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第17話
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眠い目をこすると、もう昼の12時を過ぎていた。
ぼんやりとした頭で体温を測る。ー36.6。すっかり熱は下がった。
ーまた学校休んじゃったな。
学校に連絡を入れてから、新着メールを見てみたが、お目当てのメールはきていなかった。
ため息が出そうになるのをこらえながら携帯を置くと、見透かしたようなタイミングで携帯が鳴る。
俺はすぐ取ると英語で話し出した。
「はい、こちら日本支部。」
「お前も体調を壊すとは弱くなったものだな、ショウヘイ。」
聴き慣れた人を小馬鹿にしたような笑い声がぼんやりした頭に響く。
だが、不思議とこの人の笑い声を聞いていると安心してしまうのである。
「どうだ?調子は。ちゃんと仕事しているのか?」
「あなた方にはちゃんとわかっているんでしょ?」
そっとピアスに触れる。
「ハハハハッ。
いやー、青春ドラマを見ているようだ。こっちがドキドキしてしまうよ。
やっぱり君は役者の方が向いているんじゃないか?」
「よしてください、もう懲り懲りですよ…、それにこんなベタなドラマ、俺は見たくないですね。」
「いやはや、冗談だよ。…君にはもっともっと大きな才能がある。」
頼んだよ。
一方的に電話は切れた。
翔平は自分の親ーいや、自分の育ての親である電話の相手のことを思い出していた。
SALTー彼が所属する機密組織だ。
世界各国に支部があり、若くして日本支部の幹部に選ばれているのが上坂翔平である。
翔平の本当の両親はとある国のスパイであった。
仕事の中で両親は殺され、両親の知り合いであったサンドラが身寄りのない私を拾ってくれたのである。
彼はそこで幼い頃から様々な教育を施された。
語学、基本教育は勿論、この組織に必要な知識、技術まで……。
彼が特化しているのは主にAI知能についてである。
大まかな信号、データなら簡単に作り出せるし、データの分析もプロの専門家も舌を巻く実力を持つ。
それは幼い頃からパソコンと向き合ってきたから……というのもあるが、このAI というものと自分が共鳴したからだと勝手に分析している。
SALTのミッションを完遂するーそれが俺の日本にきた目的だ。
SALTの正体、それは国家スパイ集団。
肉体派、頭脳派、様々な能力に優れたものが、独自に国家秘密を入手する。
ここだけきくと誤解を招きそうだが、SALTはそれで強請ってお金を要求したり、争いを起こそうとしたいわけではない。
寧ろその逆である。
危ないことをしている国を早めに見つけ、全体の国家情勢を見ながら適切な駒をうつ…
第3次世界大戦が起きないのは、SALT のおかげだと言っても過言ではない。
そして俺は本部で精密盗聴器や追跡型GPS、また実際に現場に向かうスパイのための道具の開発に携わっていた。
しかしー高校生に上がるとき、突然日本支部の幹部に任命された。
特別ミッションの主要メンバーに任命されたからである。
目をつけていたのは、人間型スパイロボット。
スパイを実際に滑り込ませるより危険度が低く、また機会であるためミスも格段に少ない。
ただ、どうしても感情面で機械らしさが拭えないのだ。
周囲の人間に人ではないことがすぐに伝わってしまう。
しかし、それを乗り越えた科学者がいたー大宮哲也と大宮楓だ。
俺はその娘のところにある唯一作られた成功作を捕まえ、分解してデータを奪い取るという作戦の目玉を任されてしまった。
この作戦を成功させることが組織の成功に繋がる。
今まで組織で、若いくせに贔屓されていると虐げられてきた翔平にとって、周囲を見返す大きなチャンスだった。
…そして、それは私の唯一の親であるサンドラに恩返し出来るチャンスのひとつでもあった。
そっとピアスに手を当てる。
物心ついた時から付いていたこのピアスは、音声・映像を拾い、SALT の元へと送る。
監視されているようなものだが、彼は不思議と苦痛ではなかった。
ー誰かが俺を見ていてくれている。
本当は一人きりだという事実から目を背けるために。
自分の目的を思い出した翔平には、自分が未菜に感じる感情が、ミッションのためか自分のためかわからなくなっていた。
…まぁ、どっちでも構わない。
どちらにしても、俺は世界を守るためにー
