるかと思ったのですが。
「どういう風の吹き回しですか、ギル様」
「……これ以上、君に悪役をやらせるわけにはいかないからな」
「え?」
「何を企んでいるか分かれば尻ぬぐいがやりやすいと言ったんだ。どうせ君はまたトラブルを起こすのだろう。この前も俺がどれだけ気を揉んだか分かっているのか?」
「いだだだだっ、こんろはほんほにいらいですっ!」
またほっぺたを引っ張られてしまいました!
この推し、若干楽しんでいる節があるのは気のせいでしょうか?
「……ローズさんのこと、大切にしてるんですね」
ぽつりと、リネット様が呟くと。
「…………ふん。利用できるからしているだけだ」
どことなく耳を赤くしたギル様が目を逸らしました。
ずっきゅーん! とわたしは胸を撃ち抜かれます。
「か、可愛い……! ギル様、可愛すぎませんか!?」
「えぇい、じゃれるな、離れろ!」
「リネット様、今の表情、写真撮りました?」
「ふふ。心のシャッターはばっちりだよ」
「うわぁぁあああん、わたしにもその映像を共有してください!」
「えぇ~、どうしようかなぁ」
わちゃわちゃとお話はしたものの──
ひとまず、リネット様が正式にハークレイ小隊に入ることになったのでした。
◆
「だからですね、魔導核を中心に埋め込んで内部魔力と外部魔力を融合させるんですよ。それがエンジンとなって全身を動かします。関節部はホムンクルスの肉体を使いましょう。それは禁忌? 禁忌なんて犯してなんぼですよ、細胞から部位だけ培養するだけですから命はありませんし。禁忌スレスレじゃないですか? 義手みたいなものと思ってくだされば。はい、術式ですか? 別に複雑な術式にする必要はありません。魔族は等しく瘴気を纏っているんですから瘴気に反応して攻撃するように仕込めば済む話です。ミスリルの金板に書き込んで固定します。あとは既存の魔導機巧技術を使えば実現可能です。他に質問は? ないですか。ではわたしはお風呂に入ります。リネット様も一緒に……え? そうですか? リネット様のお胸もわたしは好きですけど。まぁいいでしょう。いってきますね。またあとで話しましょう」
ひとまずわたしが知る限りの魔導機巧技術を話してみました。
魔導機巧人形に触れるのは初めてという話でしたが、魔道具技術局から拝借してきた一体を興味深そうに観察して一心不乱にメモしています。心なしか目を輝かせている気がするので、もう大丈夫でしょう。
「さてと」
訓練室の扉を閉めると、廊下の壁に背を預けたギル様が居ました。
「あら、ギル様。どうされました?」
「大聖女は魔導機巧人形の製造技術も学ぶのか?」
「えぇ、まぁ。戦場に必要なことですからね」
本当はリネット様に教えてもらっただけですけど。
ギル様は含みあるわたしの言葉を見透かしたようにため息をつきます。
「魔導機巧人形で魔族を押しとどめ、後方から魔術師が砲撃する……現代の騎士・魔術師を中心とした考え方とは一線を画したやり方だ。とても教会が教えるようには思えないがな」
「何が言いたいのですか?」
「君は俺に隠していることがあるな?」
「Si。もちろんあります。乙女に秘密はつきものですから」
二年後の技術を教えるのは一足飛びに過ぎましたかね。
でも今から準備していかないと第八魔王の侵攻に間に合いませんし。
「別に責めているわけではない。俺が言いたいのは……もっと自分を……あー、労わるというかだな……」
ギル様はがしがしと頭を掻いて、言いたいことを呑み込んだようでした。
最後のほうは小声すぎて良く聞こえません。
それからかぶりを振り、わたしを真っ向から見つめてきます。
「ローズ」
「はい」
「明日は空いているか?」
「はぁ、まぁ。空いていますが」
「出かけるぞ」
「Si。分かりました……………………へ?」
わたしはポカンと呆けてしまいます。
お出かけ、お出かけ、お出かけ……頭のなかで同じ言葉が反響します。
「三の鐘が鳴るころにリビング集合だ。遅れるな」
「え」
ギル様は言うだけ言って去って行きました。
え。待って。
待って待って待って。お出かけ? 誰が?
わたしが? 推しと?
「えぇええええええええええええええええええ!?」
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