君のナミダに渇くカラダ

あーむす。

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24.いつかくるってわかってた〜仁side〜

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俺が家を出てしばらくしてから、近所の人からの通報で施設に保護されていた俺は、奨学金で大学まで行かせてもらうことができた。

中高は自分の涙で飢えをしのぎ続けられたから、大学に行っても俺はあまり困ることはなかった。
むしろ、大学に馴染めるかを不安に思ってたくらい普通の人間の生活に馴染んでいた。

でも、1人で校舎に足を踏み入れた時、また俺はあの逃れられない運命に出会ってしまったんだ。

「ねぇ、ねぇっ、仁っっ!!やっと、やっと会えたね…!!」

突然、俺は後ろから抱きつかれていた。

痴女かっと思ったのもつかの間、その声を聞いた直後、あの記憶がフラッシュバックした。

…里佳。連れ戻しにきたのか。殺しにきたのか。
混乱する頭から意識が遠のきそうになる。

だがその瞬間、俺は奇しくも餌のカオリに意識を瞬時に取り戻した。

「仁…仁…っ!!心配してたんだよっ」

俺のために流れる涙に、俺は飢えて飢えてたまらなかった。





「私ね、仁が血が飲めなかったって聞いてから、生きてるかなって心配で…
一人前になったから、すぐこっちに出てきてニオイをたどって高校生の仁を見つけたの。
そしたら元気そうにしてたから……
同じ大学受けようって思ったんだ。」

里佳はあの日から俺の部屋に入り浸っている。
俺が生きていたから、きっと吸血できるようになったと思ってたんだろう。

ニコニコしている里佳を見ていると、本当のことなんて言えずに俺は誤魔化し続いた。

ただ一つ、俺にとって重大な問題が発生してしまった。
ずっと里佳が家にいるせいで、泣くことができる時間がなくなってしまったのだ。
もともと1人部屋だったから部屋も狭くて、1人になる時間がないのだ。

俺たちはまた、結果的に同棲状態になっている様子から周囲が付き合っている、とおもっていたので、自然と俺たちも付き合うことになっていった。


そんなある日。

その日は珍しく里佳が家に居なかったので、俺はこのチャンスを逃すかとして1人で泣くことを試みた。

床に直接座り込み、1つ息を吐き目を瞑る。

あの日の光景を思い浮かべる。

あの感覚全てを覆い隠すような鉄の強い味、村のみんなの目、父にぶつけられた言葉…


うすら目が潤ってきたのを感じた瞬間、俺は再びあの光景を見ることになった。

「仁ーーーっっ、血、とってきたよっ、一緒に食べよう?」

少し軋むドアが勢いよく開かれると、真っ黒いマントのようなものを羽織った里佳が帰ってきた。

さっきまでリアルに考えてしまっていたのも影響し、一瞬で過去と現在の記憶が交錯する。

しかし、俺は不思議なくらい冷静にその光景を見ていた。

頭の中では、今まで何度も何度もこの光景を見ているから。

今起きてることだって、なんなら初めてじゃないような気がした。

いつかくるってことも、分かってた。

里佳は前俺に自慢してきた、人間からは見えなくなるマントを羽織り、気を失った男性を連れてこっちに近づいてきた。

40代くらいだろうか、その男性のシャツの首元は乱暴に破かれ、土色の首にはすでに少し吸われているのか二本の穴が空いている。

「仁?どうしたの?」

あまり反応を示さない俺を見て不思議に思ったのだろうか。

そう言って開いた口元から覗く白い歯には、少し紅い液体が見えた。


それを見て、突然、本当に突然、なにかがきれた。

「…でていけっっ!…でてけっ!!」

頭を伏せて、俺の大きな声が狭い部屋いっぱいに響く。

でていけ、でていけ、でていけーーー

俺は何度も、なんども、声が枯れるまで叫んだ。

今までの分全部。

あの日の分も、これまでの分も。

酸素が足りなくなって、声が枯れてきて、自分の声が耳に響かなくなったあたりでようやく落ち着いてきた。

…あの日は、ただ言いなりにしかなれなかった。

けど、今はちゃんと自分で嫌だって言える。

逃げ出すことができる。

ようやく、あの日から逃げ出すことができた気がした。



ーーーっ、ひくっ、っぅっ、っ…

里佳の嗚咽が聞こえてくるまでは。

「っ、ねぇ、ごめんっ、っ、私っ、な、なにか、した…?」

ポロポロとひっきりなしに、彼女の頬を雫がつたう。

あぁ、そうだ、そうだ、この吸血鬼は、里佳だった。

幼い頃から一緒に生きていた、里佳なんだ。

咄嗟に謝罪の言葉が出ようとした時、俺の目は俺の思考とは裏腹に、彼女の目から流れ落ちる涙から目が離せなくなっていた。


そう。俺はずっと渇いてた。
今、さっきも。

はっと気づいた時には、俺は里佳を押し倒して涙を貪るように食っていた。

自分のそれとは比べものにならないほどの満足感。
それはそれは夢中になった。

ぼんやりした頭で里佳の顔を見たとき、一瞬で俺は我に返った。

途端に青ざめた俺の顔を見て、今度は里佳が俺をナニモノかを見る目で見つめた。



堪忍した俺が説明すると、彼女は深くため息をついた。

「信じられないけど、本当みたい。
でもね、びっくりした。さっき、仁が突然人が変わったみたいにみえて怖かったのに、ふわって突然なくなったの。」

そういう彼女は、なんだか夢の中にいるような…ここにあるものを見てないような、そんな表情をしていた。
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