私情など挟むわけにはいかないのだ。
一瞬携帯につけたストラップに目をやったが、すぐに目を離した。
ぼんやりとした頭で体温を測る。ー36.6。すっかり熱は下がった。
ーまた学校休んじゃったな。
学校に連絡を入れてから、新着メールを見てみたが、お目当てのメールはきていなかった。
ため息が出そうになるのをこらえながら携帯を置くと、見透かしたようなタイミングで携帯が鳴る。
俺はすぐ取ると英語で話し出した。
「はい、こちら日本支部。」
「お前も体調を壊すとは弱くなったものだな、ショウヘイ。」
聴き慣れた人を小馬鹿にしたような笑い声がぼんやりした頭に響く。
だが、不思議とこの人の笑い声を聞いていると安心してしまうのである。
「どうだ?調子は。ちゃんと仕事しているのか?」
「あなた方にはちゃんとわかっているんでしょ?」
そっとピアスに触れる。
「ハハハハッ。
いやー、青春ドラマを見ているようだ。こっちがドキドキしてしまうよ。
やっぱり君は役者の方が向いているんじゃないか?」
「よしてください、もう懲り懲りですよ…、それにこんなベタなドラマ、俺は見たくないですね。」
「いやはや、冗談だよ。…君にはもっともっと大きな才能がある。」
頼んだよ。
一方的に電話は切れた。
翔平は自分の親ーいや、自分の育ての親である電話の相手のことを思い出していた。
SALTー彼が所属する機密組織だ。
世界各国に支部があり、若くして日本支部の幹部に選ばれているのが上坂翔平である。
翔平の本当の両親はとある国のスパイであった。
仕事の中で両親は殺され、両親の知り合いであったサンドラが身寄りのない私を拾ってくれたのである。
彼はそこで幼い頃から様々な教育を施された。
語学、基本教育は勿論、この組織に必要な知識、技術まで……。
彼が特化しているのは主にAI知能についてである。
大まかな信号、データなら簡単に作り出せるし、データの分析もプロの専門家も舌を巻く実力を持つ。
それは幼い頃からパソコンと向き合ってきたから……というのもあるが、このAI というものと自分が共鳴したからだと勝手に分析している。
SALTのミッションを完遂するーそれが俺の日本にきた目的だ。
SALTの正体、それは国家スパイ集団。
肉体派、頭脳派、様々な能力に優れたものが、独自に国家秘密を入手する。
ここだけきくと誤解を招きそうだが、SALTはそれで強請ってお金を要求したり、争いを起こそうとしたいわけではない。
寧ろその逆である。
危ないことをしている国を早めに見つけ、全体の国家情勢を見ながら適切な駒をうつ…
第3次世界大戦が起きないのは、SALT のおかげだと言っても過言ではない。
そして俺は本部で精密盗聴器や追跡型GPS、また実際に現場に向かうスパイのための道具の開発に携わっていた。
しかしー高校生に上がるとき、突然日本支部の幹部に任命された。
特別ミッションの主要メンバーに任命されたからである。
目をつけていたのは、人間型スパイロボット。
スパイを実際に滑り込ませるより危険度が低く、また機会であるためミスも格段に少ない。
ただ、どうしても感情面で機械らしさが拭えないのだ。
周囲の人間に人ではないことがすぐに伝わってしまう。
しかし、それを乗り越えた科学者がいたー大宮哲也と大宮楓だ。
俺はその娘のところにある唯一作られた成功作を捕まえ、分解してデータを奪い取るという作戦の目玉を任されてしまった。
この作戦を成功させることが組織の成功に繋がる。
今まで組織で、若いくせに贔屓されていると虐げられてきた翔平にとって、周囲を見返す大きなチャンスだった。
…そして、それは私の唯一の親であるサンドラに恩返し出来るチャンスのひとつでもあった。
そっとピアスに手を当てる。
物心ついた時から付いていたこのピアスは、音声・映像を拾い、SALT の元へと送る。
監視されているようなものだが、彼は不思議と苦痛ではなかった。
ー誰かが俺を見ていてくれている。
本当は一人きりだという事実から目を背けるために。
自分の目的を思い出した翔平には、自分が未菜に感じる感情が、ミッションのためか自分のためかわからなくなっていた。
…まぁ、どっちでも構わない。
どちらにしても、俺は世界を守るためにー
私情など挟むわけにはいかないのだ。
一瞬携帯につけたストラップに目をやったが、すぐに目を離した。
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