獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
355 / 368
本編

お帰りの時間です

しおりを挟む
 「レオ―――♪」

 真上の太陽が眩しいお昼時、地獄谷で三巳が大きく手を広げてレオをお出迎えしています。
 兎の女王の元でひとしきり遊んでから地獄谷に戻った三巳とロダでしたが、レオ達はまだ戻っていなかったのです。
 リリとロダとネルビーを残してミナミ達は先に村へ報告に行き、三巳達は地獄谷で夜を越しました。ダンジョンから出たのが深夜遅くになったので、起きたのもレオの気配を感じた今さっきなのです。

 「おっと、テンション高えな」

 レオの気配で起きれた三巳はハイテンションでレオにしがみ付いています。
 レオはそんな三巳を苦笑いで軽く受け止めて頭を撫でてくれます。

 「レオ!レオ!んにゅあー!レオー♪」

 尻尾をブンブカ振ってレオの匂いをお腹いっぱい吸い込んだ三巳に、レオは

 (犬みてえだな)

 と思い、

 (いや、狼か)

 と思い直しました。
 そんな三巳を微笑ましく視界に流し、ロダがロウ村長に近寄ります。

 「早かったね。まだ数日掛かるかと思った」
 「最短で来たからな。大凡の把握は出来たし、今度はソロで挑むぞ」

 ニヤリと笑うロウ村長にロダは、

 (あ。これ下手したら数日ですまないかも)

 と、ロウ村長不在時の代理仕事を今から算段付け始めます。
 取り敢えず今回は回収したチームだけでなく、お客さんなレオもいたので一泊で済んだのでしょう。という事は確実に次は長く掛かる事は決定事項だと、山の民一同思いました。

 「怪我した人はいるかしら」

 ロダの後ろからヒョッコリ顔を出したリリは、手に救急キットを持っています。

 「ホロホロも持って来たから大怪我してたら言ってね」
 「ありがたい!ちょっとヘマしちゃってさ、この通り全身ボロボロだぜ」

 ゾロゾロとダンジョンから出て来た一団の中から全身切り傷と打撲だらけのロンが手を上げました。血は然程出ていなそうですが、痛々しさにリリの顔が曇ります。直ぐにロンに近寄り、楽な姿勢になって貰いました。

 「何があったの?」

 ロダも気付いて確認します。危険度が高いなら村全域に注意喚起が必要だからです。

 「大丈夫、大丈夫。ホント唯の自業自得だから」
 「そうそう、ロンってば俺は風になる!とか言って自ら罠に飛び込んで行くんだもんな」
 「しかもそれをギリで避けようとするから色んな罠掠めてさ」

 次々に明かされる理由に、流石のリリも眉根を寄せました。

 「もっと自分を大事にして欲しいわ。ロンには奥さんもお子さんもいるのだから」
 「う゛っ」

 リリの指摘に周囲からも「そうだぞ」と言わんばかりの視線がロンに刺さります。
 それを受けてロンは胸を押さえて呻きました。

 「そうだな。悪かった。気を付ける」

 殊勝に謝るロンですが、ロンの為人を把握している山の民はジト目になります。どうやらロンの野次馬根性は信用が無さそうです。

 「良いわ。ロンの家族には私からよぉく伝えておきます」
 「えっ!?ちょっ、それは勘弁してー!」
 「だぁめ。ロンってば全然懲りないんだもの。一度みっちり泣かれれば良いんだわ」

 容赦の無いリリに狼狽えるロンを見て、山の民達は「ドッ」と笑い声を上げました。
 賑やかな笑い声にレオに夢中だった三巳も何だ何だと近寄ります。勿論レオから手は離しません。
 しっかり手を握られたレオも苦笑いで大人しく着いて来てくれます。
 そしてリリからロンの顛末を聞いた三巳はリリと同じ事を言い、また楽しい笑い声を地獄谷に響かせるのでした。

 報告と怪我の治療をし、落ち着いた面々は村に帰って来ました。
 帰って早々にロンは奥さんに耳を摘まれて家に連れ去られています。
 リリはムフンと伝えたった感満載で満足気に見送り、ロダと診療所へ帰って行きました。
 その他の山の民も一旦家に帰ります。
 ダンジョンの結果報告は集会で行われる事でしょう。

 「うにゅ。今日も楽しかったんだよ」

 楽しいは正義な三巳も大満足です。未だにレオから手を離さず迎えに来てくれたクロの元へ駆け寄りました。

 「ただいまー!父ちゃんお腹空いた!」

 クロの懐に飛び込みつつもレオの手は離さない三巳です。
 クロは

 (親愛だよね!?恋愛じゃないよね!?)

 と内心不安に思いつつも笑顔で三巳を抱き締めました。

 「おかえり三巳。それにレオも」

 自分も笑顔で迎えられてレオは一瞬瞠目し、直ぐに気の抜けた笑みで

 「ただいま」

 と返します。
 クロは片手で三巳を抱き締めたまま、レオの頭を撫でます。

 「お腹空いたろう。帰ったら直ぐ用意するからね」
 「やったー♪ご、は、ん♪ご、は、ん♪」
 「ふふふ。三巳は何が食べたい?」
 「んーとなー。んーとなー。今日はお月見団子の気分!海苔とみたらしで!」
 「じゃあ一品はそれにしようね。レオは食べたいものあるかい?」
 「は、俺?」
 「勿論。君も一緒に食べるのだから遠慮せず言っておくれ。大抵のものは作れるよ」
 「父ちゃんの作るごはん何でもうんまいんだよ!」

 三巳とクロに促され、まるで家族の一員になったかの様に錯覚したレオは、何ともむず痒い気持ちで

 「……肉」

 と言うのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...