獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
354 / 368
本編

遊園地の終わりに

しおりを挟む
 千里眼と神託を覚えた三巳は、一仕事終えて肩の荷を降ろしていました。

 「これでロン達はロウ村長が拾ってくれる」
 「そうだね。僕達も安心して戻れるよ」

 問題は帰り道です。千里眼で一本道なのは確認していますが、ワンダーな世界は一方通行だったので進むしかありませんでした。

 「三巳達は帰り道を楽しめば良い♪」
 「空飛ぶ馬車なんて、リリと乗りたかったけどね」

 そうです。三巳とロダは空飛ぶ馬車に乗って次のエリアに向かっているのです。
 馬車は綿菓子の様なふわふわの雲に乗って月目掛けて飛んでいます。その姿はまるでかぐや姫のラストシーンです。

 「うふー♪羽衣着た綺麗なお姉さんはいないけど、ウサニャんとジーニャんと乗れて楽しいんだよ!」

 ニコーと無邪気に笑えば、兎も魔女神も悪い気はしません。お兄さんお姉さんな気分で和みます。
 因みに宰相は留守番です。代わりにロダがティーポットを持っています。

 「三巳も持ちたかったなー」
 「絶対に嫌じゃ」

 魔女神としては、三巳の破天荒な動きで割れ物を持たれたくありません。断固拒否の姿勢でロダに一任していました。

 「うわー!月!近い!凄い!顔があるー!」

 目の前いっぱいに広がる月は満月です。そしてニッコリ笑顔の顔がありました。

 「やあ、ようこそ月の世界へ」
 「!喋った!」

 そして会話が出来ました。
 空飛ぶ馬車というアトラクションに乗って月と会話するなんて夢のようです。三巳の尻尾は興奮ではち切れました。

 「わっぷ!やめんか!」
 「これだから犬科はー!」
 「落ち着いて三巳!」

 狭い馬車の中で三巳の大きな尻尾がはち切れれば、そりゃ周囲なんて埋もれるに決まっています。モフモフで気持ち良いのがせめてもの救いでしょう。

 「こんばんは!三巳、月の世界で遊びたいんだよ!」

 馬車から身を乗り出して元気よく言うと、月は大きな口を開けて笑います。

 「わっはっは!存分に楽しんでおいで!」
 「きゃ―――♪」

 笑う月に誘われて、喜びの声を上げる三巳の馬車は月へと吸い込まれて行きました。

 (あんなに良く笑う月の上って、地震大丈夫かな)

 ロダだけは冷静に分析しましたが要らぬ心配でした。降り立った月の上は全く揺れていません。それどころか顔っぽさが何処にも無くなっています。

 「おおっ、明るい」

 足元は月らしいゴツゴツとしたものでしたが、とても明るく輝いています。お陰で街灯なしでも昼の様に周囲が良く見えています。
 キョロキョロと見渡した三巳は、兎に振り返りました。

 「連れてきてくれてありがとーな。兎の女王には挨拶行った方が良いのか?」
 「どっちでも良いさ。このまま付いて来ても良いし、それは次回のお楽しみにして出口に行っても良い。って言っても出口があるのは城の迷宮ガーデンの何処かなんだけどな」

 つまり必ず立ち寄る必要が有りそうです。

 「んー。勝手に入って良いのか?」

 一応社会神としてマナーを気にしますが、兎は片耳をピョコンと立てて首を傾げました。

 「?大抵勝手に入って勝手に出てくもんだろ?」

 ダンジョンは確かにそういうものかもしれません。ロウ村長なら気にしなかったかもしれません。
 けれども三巳もロダもダンジョン初心者です。村でも流石に他所の家で好き勝手はしません。キチンと声は掛けています。
 三巳とロダは顔を合わせてお互いの認識を確認しました。

 「まあ。良いなら良いか」

 そして深く考えない三巳が頷きます。
 ロダとしても三巳が良いなら良いのでどうするのか相談します。

 「魔女神様は兎の女王様に呼ばれて来たんだよね。なら僕達は邪魔しない方が良いんじゃない?」

 ロダが最もな意見を述べると、三巳は「うぐ」と喉を詰まらせ目を泳がせました。だってワンダーな兎と女王とくれば見てみたいものがあります。

 (カードの人……)

 モワモワと頭に浮かぶのは楽しそうに遊ぶ黒と赤のトランプな体の人達です。そこに自分も登場させれば絶対に楽しいに違いないと思い、煮え切らなくなったのです。
 けれども先にアポを取った人を押し除けるのはマナーに反するでしょう。

 「そいじゃあ、三巳は先にお土産物色するんだよ」

 だから渋々不参加を決めました。

 「そうかい?」

 一番参加しそうな三巳が辞退したので兎は不思議そうです。

 「それじゃこれ渡しておくよ。出口の鍵になってるから帰る時に使って。使い終わったら出口の取手に掛けといてくれれば良いさ」

 そう言って兎が渡してくれたのは、兎がずっと首に掛けていた魔法陣でした。実は兎と海の世界や魔女神の世界に行けていたのは魔法陣のお陰だったのです。
 つまり初めに兎を捕まえられないと次に進めなかった訳です。
 その事に気付いたロダは念の為に日記に書いておこうと決意します。その日記は後に攻略本の先駆けとなるのですが、ロダは知りもせず、リリに楽しい話をする事で頭がいっぱいになるのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...