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太陽が一番熱い季節になりました。今は夏真っ盛りです。
「これで真夏か。やっぱ涼しいんだな」
熱帯出身のレオは一番熱い昼の時間帯だというのにちっとも熱そうじゃありません。汗も然程掻いては見えず、爽やかに見えるので、三巳もうっとり見とれています。
「うぬ。やっぱしレオはかっちょいー」
「ははっ、いつも言ってんな。ありがとよ」
熱いので縋りつくに縋りつけず、ジリジリと付くか付かぬかの距離を維持する三巳に白い歯を見せて笑みを見せました。そして三巳の耳裏をそっと掻いて直ぐ離します。熱い季節には人肌も熱いだろうという配慮です。
そんなレオの思いやりを知ってか知らずか、いつもより早く離れてしまう手が三巳には不満でしかたありません。
(ぐにゅぅ。レオなら熱くても熱く無いのに)
そう思って三巳は少し背伸びをして離れていくレオの手に頭を押し付けました。
それに気付いたレオは苦笑して今度はしっかりと撫でてくれます。
「にゅあー……んあ?」
大好きな温もりに浸っていると、何処からか良い匂いが漂って来ました。そしてそれが何か、鼻の良い三巳には直ぐに分かります。
「新しいパンの匂い!」
新商品は即刻お買い上げな三巳の目と毛並みが輝きを増しました。
くるりとレオを振り仰ぐと、頭から離れたレオの手をガッシと掴みます。そして尻尾をクルンと一振りして駆け出して行きます。
急に引っ張られたレオは嫌な顔せず合わせてくれます。
「急に元気だな」
むしろ愉快そうです。
そうして辿り着いたパン屋では今まさに焼き立てパンが並べられている所でした。
「にゅあっ。ロウ村長に先を越されたんだよっ」
「わっはっは!ヴァーンに情報を貰ったのだ!」
パン屋前には既にロウ村長が並んで待っています。そしてその隣にはオーウェンギルド長も一緒でした。仲良しになったので名前で呼び合っているようです。
「ぐにゅぅ。流石オーウェンギルド長なんだよ」
勝負なんてしていないのに負けた気分で列の後ろに並びます。勿論レオも一緒です。というより手を離してくれないので強制参加です。
「ようレオ。子守りも大変だな」
未だに三巳を子供扱いするオーウェンギルド長に、三巳はぷくぅと頬を膨らませます。
「三巳もう成神してるんだよ」
「その割には俺と然程変わんねぇな?獣神娘」
ドワーフの隔世遺伝で背の小さいオーウェンギルド長と並んでも然程差がありません。視線で物語られた三巳は更に頬を膨らませて尻尾をビシンと地面に叩きます。
その様子にレオは「やれやれ」と嘆息しました。
「三巳らしくって良いじゃねえか」
握られたままの手にきゅっと力を入れて三巳の目の前で振ると、三巳の頬袋は途端にプシュンと戻ります。レオに褒められて上機嫌です。
「おいおい、あんま甘やかすと碌なモンにならねぇぞ」
「曲がった道に進んだら手、引っ張ってやるさ。こうして繋がってるってる事だし、な」
繋がる手を上げてニッと笑い、肩を竦めるレオに、今度はオーウェンギルド長がやれやれと肩を上げる番でした。
「がっはっは!三巳は元気なのが良いと言う事だな!」
「うにゅ!三巳は何時だって元気なんだよ!」
三巳はロウ村長と揃って大口開けて笑い合います。
そんな世間話の間にもパンが並び終えた様です。ミクスがパンパンと手を叩きました。
「ほらほら。今日の新作は夏バテ予防に考案したサンドイッチだよ」
「ほう?何時もと形が違うな」
「パン生地が薄い?いや一枚のパンに切り込みを入れているのか?」
早速手にした新作パンに、ロウ村長とオーウェンギルド長が興味深そうにしています。
その様子を横目に三巳も新作パンを貰いました。それを見て三巳は目をパチクリします。だってそれはどう見たって
「ケバブなんだよ」
お祭りで良く見るものだったのです。いえ、思い返せば前世のお婆ちゃん時代には街中で普通にお店もあった気がします。三巳自身はそれ程馴染みが有りませんでしたが、姪っ子が良く食べていたのを味見させて貰ったものです。
「三巳はやっぱり物知りだね。長い事考えて作った新作だったけど、三巳は既に知っていたのかい」
「んーん。ケバブはそれ程は知らないんだよ。形と味だけ分かるけど」
「それだけ知ってたらもう知ってるだろ」
レオから突っ込みが入りましたが三巳は首を横に振ります。
「んーん。だって三巳はパンの種類も具材も知らないんだよ」
「なのに名前は知ってんのか」
「うにゅ。一口分けて貰ってたからな。でも何でこれ夏バテ予防なん?」
「スパイス利かせた肉と野菜を挟んでいるのさ。移住して来た人達が体調崩しがちだからね。パンなら食べやすいかと思ったんだけど、どうかねぇ」
「うむ。ワシも気にはなっていた。皆に声を掛けておこう」
「夏バテ、てか熱中症予防に水分も取らせとけよ。果物も結構良いらしいぜ」
暑さ厳しい国では予防はごく当たり前にされているらしいです。レオの助言にロウ村長もミクスもオーウェンギルド長も感心して熱心にお話を聞きます。
「レオかっちょいー」
その間三巳はレオの大人な男の格好良さに見惚れているのでした。
