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第5話
しおりを挟む未菜が学校に行っている間、私ー零斗は庭で菜園の手入れをしていた。
少しでも放っておくと雑草というものはすぐ生えてくるものだが、
この菜園ではほとんど雑草の姿は見受けられない。
幼い未菜様に、
「なんでれいとはくささんいっぱいみつけられるのぉ!!!!」
と、わけのわからない理由で泣かれたことがある。
逆になんで全部取り除けないんですか、と言いそうになって慌てて飲み込んだ。
幼い頃の未菜様は、お嬢様っぽい振る舞いに気を使いまくっていて、そのせいかとても負けん気が強かった。
どう頑張っても私には勝てるはずがないからこそ頭を悩ませたものである。
…しかし、この時、本当の本当に完璧にしてはいけない、ということも学んだ。
以来、少しだけ雑草を残すようにしていることに、きっと未菜様は気づいていない。
まあ、違和感を感じさせてしまうようでは失敗なのだが。
トウチャクシマシタ、オジョウサマ
すでに私は玄関で出迎えの準備を整えている。
「本当、零斗はいっつも出迎え早いよね。」
そう言いながら少し呆れたように未菜様は笑う。
「一回いなかったらお泣きなさったのに……」
ぽそりとつぶやくと、
「そんな昔のこと覚えてるの!?」
と少し怒りつつ驚いていた。
ーどうやら少し気に触ることを言ってしまったらしい。
「未菜様のことならなんでも覚えていますよ。」
少しでもご機嫌を取ろうとにこりと微笑みかけると
「…うるさい。」
一言つぶやいて、パタパタと玄関に駆け出していってしまった。
…最近の未菜様の考えてることを思い測るのは難しいな、やっぱり。
修行が足りないようだ。
「あ、今日はお客様が来るから準備してて。」
少しドアが開いて、彼女がひょっこり現れた。
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
オキャクサマデス、オキャクサマデス
インターホンが来訪を告げた。
「玄関までお迎えにいって差し上げて?」
彼女は白いワンピースに着替えていた。
(……ふむ。整った顔立ちの明るそうな男。)
茶色の少しくしゃくしゃした髪に、ルビーのような真っ赤な瞳がやんちゃさを連想させる。
「…未菜様。いつの間に彼氏が出来たのですか?」
私の問いかけに、さっきまですました顔をしていた彼女は、一瞬で顔を赤らめ立ち上がった。
「なっっっっ!そっ、そんなわけないじゃないっ、友達よっ!!
………それに、男とは限らないじゃないのっ!!」
「……私にわからないことなどありません。」
お嬢様モードから一転、むきになって慌てだした彼女の横を素通りし、客人を迎えにいく。
(そうか、未菜様もそういう年頃なのか……)
この間までわんわん泣いていたような気がしたが、成長というものは早いものだ。
未菜様には偉そうなことを言ってしまったが、正直わからないこともある。
未菜様の彼氏……彼氏とは確か好きな人。
私は幼い未菜様からはずっと
「れーとぉ、だいすきぃっ!!」
と言われ続けてきた。
……ひょっとして、私も彼氏なのだろうか?
じゃあ、二股とかいうやつを未菜様はしていらっしゃるということ……
いや?最近は言ってこないから、私は元カレか?
……いや、そもそも私は執事だ。彼氏じゃない。
最近未菜と見た映画の、「君のことをずっと守るよ」とか言ってた彼氏を思い出す。
じゃあ、彼氏と執事は何が違うんだろう?
浮かんだ素朴な疑問は、玄関を前にしてかき消した。
「お入りください。」
私がドアを開けて促すと、彼は大きな目を細めて私をじっと見つめ、ゆっくりと
「ありがとう。」と言った。
未菜様の待っているところまで案内するため先を歩く私の後ろを彼がついてくる。
………なんだろう。背中がじっとりと重たい。
何とも言えないこの不快感。
彼が私の方をジッと見ているーいや、これだけなら正直よくある話だ。
彼は私を観察している………そんな言葉が頭をよぎった。
「……私に何か?」
あくまで彼はお客様。失礼にならないように笑顔で尋ねる。
すると、まるで私が振り返るのを予測していたように、彼は平然と笑う。
「いやぁー、会えて光栄だなって。会いたかったんです、あなたに。」
人の良さそうな笑みが何故かかえって不気味に思えた。
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