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本編
海と魔女と魔法の薬
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「お邪魔します」
綺麗な珊瑚の海の中、煙をモクモクと上げる岩の中へソロソロと入って行くロダがいます。腕の中にはピスピス悲しそうに鼻を鳴らす仔狼な三巳を抱えています。
「おやまあ、こりゃ珍しい。人の子とは」
中へ入ると女性の声が聞こえてきました。
声のした方を見ると、そこには蛇な足でトグロを巻いたふくよかな女性がいます。ちょっぴしお化粧がケバい……いえ、独創的な顔立ちで、ロダは思わず止まってしまいます。
けれどもロダは止まれませんでした。
「そんな所にいないで寄っといで」
女性の手招き一つでいとも簡単に側へと引き寄せられてしまったのです。あまりの早技に海中に不慣れなロダは成す全てがありませんでした。
「あの……」
警戒心から臨戦態勢に移れる準備だけしたロダです。
けれども女性はそれを鼻で笑って気にも留めません。
「魔女に警戒したって無駄さ。それより何か用事があるんだろ」
魔女はニタリと笑い、姿も相まっておどろおどろしい雰囲気を醸し出します。
緊張感が高まる中、ロダの腕の中の三巳だけは目をキラキラさせていました。
「わふぅ……」
絵本で見た様な魔女に感動していたのです。
尻尾をパシシシッと振る姿に魔女も気付きました。
「おやまあ!獣神とはねえ!長生きはするもんだ!」
大仰に驚く魔女ですが、ダンジョンは出来たばかりです。実は魔女は長くても生まれて数ヶ月だという不粋なツッコミは、三巳もロダもしませんでした。
「わふ」
「おかしな薬を飲んだね。覚えのある薬だよ」
「わふう?」
「そうさ、この大魔女が作ったのさ」
「わふう!」
「ヒッヒッヒ!獣神に褒めそやされるなんて気分が良いね!どおれ礼に好きな薬を選ぶと良い」
言うなり魔女は指振り一つで海中に薬瓶を数本出しました。
海中に浮かぶのは、
血の様な赤色で、金色の粒々が浮かぶ物。
海の底よりなお深い青色で、白いふわふわした物が浮かぶ物。
黄昏時の満月よりもなお鮮やかな黄色で、緑色のトゲトゲした物が浮かぶ物。
三つの瓶がおどろおどろしい煙を纏って信号機の様に並んでいます。
三巳はその魔女っぽさに大興奮です。
(海で人魚で魔女とくればきっと足生えるやつ!)
前のめりで鼻息が荒くなる三巳に、魔女はヒッヒッヒと上機嫌にニッコリ笑いました。
「さあ、好きなのをお選び」
言われて三巳は考えます。
(海の魔女のは声無くなって、それから確か……)
そこまで考えて「ハッ」としました。
「わふぅ!?わんわんわんわん!」
(泡になって消えちゃう!)
さしもの三巳も泡になって消えたくは有りません。泡のまま存在出来るなら楽しそうですが、消えたらもう楽しいは味わえないのです。
「おやまあ良く知ってるねえ。そうさ、あたしゃ悪ぅい魔女さ。だから瓶は慎重に選ぶんだね」
悪そうな顔で口角を上げる魔女に、ロダは冷静におもいました。
(本当に悪い人って、自分の事悪者って言うかな?)
つまりロダは魔女を良い人かもと思ったのです。
(服のセンスがリリ好みなのも悪者っぽくないよね)
ロダが今着ている服は魔女の薬によって変わった物です。つまり魔女の趣味です。
ロダは口に両前脚を当てて「きゃわわん」と慄く三巳に、何も言わずに頭を撫でて見守る事にしました。
魔女はそんなロダに気付いてウィンクします。
ロダもそんな魔女にニコッと笑みを返しました。
「きゅぅぅん。きゅぅぅん」
三巳は瓶を矯めつ眇めつ見比べます。
好みは大きな満月を連想させる黄色の瓶です。けれども中に浮かぶトゲトゲが頂けません。
次点で青色です。丁度今いる場所も海だし、深い海の色は藍色の方がそれっぽいのに、何故か真っ青なこの色を海色だと認識出来るのが面白いです。
そして赤色は血を連想するのが怖いので即決で無しです。
「きゃわん!」
と言う事でロダの腕からスポンと抜け出した三巳は、青色の瓶を両前脚でキャッチしました。
「きゅっきゅ、きゅっきゅ」
ロダに蓋を外して貰って一気飲みです。
するとどうでしょう。三巳の体から青と白の煙がモクモクと出てくるではありませんか。
煙は三巳を起点にグルグルと渦を巻いてスッポリ包んでしまいます。
「きゅわー♪」
三巳の楽し気な声が聞こえてなければとっても心配になっていた事でしょう。
そのまま少しだけ待つと煙はシュルシュルと消えていきました。そして煙が晴れれば中からは仔狼では無くなった三巳が出て来たのです。
「やっと言葉出るー♪」
そうです。三巳はちゃんと何時もの娘姿の三巳に戻っていたのです。
「三巳人魚になってる!」
上半身だけでしたが。下半身は魚に大変身です。
「え?大丈夫なの?それ」