「これで真夏か。やっぱ涼しいんだな」
熱帯出身のレオは一番熱い昼の時間帯だというのにちっとも熱そうじゃありません。汗も然程掻いては見えず、爽やかに見えるので、三巳もうっとり見とれています。
「うぬ。やっぱしレオはかっちょいー」
「ははっ、いつも言ってんな。ありがとよ」
熱いので縋りつくに縋りつけず、ジリジリと付くか付かぬかの距離を維持する三巳に白い歯を見せて笑みを見せました。そして三巳の耳裏をそっと掻いて直ぐ離します。熱い季節には人肌も熱いだろうという配慮です。
そんなレオの思いやりを知ってか知らずか、いつもより早く離れてしまう手が三巳には不満でしかたありません。
(ぐにゅぅ。レオなら熱くても熱く無いのに)
そう思って三巳は少し背伸びをして離れていくレオの手に頭を押し付けました。
それに気付いたレオは苦笑して今度はしっかりと撫でてくれます。
「にゅあー……んあ?」
大好きな温もりに浸っていると、何処からか良い匂いが漂って来ました。そしてそれが何か、鼻の良い三巳には直ぐに分かります。
「新しいパンの匂い!」
新商品は即刻お買い上げな三巳の目と毛並みが輝きを増しました。
くるりとレオを振り仰ぐと、頭から離れたレオの手をガッシと掴みます。そして尻尾をクルンと一振りして駆け出して行きます。
急に引っ張られたレオは嫌な顔せず合わせてくれます。
「急に元気だな」
むしろ愉快そうです。
そうして辿り着いたパン屋では今まさに焼き立てパンが並べられている所でした。
「にゅあっ。ロウ村長に先を越されたんだよっ」
「わっはっは!ヴァーンに情報を貰ったのだ!」
パン屋前には既にロウ村長が並んで待っています。そしてその隣にはオーウェンギルド長も一緒でした。仲良しになったので名前で呼び合っているようです。
「ぐにゅぅ。流石オーウェンギルド長なんだよ」
勝負なんてしていないのに負けた気分で列の後ろに並びます。勿論レオも一緒です。というより手を離してくれないので強制参加です。
「ようレオ。子守りも大変だな」
未だに三巳を子供扱いするオーウェンギルド長に、三巳はぷくぅと頬を膨らませます。
「三巳もう成神してるんだよ」
「その割には俺と然程変わんねぇな?獣神娘」
ドワーフの隔世遺伝で背の小さいオーウェンギルド長と並んでも然程差がありません。視線で物語られた三巳は更に頬を膨らませて尻尾をビシンと地面に叩きます。
その様子にレオは「やれやれ」と嘆息しました。
「三巳らしくって良いじゃねえか」
握られたままの手にきゅっと力を入れて三巳の目の前で振ると、三巳の頬袋は途端にプシュンと戻ります。レオに褒められて上機嫌です。
「おいおい、あんま甘やかすと碌なモンにならねぇぞ」
「曲がった道に進んだら手、引っ張ってやるさ。こうして繋がってるってる事だし、な」
繋がる手を上げてニッと笑い、肩を竦めるレオに、今度はオーウェンギルド長がやれやれと肩を上げる番でした。
「がっはっは!三巳は元気なのが良いと言う事だな!」
「うにゅ!三巳は何時だって元気なんだよ!」
三巳はロウ村長と揃って大口開けて笑い合います。
そんな世間話の間にもパンが並び終えた様です。ミクスがパンパンと手を叩きました。
「ほらほら。今日の新作は夏バテ予防に考案したサンドイッチだよ」
「ほう?何時もと形が違うな」
「パン生地が薄い?いや一枚のパンに切り込みを入れているのか?」
早速手にした新作パンに、ロウ村長とオーウェンギルド長が興味深そうにしています。
その様子を横目に三巳も新作パンを貰いました。それを見て三巳は目をパチクリします。だってそれはどう見たって
「ケバブなんだよ」
お祭りで良く見るものだったのです。いえ、思い返せば前世のお婆ちゃん時代には街中で普通にお店もあった気がします。三巳自身はそれ程馴染みが有りませんでしたが、姪っ子が良く食べていたのを味見させて貰ったものです。
「三巳はやっぱり物知りだね。長い事考えて作った新作だったけど、三巳は既に知っていたのかい」
「んーん。ケバブはそれ程は知らないんだよ。形と味だけ分かるけど」
「それだけ知ってたらもう知ってるだろ」
レオから突っ込みが入りましたが三巳は首を横に振ります。
「んーん。だって三巳はパンの種類も具材も知らないんだよ」
「なのに名前は知ってんのか」
「うにゅ。一口分けて貰ってたからな。でも何でこれ夏バテ予防なん?」
「スパイス利かせた肉と野菜を挟んでいるのさ。移住して来た人達が体調崩しがちだからね。パンなら食べやすいかと思ったんだけど、どうかねぇ」
「うむ。ワシも気にはなっていた。皆に声を掛けておこう」
「夏バテ、てか熱中症予防に水分も取らせとけよ。果物も結構良いらしいぜ」
暑さ厳しい国では予防はごく当たり前にされているらしいです。レオの助言にロウ村長もミクスもオーウェンギルド長も感心して熱心にお話を聞きます。
「レオかっちょいー」
その間三巳はレオの大人な男の格好良さに見惚れているのでした。
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