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4.……リーダー?
しおりを挟む「…っちょ、ちょっと大丈夫ですか!?
私、人を呼んできますねっ!!」
そう言ってくるりと踵を返しその場を離れようとすると、何か言いたげに彼が口をごにょごにょと動かし始めた。
「だ、だぃ、だぃじょうぶだから……」
そう言っているように聞こえる。
よっぽど体調がよくないのだろう、と思うが、彼は私が人に知らせることを頑なに拒否しているように見えた。
(…でも、そうだよね……。リーダーはただでさえ私達以上の仕事をこなしてるんだよね……)
私の量でさえもきつかった最近の仕事。しかも、私達が昨日帰ってしまった後もきっと彼は1人で続けていたのだろう。
それに、私達も本当は気づいていた。…でも。
ー彼だから大丈夫だよ。
何ていって気づかないふりをし続けていたんだ。
恐る恐る再び彼に近づく。
「…じゃあ、とりあえず、仮眠室に向かいましょう?立てますか?」
そう言ってどうにか手を伸ばすと、
「……っっよるなっ!!!」
顔を手で隠し、短く大声で拒絶されてしまった。
(…いや?この拒絶の仕方……この人、もしかして私と同じ?だったら触れない方が……いや、でもそんなこと言ってる場合じゃない気がする。)
「…ごめんなさい、今だけ我慢して下さい。」
無理矢理一気に彼の腕を引っ張りあげようとすると、今度は
「……っっやめろっ!!!!!」
勢いよく肩を突き飛ばされてしまった。
「きゃ」
腕を握りしめたまま、尻もちをついた瞬間、私は息がかかるほど近くにいる男の目から目が離せなくなる。
突き飛ばされた肩が痛い。
…いや、正確には物理的に痛いのではないのかもしれない。脳が瞬時に過剰に「痛い」という信号を送っているだけなのかもしれない。
胸の奥、まぶたの裏、自分の五感全てを侵食し始めたある1つの映像に、私は飲み込まれていくのを感じた。
音は自分の動悸しか響かず、次第に視界も滲んでいく。
ー怖い。怖い。こわい。……こわい。
一ミリも動けない私に、その体がぐっとのしかかってくる。
先程よりも心なしか苦しそうに見えるのは気のせいだろうか。
徐々にその激しい息遣いが私の顔に近づいているのを感じる。
…あぁ、あれ?私、私、また、また………逃げられないのか。
彼は苦しそうにそのキレイな眉をひそめ、少しだけ開かれた薄い唇からは絶えず悩ましげな息が漏れている。
滴り落ちる汗の雫が妖艶に輝いて見えた。
その揺れている瞳と一瞬視線が重なると、彼はそのままぎゅっと目をつむり、
「……ごめん、ごめん……ごめんな」
そう言いながら。
「……ん、やぁ……ぁっあっ……」
そっと私の頰をあたたかく柔らかいものがふっと伝った。
それは次第に激しさを増し、何度も何度も私の頰、まぶたを執拗になぞり続ける。
それは、まるで私の涙をなぞるかのように。
私は抵抗できなかった。
…いや、しなかった。
いや、したくなかった。
今まで感じたことのないような感覚が私を襲っていた。
彼が触れた舌から伝ってくるかのように私に流し込まれたあたたかい何かが身体中に広がり、私の判断能力を奪っていく。
心地よい、もっと欲しい、もっと……
…あれ?でもわたし、おとこなんてこわくてしかたないはずなのに……
そんなもの全て拭い去るような強引さをもったーでも、その強引さに酔いしれたいとさえ思わせるーこれは?
ぼんやりとしていると、彼は突然また私を突き飛ばすようにして離れた。
同時に彼の舌も離れ、現実にずるずると引き戻される。
リーダーは未だに自身の胸元を掴み苦しそうにはしていたが、あの激しかった息遣いは聞こえなくなっていた。
「……あの…」
私がおずおずと口を開くと、
「……す、すまないっ!本当にっ、怖い思いをさせてしまってすまなかったっ!!」
彼は大声で私の言葉を遮って、いつものようにーいや、いつもよりかなり慌てて、一目散に部屋から飛び出していった。
追いかけよう、と思ったが、緩みまくった私の心とは裏腹に私の足は動いてくれない。
あぁ、だった、私、さっきまで怖がってたんだった。
今頃になって思い出す。
…しかし、なぜだろう。
私なら、絶対に男の人が触れてきたりなんかしたら、怖くて怖くてたまらなくなるはずなのに。
彼の舌がさっきまで這っていた頰にそっと触れてみる。
ー何で、こんなに心地いいの。
頰にはまだほんのりと湿りと温もりが残っていた。
…あんなに具合が悪そうだったのに、大丈夫なのかな?
そもそも、何であんなことしたのかな?
何で、あんなに苦しそうに、申し訳なさそうに。
飛び出していったのは何で?
色々考えたいことはあるのに。
私はこのふわふわした気持ちからしばらく抜け出すことが出来なかったのだ。
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