君のナミダに渇くカラダ

あーむす。

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20.謎の女事件

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月曜日、職場に向かうと、デスクが1つ空になっていた。

私を襲った同僚は、リーダーの計らいのもとで他の課に異動する、という処分が下されていて、すでにフロアにはいなかった。

昨晩、リーダーから電話があり、同僚の処分について聞かされていたため、驚きはない。

「クビにしようか」とも言われたが、結局襲われたとはいえ未遂だったし、そこまで彼の人生を狂わすのは怖かったのでそれは断った。

同じ課の人達は不思議がっている様子でその日起きた出来事を知らない人も多く、お酒のせいで忘れていたり、気づいていない人も多かったと後で早苗から聞いた。

今でも思い出すと恐怖を感じる。
怖い、というのは同僚のことが怖いのではない。
あの日の同僚の姿が、追ってくる義父の姿に重なって見えた気がしたからである。

でも、そこまで考えて暗い気持ちになると、すぐにそんな影を取り払ってくれたリーダーのことで頭がいっぱいになっていく。
単純、私。
もうすでに、吸涙鬼だとか、人間だとか。そんなこと忘れてしまうほど私はリーダーを慕っていた。

すると、ちょうど職場の電話が鳴っているのに気づいた。

慌てて受話器を手に取り仕事モードに頭を切り替える。

「はい、こちら………」

「すみません、そちらの課に仁はいませんかっ!?」

突然、切羽詰まったような若い女性の声が耳元で響いた。

一体なんなんだ。ただ、仕事に関係する内容ではないだろうと感じた。

「すいません。失礼ですが、どちら様でしょうか?」

「いいからっ!!仁と代わってっ!!」

あんまりにもしつこいので押し切られるように、そのままリーダーの元へ受話器を持っていく。

仁、と下の名前で呼ぶとは、あの女性はリーダーとどんな関係なんだろうか。
私は気になり始める前は、リーダーの下の名前なんて知りもしなかった。

訝しげな顔で受話器を受け取ったリーダーは、彼女の声を聞いた途端に、珍しく表情を大きく変化させた。

「っっ里佳!?お前、なんで……」

驚いた声がしてしばらくすると、なにやら電話番号を近くのメモに走り書きすると受話器を耳から話した。

「…すまない、もう大丈夫だ。」

何もなかったかのように淡々と受話器を返されたが、「だれですか?」と聞くことはできなかった。

席についた直後、周囲から聞こえる「彼女じゃない?」という声を聞かないように耳を塞いだ。





意外にも、その「謎の女事件」は想像以上にあっさりと解決した。

その後、我が社を訪問した他社の人の中に、明らかに目立った容姿を持つ若い女性が紛れていた。
モデルのようにすらっとしていて、漆黒に輝くツヤツヤのロングストレートの髪、その髪よりもより深い黒色の大きな切れ長の瞳。

彼女はリーダーの姿を見た途端、

「仁っ…!!本当に久しぶり…!!元気だった??」

と言いながらリーダーに思いっきり抱きついたからである。

私が息を飲んだのと同時に、隣のデスクの最年長おじさまがブーッっとお茶を盛大にふきだした。

「…鮎川さんも、元気になったみたいで良かったです。」

リーダーが引き離しながらいうと、鮎川さんというらしいその女性は「だってー」と言いながらクスクス笑う。

小悪魔のようにいたずらっぽく笑う笑顔がかわいらしい。

しばらく彼女の会社と共同制作を行うらしく、今日はその顔合わせと親睦会をするためらってきたらしい。

この間痛い目にあったばかりだし、今日は抜けよう…と思っていたが、やっぱり彼女が気になる。

あっさりと出席に乗り換えた自分を少し情けなく思う。

どれだけ、私は彼ばっかりなんだろう。
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