「大事な人だよ」 その意味は?

あーむす。

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第23話

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「ほら、君の執事、来たんじゃない?」

耳元で翔平の声がする。
未菜は目隠しをされ、さらに手首を縛られていたため、逃げるどころか身動きすら取れなかった。

「…何が目的なのっ!?親を揺する気!?生憎だけど、私の両親は私に何があっても研究結果だけは渡さないわ。」

未菜の両親の研究は、国ーいや、世界の今後を背負った大切なものだ。
それを私情で漏らすような人たちは元々組織に入っていない。

「…そうだね。あの二人は確かに漏らさないだろう。
でもね、君のためにあの二人は1つ、リスクをおかしているんだよ。」

可笑しそうにクスクスと笑う気配がする。楽しくて堪らないとでも言うように。
そこにはいつもの優しく明るい翔平の気配は少しも感じられなかった。

ー全く予想していなかった。
今までこんなこと起きなかった。私自身が両親の研究に巻き込まれるなんて。
今までの翔平との記憶を思い出す。
あぁ、あれも、これも、全部両親の研究結果を奪うためだったのか。
まんまと馬鹿みたいに騙されていた自分が情けない。

「ほらほら、来た来た。」

ダダダダダダダダダッッッッッ
凄い勢いで階段を駆け上る音がする。
どうやらここは建物、そして鉄製の激しい音がするため古いビルらしい。
全く分からなかった自分の置かれた状況が少しでもわかったことに安堵する。

足音は突然止まった。

「返していただけないでしょうか。」
「なんで?」

零斗の問いかけに翔平が聞き返す。

未菜様のためー
いつものようにそう言う言葉をかえすだろう。
零斗の登場に少し余裕が出てきた私はそんな事を考えながら耳を傾けていた。
がー

『カエシテクダサイ、オジョウサマヲオマモリスルノガワタシノヤクメデス』

そこでようやく違和感に気づく。いつもと違う無機質な声。

「都合が良い状態だねっ、なになに、異常事態モードってやつ!?」

同じ事を感じたらしい、翔平の楽しそうな様子が伝わってくる。

すると、突然私の視界が開けた。

視界の違和感に戸惑いながらも、零斗の姿を探そうとした次の瞬間。

「………へっ?」

私の身体は宙を舞った。

どうやらここは屋上だったらしい。はるか遠くにコンクリート製の地面が見える。

(ぁ、これ、死ぬやつだ……)

覚悟して目を固く瞑った途端、私の身体は空中で抱きとめられた。
その直後、地面に激しく叩きつけられる。
背中を鈍い激痛が襲った。

それでもなんとか身体を起こそうとすると、何やら自分の下に何かあるのにようやく気がついた。
そこにいたのはー

「え、まって、ま、、て、れいと……」

変わり果てた姿の零斗だった。
頭、背中は2人分の体重を受け止めて落下するという強すぎる負荷を受けたため、頭からはドクドクととめどなく見たこともない量の血が流れ、身体も通常では考えられない方向にあちこちが曲がっている。

震える指で零斗の頰に触れると、普段とは比にならないほどに冷たかった。

未菜は目の前で起きていることを信じることが出来ずに、まるで時が止まってしまったかのように感じた。

「あぁ、大宮未菜も生きてたのか。」

そう冷静に言いながら一歩一歩翔平が近づいてくる。
さっきまで屋上に居たはずなのになんで?
こんな使われていないような古ぼけたビルにエレベーター何てあったのだろうか。
そんな疑問が一瞬頭を掠めたが、お陰で少し我にかえることができ、私は彼を無視して救急車を呼ぼうと携帯を取り出した。

「…っっ、なんで!?」

ところが。携帯にはいつもの画面がうつっていなかった。
開いてすぐ携帯の画面いっぱいに、このビルの屋上にいる執事服の男性の姿がうつっていた。

唖然とする未菜に、翔平の笑い声が降りかかる。

「ハハハッ、ねぇ、通じないでしょ?…でもね、後で未菜は俺が電話させなかったことに感謝すると思う。今は執事ちゃんのことが気になるだろうけど、今は俺の話聞いた方がいいと思うよ??」

この状況を明らかに楽しんでいる翔平に突如怒りが爆発した。
「っっそんなことよりっ、零斗の方が大事だ馬鹿っっっ!!!」
自分でも何を言っているのかわからないめちゃくちゃな声で叫ぶ。

この状況でのんびりお話しようなんて訳が分からなさすぎる。
確かに翔平に聞きたいことも沢山あるが……。
今はどう考えても怪我人の零斗が先だろう!?
でも、携帯が封じられているなら助けを呼びに行く必要がある。
翔平から逃げれるか?…いや、逃げれたとして零斗はその間……。

思考が無限ループに入ってしまった私を見て、翔平はわざとらしい大きなため息をついた。

「うーーん、何か頭の中で無駄なこといっぱい考えてるっぽいし、見なきゃ落ち着いてくれないのかな…?
あんま派手なことすると後がだるいからしたくないんだけど……。まぁいいや。
ねぇ、そこの執事くんっ、寝たふりなんてやめて起きてくれない?
じゃないとあんたのお嬢様、うちのセルバが消しちゃうよ?」

次の瞬間。私の真横に突然まばゆい光が通り過ぎた。咄嗟にぎゅっと目を閉じる。
えっ…今の何?
すぐに光が向かった先を振り返ると、地面には焼け焦げた丸い穴があいている。

(……あれ、もしかして私、また死にかけた?)

考えるのを放棄したくなるのをやめ、現実を見ようと前を向く。

「っれ、れいと…?」

そこには、血を流して倒れていたはずの零斗が、いつもの様に私の前に立っていた。

「カナラズオマモリイタシマス」

返ってきたのは感情のない声だけ。

思わず翔平の方を見ると、私の表情を見て満足気に口角を上げた。


「…どう、話聞く気になった?」

…沈黙を肯定とみなしたのか彼は話を始めた。
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