「大事な人だよ」 その意味は?

あーむす。

文字の大きさ
上 下
15 / 37

第14話

しおりを挟む
ー行ってらっしゃいませー
ガタンゴトンガタンゴトンーー
上へ上へとゴンドラが登っていく。

あれから観覧車に乗り込むまでずっと変わらず、零斗は黙って俯いたままだ。
……正直、話しにくい。でも。聞かなきゃいけないことがある。

「…ねぇ、零斗?」
「…なんですか?」
「零斗はさ…何で今日、来てくれたの?」

ー彼は俯いたまま表情を変えない。
…今、私、零斗を困らせてる……
そう気づくと、知らぬ間にぽそりと言葉が滑り出てきた。

「っ、やっぱり、執事だから?なのかな。」
「っ、そうではありませんっっ!!!」

突然零斗が立ち上がって叫んだ。
情けなくて少し泣きそうだった私も、突然の声量に驚き肩がビクつく。
それに気づくと零斗は慌てて座り直しー普段の完璧執事の零斗なら絶対やらない行為だがー自分の髪をくしゃくしゃっと掻きむしった。

「……申し訳ありません、未菜様。ただの私のエゴなのです。
…私は本当なら未菜様の幸せを1番に考えなければならない存在です。
だからこそ、今回の件は上坂さんにお任せするべきだと思いました。
……しかし、やっぱり、何故私以外の人間が未菜様のお側にいるのかっ!!
あの男と楽しそうに笑いあう未菜様を想像するだけで、何かが焼けるように痛いのです。
……気がつくと飛び出してきてお二人の邪魔までしてしまいました。」

…これじゃ執事失格です。
ぽそりぽそりと呟くようにいう零斗。

ーこんなに零斗が取り乱したことあったかな。
私のことで普段絶対失敗しないような家事で失敗して、こんなところまで私の為に来てくれて。
こんな幸せがあるだろうか。

私は零斗の隣にそっと座った。
恐る恐るというように、私の顔を見る零斗。

ぎゅぅ

自然に、まるで当たり前かのように私は彼を抱きしめていた。
少し低い彼の体温がダイレクトに伝わる。

「……未菜様?」
戸惑ったような彼の声も、心なしかいつもより近い。

「零斗、私ね、やっぱり零斗じゃなきゃ嫌だよ。
零斗がいい。零斗の代わりなんていない。」

私が1番側にいてほしいのは、1番大切なのは零斗だよ。
ちゃんと伝わりますように……
零斗を握る手により一層力を入れる。

……………返事がない。

今度はゆっくり離れて零斗を見ると、彼は涙目になっていた。

「っえっ、零斗?私なんか気に触ること言った??」

私にひっつかれて嫌だった…とか?
突然我に返り、慌てて零斗から距離を取る。

……だよね、私ったらなんであんなこと………
いたたまれず俯く。

すると、突然グッと引き寄せられ、強く抱きしめられた。
唐突すぎて驚いたのと、目の前にある零斗の胸にドキドキしてしまう。

「……なんでしょう、未菜様。
私…嬉しいみたいです。」

私って感情があったんでしょうか。
聞き捨てならない言葉を聞いて、私はバッと零斗から離れて訴えた。

「何言ってんの!いっつも零斗、私のこといじめたり怒ったりするじゃんかっ!
感情的すぎるよっ!!」

「…なんかその言い方だと、私嫌な奴すぎません?」

「…はいはい、あと優しいよね、うん笑」

「…今、なんか笑って文字が見えた気がしたのは気のせいですか?」

小さく2人で笑い合う。

「でも、なんか今日は新しい零斗いっぱい知れてよかったなぁ!」

「…私のことしれるのが嬉しいんですか?」

「だってだって、零斗全然自分のこと教えてくれないんだもん!!
零斗は私のこといっぱい知ってるくせに……不公平だよっ、ずるい!」

あ、でも意外に泣き虫とか大発見できたから良かったかな??

そういうと、彼は拗ねたかのようにふいっと外を見た。

……あぁ、もう。
幸せだなぁ…。

一緒に外を見ると、ちょうど頂上から私たちの住む街を見渡せた。

もう日は沈んでいて、月明かりがぼんやりとあたりを照らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。

立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は 小学一年生の娘、碧に キャンプに連れて行ってほしいと お願いされる。 キャンプなんて、したことないし…… と思いながらもネットで安心快適な キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。 だが、当日簡単に立てられると思っていた テントに四苦八苦していた。 そんな時に現れたのが、 元子育て番組の体操のお兄さんであり 全国のキャンプ場を巡り、 筋トレしている動画を撮るのが趣味の 加賀谷大地さん(32)で――。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...