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第19話
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未菜に食べ物を食べさせて、眠ったことを確認してから部屋を出ると、零斗は真っ直ぐに玄関へと向かった。
チャイムなんか鳴らなくても、訪問客の姿はもう映像として彼の脳内に届けられている。
もちろん相手もそれを承知の上で、側から見たら謎すぎる、玄関に突っ立っているような行為をしているのだろう。
玄関を開けると2人の客人が立っていた。
「本日は何の御用でいらっしゃったのでしょうか?
未菜様のお見舞いで…などとでもいうつもりなら、お引き取り願いますが。」
一歩前に踏み出してきたのは上坂翔平だ。
「まあまあ、まずは挨拶からしようよ。今日は謝罪にきたんだ。
ごめんね、大事なお嬢様に熱うつしちゃってさ。」
あれ、俺がうつしたって聞いてなかったかな?
相変わらず余裕の笑みを浮かべながら話し続ける。
「まあ、その話はそのくらいにして。あと一つ、未菜ちゃんのことを話しにきたんだよ。
その前に、はじめましてだね。紹介が遅れて悪かったよ。
こちらが、うちの執事のセルバ。」
初めから黙って翔平の後ろに控えていた男性がスッと前に出てきた。
「はじめまして、未菜様の執事様。
私は翔平様の執事のセルバと申します。」
握手を求めて手を差し出してくる。
「あぁ、はじめまして。いいですね、主人と違って礼儀正しくて。」
翔平の話は無視していたが、礼儀正しくされればそういうわけにもいかない。
零斗も応えるように手を差し出して、
そのままセルバの手首を真下へと叩きつけた。
続いて、手首を自分の足で踏みつけ、ゴリゴリと地面に固定すると、その手のひらに何やらポケットから取り出した機械を近づける。
針が規則正しくゆらゆらと揺れていたその機械は、あっという間に針が振り切れて飛んでいってしまった。
執事の手が地面にめり込んでいるという普通ならあり得ない状況にもかかわらず、パチパチとわざとらしい大袈裟な拍手が鳴り響く。
「まぁ、良いプログラムでしたね。ただ、これぐらいの電磁波を仕込んだところで、私のプログラムは止まりませんけれども。」
足を離し、セルバを解放すると、彼は何事もなかったかのように地面から手を抜き取って、「申し訳ございません」と翔平に謝罪した。
「…ねぇ、やっぱり電磁波とかってロボット同士だとわかっちゃうものなの?
一応、人間が使う機械には引っかからないようにはしてるんだけど。」
手首が多少変な方向に曲がっているまま、自分に頭を下げているセルバを無表情で眺めながら翔平は呟く。
「…セルバは私でなくても、いずれは皆人ではないと気づくと思いますよ。
プログラムは見事だと思いますが。」
ただ立っているだけでも、会話においても、表情においても人間そのものである。
今まで自分が見てきた中では1番出来がいいと言っても過言ではないだろう。
なのに何故だろうか。
どうしてもぬぐいされないこの違和感は。
ヒトではない。
そう、まるで生気が感じられないこの感じは。
セルバをじっと見つめる翔平と零斗。
当の本人、セルバはどうしましたか?と言わんばかりに微笑みながら立っていた。
「……何が足りないっっ!!!」
突如、吐き捨てるように叫んだ翔平はそのまま踵を返して去っていく。
こちらに一礼した後、セルバもスタスタと後ろをついていった。
…零斗にも、セルバが人間らしくないことはわかる。
何故、自分が人に見えるのかはわからない。
ただ、自分が人間に見えることは素直に嬉しかった。
未菜の様子を見に、零斗は屋敷に戻った。
出てきた時と同じように、呑気な顔して彼女は眠っている。
熱を測ってやると、平熱に戻っていた。
ホッと息をつく。
彼女が熱を出すといつも必要以上に焦ってしまう。
彼女がこんなに脆くて、儚い生き物だと思い知らされて。
彼女もアンドロイドだったら……
…いや。自分が人間だったら。
触れてはいけないラインをお互いに探り合わなくてよかったのだろうか。
そっと髪に触れている。
ついさっきまで自分の執事が友人に殺されようと、いや壊されようとしていたとは夢にも思わないだろう。
ましてや、それをやり過ぎとも言える方法でカウンターしたなんて。
彼女はどう思うのだろう。
自分の人でない部分を目の当たりにしたなら。
もう一度、彼女は私に笑いかけてくれるのだろうか。
…今は考えたくない。
今日の報告をしに、零斗は寝室を後にした。
チャイムなんか鳴らなくても、訪問客の姿はもう映像として彼の脳内に届けられている。
もちろん相手もそれを承知の上で、側から見たら謎すぎる、玄関に突っ立っているような行為をしているのだろう。
玄関を開けると2人の客人が立っていた。
「本日は何の御用でいらっしゃったのでしょうか?
