「大事な人だよ」 その意味は?

あーむす。

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エピローグ〜出発〜

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「零斗っ、早く早くっ、時間ないよっ!!」

零斗が彼にとって初めての空港に気を取られまくったおかげで、あっという間に出発時刻が近づいていた。
さらに、相変わらずの未菜の寝坊も重なり、今日もバタバタの2人である。
ようやく荷物も預け終わり、2人はひと息つくことができた。

「あーあ、もう行くんだ、早いなぁ~。
零斗、ちゃんと私がいなくても人間生活するんだよ?」

携帯で時間を確認しながら尋ねると、何故かいつもの返事が返ってこない。
れいと?顔を覗き込んでもすぐにそらされる。

「もう、ねぇ、落ち込んでないで、ちゃんとはなそーよ!
もうしばらく会えないんだよ?」

会えない、という言葉を聞いて、ようやく零斗はこっちを見てくれた。
ボソボソ、と何かを言っている。

「ん、なに?」と聞き返すと、

「そのストラップ…外して、とかダメですか?」

また顔をそらされた。

自分の携帯に下がったストラップを眺める。
それは、翔平と水族館館に行ったときにもらったイルカのストラップ。
なんだ、もう、そーゆーのずるい。苦笑が漏れてしまう。

「これ、もらったやつなんだよ?なんならさ…」

未菜は立ち上がると近くの売店に向かった。

「ほらっ、お揃いっ!!」

未菜が持って来たのは、可愛いクマのキーホルダー。
少し驚いた顔をした零斗は、無言でそれを受け取ると、いそいそと自分のカバンにつけ始めた。
零斗の真っ黒なカバンには浮いてみえ、思わず笑ってしまう。

「未菜様。」と言いながら、少し真面目な顔で零斗はこちらを見た。

「…向こうにいっても、たまには私のことを思い出してくださいね。
あと、イギリス人のイケメンとの交際報告はしなくていいですので。」

何故私がイギリス人と付き合う前提になっているのだろうか。
…なんか、最近期待させるセリフが多すぎる気がする。
前みたいに無表情じゃなくなって、なんか自分の気持ちもいってくれるようになったし。

勘違いするからやめてほしい。

「いやいやー、零斗のこと思い出すよ、だって大事な人だもんっ!!」

肝心なことは言わない。これが私の中のグレーゾーンだ。

「…ですよね。大事な人、ですもんね。」

すると、何故か明らかに零斗はまた落ち込み出した。
え、なんでここで落ち込むの?

「…いや、だってさ…零斗にとっても、私は大事な人でしょう?」
「はい、とっても大事な人です。」

間髪入れず、はっきりと答える。


じゃあ、なんで。

そう思ったが、もう出発の時は来ていた。

「ごめん、私行かなきゃ。」

立ち上がって、ゲートの方へ向かう。


すると、突然「未菜様っ!!」と名前を呼ばれて、振り返った。

こちらにツカツカと足音を立てて歩いてくる零斗が見える。
彼は私の前で立ち止まると、そっと私の首筋に手を伸ばした。

相変わらず冷たい手は私の急激に上がった体温に心地よく感じる。

そしてそっと顔が耳元に近づくと

ーあいつが貴女に触れたのが、こんなにも苛立つくらい、私は貴女のことがー



あっという間もなく、唇に柔らかいものが触れた。

ハッとするとすでに零斗は私から離れていて

「…帰ってきたら、私のことも、少しはそういう目でみてください。」

そういうと、彼はいつものようにいってらっしゃいませ、と頭を下げた。


私も慌てて

「行ってくるね、零斗っ!!」

と叫び、長い長い旅へと向かった。











飛行機の中で離れていく地上を眺めながら、首元にそっと手を伸ばす。
そこにはいつもあったペンダントはない。

ねぇ、零斗。私の好きと、零斗の好きは一緒だったんだね。
さっきの零斗の言葉に少しおかしくなる。
ー初めっから、私はあなたをそういう目でしかみてないのに。

…まぁいいや。
それを伝えるのは、私がもっと成長してから。
ペンダントなし零斗なしでも、強く生きられるようになってから。

ペンダントの裏ー零斗のパソコンのパスワード。




ーstay with meー






そこには私達の約束が彫られていた。






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