「へいちゃらなんだよ」
「獣神だからかね。鯉でもちゃんと上手に泳げているじゃないかい」
三巳は淡水魚の筈の錦鯉の人魚になったのでした。
綺麗な珊瑚の海の中、煙をモクモクと上げる岩の中へソロソロと入って行くロダがいます。腕の中にはピスピス悲しそうに鼻を鳴らす仔狼な三巳を抱えています。
「おやまあ、こりゃ珍しい。人の子とは」
中へ入ると女性の声が聞こえてきました。
声のした方を見ると、そこには蛇な足でトグロを巻いたふくよかな女性がいます。ちょっぴしお化粧がケバい……いえ、独創的な顔立ちで、ロダは思わず止まってしまいます。
けれどもロダは止まれませんでした。
「そんな所にいないで寄っといで」
女性の手招き一つでいとも簡単に側へと引き寄せられてしまったのです。あまりの早技に海中に不慣れなロダは成す全てがありませんでした。
「あの……」
警戒心から臨戦態勢に移れる準備だけしたロダです。
けれども女性はそれを鼻で笑って気にも留めません。
「魔女に警戒したって無駄さ。それより何か用事があるんだろ」
魔女はニタリと笑い、姿も相まっておどろおどろしい雰囲気を醸し出します。
緊張感が高まる中、ロダの腕の中の三巳だけは目をキラキラさせていました。
「わふぅ……」
絵本で見た様な魔女に感動していたのです。
尻尾をパシシシッと振る姿に魔女も気付きました。
「おやまあ!獣神とはねえ!長生きはするもんだ!」
大仰に驚く魔女ですが、ダンジョンは出来たばかりです。実は魔女は長くても生まれて数ヶ月だという不粋なツッコミは、三巳もロダもしませんでした。
「わふ」
「おかしな薬を飲んだね。覚えのある薬だよ」
「わふう?」
「そうさ、この大魔女が作ったのさ」
「わふう!」
「ヒッヒッヒ!獣神に褒めそやされるなんて気分が良いね!どおれ礼に好きな薬を選ぶと良い」
言うなり魔女は指振り一つで海中に薬瓶を数本出しました。
海中に浮かぶのは、
血の様な赤色で、金色の粒々が浮かぶ物。
海の底よりなお深い青色で、白いふわふわした物が浮かぶ物。
黄昏時の満月よりもなお鮮やかな黄色で、緑色のトゲトゲした物が浮かぶ物。
三つの瓶がおどろおどろしい煙を纏って信号機の様に並んでいます。
三巳はその魔女っぽさに大興奮です。
(海で人魚で魔女とくればきっと足生えるやつ!)
前のめりで鼻息が荒くなる三巳に、魔女はヒッヒッヒと上機嫌にニッコリ笑いました。
「さあ、好きなのをお選び」
言われて三巳は考えます。
(海の魔女のは声無くなって、それから確か……)
そこまで考えて「ハッ」としました。
「わふぅ!?わんわんわんわん!」
(泡になって消えちゃう!)
さしもの三巳も泡になって消えたくは有りません。泡のまま存在出来るなら楽しそうですが、消えたらもう楽しいは味わえないのです。
「おやまあ良く知ってるねえ。そうさ、あたしゃ悪ぅい魔女さ。だから瓶は慎重に選ぶんだね」
悪そうな顔で口角を上げる魔女に、ロダは冷静におもいました。
(本当に悪い人って、自分の事悪者って言うかな?)
つまりロダは魔女を良い人かもと思ったのです。
(服のセンスがリリ好みなのも悪者っぽくないよね)
ロダが今着ている服は魔女の薬によって変わった物です。つまり魔女の趣味です。
ロダは口に両前脚を当てて「きゃわわん」と慄く三巳に、何も言わずに頭を撫でて見守る事にしました。
魔女はそんなロダに気付いてウィンクします。
ロダもそんな魔女にニコッと笑みを返しました。
「きゅぅぅん。きゅぅぅん」
三巳は瓶を矯めつ眇めつ見比べます。
好みは大きな満月を連想させる黄色の瓶です。けれども中に浮かぶトゲトゲが頂けません。
次点で青色です。丁度今いる場所も海だし、深い海の色は藍色の方がそれっぽいのに、何故か真っ青なこの色を海色だと認識出来るのが面白いです。
そして赤色は血を連想するのが怖いので即決で無しです。
「きゃわん!」
と言う事でロダの腕からスポンと抜け出した三巳は、青色の瓶を両前脚でキャッチしました。
「きゅっきゅ、きゅっきゅ」
ロダに蓋を外して貰って一気飲みです。
するとどうでしょう。三巳の体から青と白の煙がモクモクと出てくるではありませんか。
煙は三巳を起点にグルグルと渦を巻いてスッポリ包んでしまいます。
「きゅわー♪」
三巳の楽し気な声が聞こえてなければとっても心配になっていた事でしょう。
そのまま少しだけ待つと煙はシュルシュルと消えていきました。そして煙が晴れれば中からは仔狼では無くなった三巳が出て来たのです。
「やっと言葉出るー♪」
そうです。三巳はちゃんと何時もの娘姿の三巳に戻っていたのです。
「三巳人魚になってる!」
上半身だけでしたが。下半身は魚に大変身です。
「え?大丈夫なの?それ」
「へいちゃらなんだよ」
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