上 下
4 / 8

押し寄せる不安

しおりを挟む
無事に部活が終わり、教室に入る。

「あっ。おはよう、葉月、愛流!」

「おはよう、菜摘!」

「おはよう、菜摘ちゃん!」

榎本えのもと 菜摘なつみ

あたしの幼馴染で、菜摘もあたしが京介に片思いしているのは知っている。

菜摘は身長が高くて男勝りな性格で、愛流とは違う形で男子に人気だ。

「葉月、あそこに深山がいるし、挨拶くらいして来い」

菜摘は、男子達と一緒に談笑している深山に指を指して言った。

「べ、別にいいってば!」

あたしはまた顔真っ赤にして、両手を顔の前でぶんぶん振っていると、いつの間にか京介がこっちに歩いて来た。

「おはよう、菜摘、磯崎」

優しい笑顔に、思わず胸がドキドキする。

「お、おはよう、京介!」

「おはよう、深山くん」

愛流は微笑み返した。

(今日もカッコいいなぁ・・・)

あたしが少し見とれていると、京介の表情が急に真剣そうな表情になる。

「あのさ、磯崎。少し話したい事があるんだけど、いいかな?」

「ん? 別にいいけど?」

「ありがとう。んじゃ、ちょっとこっち来て」

首を傾げる愛流を連れ、二人は教室を出て行った。

「何話すんだろ、京介」

「もしかして、葉月に告ろうと思って愛流に相談するんじゃねぇのか?」

「菜摘! そんな冗談言わないでよ~!」

すると、近くにいた男子達の話声が耳に入る。

「京介のやつ、磯崎に告るんじゃねぇのか?」

「それあるかも。京介って、学校にいる時よく磯崎の事見てたし、話し掛けてるしな」

「美男美女だし、お似合いだよな~」

男子達の言葉が、胸に突き刺さる。

(京介、いつも愛流の事見てたの?)

あたしは過去の記憶の中で探り出す。

(いつもあたしに話し掛けてたのって、それってあたしじゃなくて愛流と話したかったから? あたしと愛流はいつも一緒だから、簡単に話す事ができると思ったから?)

自分でも嫌になる程、そんな思考が頭の中を駆け巡る。

「おっ。帰って来たぜ、二人共」

菜摘の声で、あたしはハッと我に帰る。

見ると、京介は妙に機嫌がよく、ニコニコとしていた。

愛流は少し顔を赤らめ、俯いている。

でも、その表情は嬉そうだった。

すると、愛流はあたしの視線に気付くと、小さく口を開け、悲しそうな表情をする。

(何? 何でそんな表情をするの?)

先程の不安が、あたしの中で渦巻く。

朝休みが終わり、HRが終わって授業に入っても、不安は中々消えなかった。

そして、やっと授業が終わったと思えば、愛流は京介の元に駆け寄った。

(何で? いつもはあたしの所に来てくれるのに)

愛流は京介と何か少し話した後、あたしの元に来て話し掛けた。

「ねぇ、葉月ちゃん。放課後、話があるんだけど、いい?」

愛流は眉を潜め、悲しそうな表情をして言った。

「え・・・。わ、わかった・・・」

あたしは歯切れ悪く答えた。

愛流はその事を伝えると、先程京介の元に寄った足取りよりも、足取りが重くなっているような感じで、京介に話し掛けた。

すると今度は、菜摘が心配そうな表情をして話し掛けてきた。

「大丈夫か、葉月。朝から元気ないみたいだけど。保健室にでも行くか?」

「あ、ううん。大丈夫だから、そんな心配しなくてもいいって」

「そうか? なら、いいんだけどな。けど、いいか、葉月。アタシは、葉月の見方だからな」

そう言い残すと、菜摘は他の友達と楽しそうに話し始めた。

「見方、か・・・」

その言葉が、今のあたしの救いだ。

あたしは、早く放課後になってほしい、ならないでほしい。そんな曖昧な気持ちで、あたしは放課後まで過ごした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

君の浮気にはエロいお仕置きで済ませてあげるよ

サドラ
恋愛
浮気された主人公。主人公の彼女は学校の先輩と浮気したのだ。許せない主人公は、彼女にお仕置きすることを思いつく。

飲みに誘った後輩は、今僕のベッドの上にいる

ヘロディア
恋愛
会社の後輩の女子と飲みに行った主人公。しかし、彼女は泥酔してしまう。 頼まれて仕方なく家に連れていったのだが、後輩はベッドの上に…

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。

猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。 『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』 一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。

処理中です...