未菜様のお見舞いで…などとでもいうつもりなら、お引き取り願いますが。」
一歩前に踏み出してきたのは上坂翔平だ。
「まあまあ、まずは挨拶からしようよ。今日は謝罪にきたんだ。
ごめんね、大事なお嬢様に熱うつしちゃってさ。」
あれ、俺がうつしたって聞いてなかったかな?
相変わらず余裕の笑みを浮かべながら話し続ける。
「まあ、その話はそのくらいにして。あと一つ、未菜ちゃんのことを話しにきたんだよ。
その前に、はじめましてだね。紹介が遅れて悪かったよ。
こちらが、うちの執事のセルバ。」
初めから黙って翔平の後ろに控えていた男性がスッと前に出てきた。
「はじめまして、未菜様の執事様。
私は翔平様の執事のセルバと申します。」
握手を求めて手を差し出してくる。
「あぁ、はじめまして。いいですね、主人と違って礼儀正しくて。」
翔平の話は無視していたが、礼儀正しくされればそういうわけにもいかない。
零斗も応えるように手を差し出して、
そのままセルバの手首を真下へと叩きつけた。
続いて、手首を自分の足で踏みつけ、ゴリゴリと地面に固定すると、その手のひらに何やらポケットから取り出した機械を近づける。
針が規則正しくゆらゆらと揺れていたその機械は、あっという間に針が振り切れて飛んでいってしまった。
執事の手が地面にめり込んでいるという普通ならあり得ない状況にもかかわらず、パチパチとわざとらしい大袈裟な拍手が鳴り響く。
「まぁ、良いプログラムでしたね。ただ、これぐらいの電磁波を仕込んだところで、私のプログラムは止まりませんけれども。」
足を離し、セルバを解放すると、彼は何事もなかったかのように地面から手を抜き取って、「申し訳ございません」と翔平に謝罪した。
「…ねぇ、やっぱり電磁波とかってロボット同士だとわかっちゃうものなの?
一応、人間が使う機械には引っかからないようにはしてるんだけど。」
手首が多少変な方向に曲がっているまま、自分に頭を下げているセルバを無表情で眺めながら翔平は呟く。
「…セルバは私でなくても、いずれは皆人ではないと気づくと思いますよ。
プログラムは見事だと思いますが。」
ただ立っているだけでも、会話においても、表情においても人間そのものである。
今まで自分が見てきた中では1番出来がいいと言っても過言ではないだろう。
なのに何故だろうか。
どうしてもぬぐいされないこの違和感は。
ヒトではない。
そう、まるで生気が感じられないこの感じは。
セルバをじっと見つめる翔平と零斗。
当の本人、セルバはどうしましたか?と言わんばかりに微笑みながら立っていた。
「……何が足りないっっ!!!」
突如、吐き捨てるように叫んだ翔平はそのまま踵を返して去っていく。
こちらに一礼した後、セルバもスタスタと後ろをついていった。
…零斗にも、セルバが人間らしくないことはわかる。
何故、自分が人に見えるのかはわからない。
ただ、自分が人間に見えることは素直に嬉しかった。
未菜の様子を見に、零斗は屋敷に戻った。
出てきた時と同じように、呑気な顔して彼女は眠っている。
熱を測ってやると、平熱に戻っていた。
ホッと息をつく。
彼女が熱を出すといつも必要以上に焦ってしまう。
彼女がこんなに脆くて、儚い生き物だと思い知らされて。
彼女もアンドロイドだったら……
…いや。自分が人間だったら。
触れてはいけないラインをお互いに探り合わなくてよかったのだろうか。
そっと髪に触れている。
ついさっきまで自分の執事が友人に殺されようと、いや壊されようとしていたとは夢にも思わないだろう。
ましてや、それをやり過ぎとも言える方法でカウンターしたなんて。
彼女はどう思うのだろう。
自分の人でない部分を目の当たりにしたなら。
もう一度、彼女は私に笑いかけてくれるのだろうか。
…今は考えたくない。
今日の報告をしに、零斗は寝室を後にした。
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