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第十六話 悪役聖女の謎 ※ギルティア視点
しおりを挟む前線都市ガルガンディアにある幕舎を俺は歩いていた。
無骨な石造りの廊下には事務官たちが忙しなく行き交っている。
「お、おい。死神様だ。なぜここに……」
「いつもは引きこもって魔導通信でしか任務を受けないはずなのに」
「ま、まさかあの方でも勝てないような敵が現れたのか……!?」
鬱陶しい戯言を聞き流しながら元帥の執務室を乱暴に開ける。
ノックもせず入って来た俺に対し、金髪の優男が困ったように眉を下げた。
「ギル。来るときはいつもアポをくれと言っているだろう」
「面倒」
「仮にも元帥に対してそんな口の利き方をするのはお前だけだよ……」
「構わんだろう。どうせお飾りの役職だ」
「君はもうちょっと歯に衣着せようね!?」
無視してソファに座ると、侍女がお茶を持ってきた。
無表情の侍女の慣れた様子に満足しつつ、俺はカップを傾ける。
「セシル。首脳部の無茶振りを手伝ってやってる俺に感謝は」
「はいはい、ありがとうございます。感謝してるよほんとに」
「よろしい」
この優男の名前はセシル・ファルド。
俺の幼馴染でありオルネスティア王国の第二王子だ。
連合国軍で最も大きな軍事力を持つ国だから元帥に選ばれたが、実戦経験が少ないからいつも周りの老害共から舐めた任務を振られて困らされている。俺はその手伝いをしているからセシルには貸しがたくさんある。
「で、何の用? 君が直接来るなんてただごとじゃないよね」
「ローズ・スノウを知っているか」
「……? それって君のとこの小隊に配属された元大聖女でしょ。君があんまりに拒絶するものだから僕もだいぶ苦労して……」
「小隊に入れた」
「は?」
セシルは目を丸くした。
「君が? なぜ? どういう風の吹き回しだい」
「……不本意な成り行きだ」
仮にも魔術勝負で負けたなどとは口が裂けても言えない。
そんなことを言ったら一生こいつに揶揄われるからな。
「そうか、君がついに仲間を……そうかぁ」
セシルは嬉しそうに目元を緩ませた。
「良かったな。ギル。心配してたんだよ、本当に」
「……保護者面するな」
こいつは昔からこういうところがある。
ことあるごとに俺に構って来て……まぁ、救われたこともあるが。
いや、今はいい。
「ローズ・スノウのことだ。奴のことを調べてもらいたい」
「……どうしてだい?」
「俺の知っている元大聖女と、今のあいつが違いすぎる。本当に同一人物なのか」
それに、ローズ・スノウには不審な点が多々ある。
一、聖女にも関わらず魔術を使える。
二、元・大聖女にも関わらず妹に嫌がらせを受けている。
三、死神と呼ばれている俺の小隊に望んで入った。
他にも神聖術の威力が大きすぎることや過去の相違点があげられる。
過去、ギルティアが出会った彼女はあんなにも表情豊かではなかった。
命じられたことを淡々とこなす人形のような姿に薄気味悪さを覚えたものだ。
何が彼女を変えたのか、また、彼女が教会でどういう扱いを受けていたのか。
「元帥であるお前なら調べられるだろ」
「また無茶を言うなあ。聖女の情報は教会の既得権益にも関わるから、連合軍にさえ情報が届いてないのに」
「頼む」
まっすぐ目を見て言うと、セシルはため息をついた。
「…………分かったよ。出来る限り調べる」
「ありがとう。助かる」
「……こういう時は素直に礼を言うから、断れないんだよなぁ」
「なんだ」
「別に。君がそこまで女性のことを気にするのが珍しいなと思っただけさ」
「小隊員のことを気にするのは当然だろう」
にやにや顔がうざいな。
「そう? いつもの君なら隊員とすら認めずに追い出すじゃないか」
「……ふ。あいつは悪女だからな」
今思い出しても笑みがこぼれてくる。
死神と呼ばれている俺にひるまず、真っ向から勝負を挑んできた彼女の姿を。
あいつなら、いつ俺が居なくなっても何とかやっていくだろう。
「……もう行く。とにかく頼んだからな」
「あぁ。ローズ・スノウと仲良くね」
これ以上ニヤニヤされる前に、俺はその場を後にした。
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