「大事な人だよ」 その意味は?

あーむす。

文字の大きさ
上 下
7 / 37

第6話

しおりを挟む


「上坂くん、今日は本当にありがとう!」

嬉しそうな未菜様の声を聞きながら、私は部屋の隅で待機していた。
どうやら何かノートを持ってくることを約束していたようだ。

「…ねぇ、そういえば、零斗と話とかしていかなくていいの?」

突然自分の名前が出て、思わず耳をすませる。

「……うん、会えただけで今は十分。そろそろ帰るね。」

上坂が席を立ち、少し不思議そうな顔をしていた未菜様が慌てて
「送ってさしあげて。」と私に命じた。

こういう時の振る舞い方はさすがお嬢様と言ったところか。
毎朝寝坊しかけている人とは思えないくらいきちんとしている。

部屋を出た後、来た時と同じように上坂が私の後ろをついて歩く。

やはり、先程と同じような不快感に苛まれた。

早くこの時間が終わってほしくて少し歩く速度を上げる。

すると、丁度そのタイミングで上坂が私に話しかけてきた。

「ねぇ、執事さんは大宮さんのこと好きなの?」

「好き、とは何かわかりませんが、大事なお嬢様ですよ。」

なんだ、この意味不明な質問。少し顔をしかめると、

「ハハハハハっっっっ」
乾いた笑いが聞こえた。

先程未菜様と話していた時とは、全然違う笑い方。
しかし私はそこまで彼の激変ぶりに驚かなかった。
むしろ、ようやくしっくりきた、と言った感じか。

「だよねーー、だって、君さぁ…………」

彼の口から言葉が溢れる。

「………まーいーや。あの子もかわいそうだよねぇ、無邪気に君が好きなんて。
永遠にコレにはわかんないのにさぁ……………」

私は意図的に彼を振り返らなかった。

「……何を言ってらっしゃるんですか?」

「何って…それは、あの子が君を好きってこと?
それとも………あの子の知らないこと?」

ハハハハハッ また可笑しそうに彼は笑う。

そして、わざわざご丁寧に私の視界に回り込むと、その大きな目をキュっと細めて、私の目をジッと見つめた。

「またね、執事ちゃん」

優雅に、軽やかに消える彼を、私は見送ることしか出来なかった。







大事な執事として、私を慕ってくれている未菜様。
だからこそ、彼女だけにはバレてはいけないのだ。

カノジョダケハウラギラナイコト

「零斗?どうしたの?」

部屋に帰って来た私を、先程の上坂とは全然違う、一点の曇りもない大きな瞳が見つめる。
…この瞳を守り続けるのが私の役目。

「なんでもありませんよ、未菜様。」

私はいつも通りに彼女に笑いかけた。






                ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎





ドアノブに手をかける。

パソコンの前に立ち、今日の出来事を反芻する。

ー上坂翔平のことは、まだ伝えなくていいだろうー

ボードの上に手を置き目を閉じて、今日の出来事を一気に転送する。

ベッドに繋がるコンセントを確認し、布団に潜り込んだ。

しかし……彼は何者なんだろう。
何故私のことを知っている?
何かミスを犯した?……いや、そんなはずはない。




………だよねー、だって、君さ……………………

零斗は目を閉じた。


















ーアンドロイドでしょ。


一瞬浮かんだその言葉は、あっという間に深い無の中に消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

元体操のお兄さんとキャンプ場で過ごし、筋肉と優しさに包まれた日――。

立坂雪花
恋愛
夏休み、小日向美和(35歳)は 小学一年生の娘、碧に キャンプに連れて行ってほしいと お願いされる。 キャンプなんて、したことないし…… と思いながらもネットで安心快適な キャンプ場を調べ、必要なものをチェックしながら娘のために準備をし、出発する。 だが、当日簡単に立てられると思っていた テントに四苦八苦していた。 そんな時に現れたのが、 元子育て番組の体操のお兄さんであり 全国のキャンプ場を巡り、 筋トレしている動画を撮るのが趣味の 加賀谷大地さん(32)で――。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

記憶のない貴方

詩織
恋愛
結婚して5年。まだ子供はいないけど幸せで充実してる。 そんな毎日にあるきっかけで全てがかわる

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...