君のナミダに渇くカラダ

あーむす。

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27.決めるなら今しかない。

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「じーんっ、お風呂にする?ご飯食べる?それとも……」

「いいからそういうの。お前そういうタイプじゃないだろ。てかなんで同じ部屋なんだよ。」

ぶつくさ言われる文句を華麗に無視して、私は布団にばふーんとダイブする。

「いいじゃない、その方が安いし。経費削減よ。」

そう言った私の言葉を今度は仕返しのつもりなのかはわからないが無視し、彼はさっさとシャワーを浴びに行った。

なによ。さっきから1ミリも会話成り立ってないじゃない。

シャワーの水温を聞きながら、枕に顔を埋める。

今日の仕事は絶好調だった。

昔からずっと一緒だっただけあって、息もピッタリだった。

でも、こんな幸せな時間はずっとは続かない。もう、明日になったら帰ってしまう。

私が仁のそばにいれるのもあと少し。

…決めるなら、今しかない。

ここに来る前から、あの日からずっと、ずっと覚悟してた決意を再確認した。








「…おい。里佳?もう寝たのか?」

せめて俺風呂入ってたんだから電気は消すなよ。そんなことを言いながら仁は真っ暗な部屋を進んだ。

吸血鬼は夜目がきくというけれど、俺はそんな自分が夜目が効くとは思わない。普通の人間の基準もわからないし、吸血鬼の基準もわからないけど。少しぼんやりとした視界の中でベットを見つけて腰を下ろし、準備していた寝巻きを探そうとすると……


背中に柔らかいものが押し付けられた。

それが何なのかに気づき、1つ大きな息をつく。

「…里佳。離れろ。」

彼の風呂上がりのたぎった身体に、里佳は文字通り自分の全てをさらけ出して彼にぶつけた。

「…嫌。もう、離れたくない。」

よりきつく彼にしがみつく。

彼に引き離されそうになったが必死になって抵抗した。

しばらくそんな静かな攻防を繰り返していると、彼はその手をとめ、少しため息を漏らした。

また。また、ため息。

「…なぁ、お前さ。俺といても、また傷つくだけだぞ?もうわかってると思うけど、俺はお前と違うものになってるんだよ。」

また呆れてる。さっきから、ずっと。
やっぱり、迷惑だろうなぁ。楽しかった幼少時代も、付き合えてた頃は楽しかったのになぁ。
気づかなかっただけで、あの頃から楽しかったのは私だけだったのかなぁ。

自然に込み上げてきた涙に私は気づいた。
そこからは自然に身体が動いていた。

「…ねぇ、ねぇっ、じんっ、じんっ、私のこと、餌にしていいんだよ?
飢えを我慢すんの大変だってこと、私、知ってるもん。
だから、だからっ、さぁ…?」

仁の正面に回り込んでみっともなくすがりつく。
みっともなくてもいい、だって私はこの人の餌なんだから。それでいいの。
必要としてもらいたいの。

闇の中で視線が重なる。

その無機質な目に少しだけ恐怖を覚える。

でも、私にできることはこれしかない。
これだけしか私が彼にとって必要とされる術はない。

そうでしょう?

でも、私はどうしていいかわからなくなってそのままそっと目を閉じた。

するとー頭の上にそっと手が置かれた。

そして、ポンポンと小さい子供をあやすかのように叩かれる。

…仁?

そろそろと名前を呼ぶと、久しぶりに、彼の低いけど、少しかすれた優しい声を聞いた。

「…里佳。なんで泣いてるんだ?何が悲しいんだ?」

そう言って、また彼は私の頭をポンポン撫でる。

またボロボロと涙がこぼれ落ちてきた。

返事をしない私を見て、仁はまた優しい声で語りかけた。

「…なぁ。俺さ。気づいたんだよ。

あの日、さ、俺、お前がなんで泣いてたのかなんて全然気にせずに、ただただ自分の飢えを満たすために、糧、にしてた。
それで悲しい気持ちとかは無くなるのかもしれないけどさ、それじゃ心が空っぽになっちゃうよな。
悲しくて傷ついた心の傷に、思いやりとか優しさとかあたたかいものを塗り重ねて、本来癒えていくはずなのに、な。

ごめんな、里佳、ごめんな…」

仁の言葉が私の心に染み渡る。

…そうだった。

私はずっと、寂しかった。

ずっと前から仁のことが好きだったのに、あんなに仲良く遊んでて、これからだって、ずっとずっと当たり前のように一緒に成長していくんだって思ってたのに、私のことなんて気にもせずに、何も言わずに私たちの前からいなくなった仁。

やっと再会したら、全く違うものに変わっていた仁。

怖くなって、寂しくって、泣いて、無くなって、泣いて…

気がついたら仁への気持ちよりも、自分が苦しさから逃れることに必死になっていた。

仁自身の気持ちだって、自分の仁への気持ちだって。

全部おざなりにして、大事にしてあげてなかったんだ。

「…聞いてくれる?」

仁がゆっくりと頷く。

それを見て、私は仁の目をじっと見つめた。

「ずっと前から好きでした。」

やっと言えた。

これだけを伝えるのに、私はどれだけ間違えたんだろう。

もっと素直に、この気持ちだけを届ければよかったんだ。

さっきまで馬鹿みたいに流れていた涙も不思議と止まっていた。

「…里佳。俺は、お前を吸涙しなくても救えたか?」

まっすぐ私の目を見ていう仁に、

「悲しくないどころか、幸せだよ。」

やっと笑顔で微笑み返せた。

仁はそこでホッとしたかのような安心したかのような表情を見せたが、途端にすっと顔を曇らせた。

「…でも、あのな、おれ…」

私は言葉を遮った。

「わかってる。私、仁としっかり向き合えただけで幸せみたい。
あの時から、仁が私たちの村から出て行ったあの日から、前に進みたかっただけ。

…だから、モタモタしてないでさっさと告っちゃいなさいよ?」

「な、え、なんで!!」

「いやいや、あんなバレバレなの気づかないわけないじゃない。」

仁は耳まで真っ赤になった顔を隠すように頭を抱えてうー、だの、あー、だの言っている。

…気づいてるの、絶対私だけだと思うけどね。仁、会社じゃ鉄仮面みたいだし。

でもまぁ、それくらいのイジワルは許されるだろう。



その夜私たちは、お互いに吸血鬼だの吸涙鬼だのなんにもなかったあの頃みたいに楽しく笑いあったんだ。
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