獣神娘と山の民

蒼穹月

文字の大きさ
上 下
344 / 368
本編

真ん中はパレードとかで楽しいテーマパークなんだよ?

しおりを挟む
 三巳達はダンジョンの真ん中の道を歩いています。
 今回は残ったチームの捜索がメインなので隠し通路も念入りに調べています。

 「うーにゅ。メルヘン」
 「来た時とは全く様相が違うなぁ」

 テクテク歩く道は、2色に色違いの真っ平で四角い石畳が隙間なく敷き詰められています。三巳が歩けばペタペタ、ロダが歩けばトコトコ音がします。
 そして壁は動物をモチーフにした彫像が並び、天井は光苔がビッシリと生い茂っていました。言われなければ此処がダンジョンだとは誰も思わないことでしょう。

 「ガーゴイルじゃないよね」
 「がーごいる?」

 ロダの警戒した呟きに、三巳はキョトンとします。神族としての本能がそれが何か知っている気がしますが、三巳本人にはそれがわかりません。

 「動く彫像、かな。攻撃性が高くて、知能も無く、その場所を守る為だけに存在してるってロウ村長が言ってたけど」

 勿論山にはガーゴイルはいません。ダンジョンどころか遺跡すら今まで無かったのです。
 ロダの知識は口伝で伝えられたものや、ロウ村長の冒険譚、それに最近はリファラやウィンブルドンから教わったものだけです。ガーゴイルの学術的知識はあっても経験は皆無なのです。

 「最難関じゃないし、可愛いし、三巳のこあいのレーダーにも引っかからないし、多分大丈夫なんだよ。もし動いてもきっと楽しいやつ」

 三巳の言った通り、ロダの心配を他所に特に危ない事も無く別れ道に来ました。

 「左の道は登ってる」
 「こっちは下っているよ」

 其々別の道を観察して報告し合うと、一旦小休止をしながらどちらに行くか相談です。

 「あれからこっちの道は変化をしてないし、順番に見て行かない?」
 「にゅーむ。確かにこっちは変化しないなー。変化しちゃうと難易度上がっちゃうからかな」
 「うん。かもしれないね」

 という訳で一応まだ変化には警戒しつつも、迷路の法則に従って左手周りで全て見る事にしました。
 左の道に進むと緩やかにカーブを描いて、徐々に壁も天井も丸みを帯びて床を除いて一つの円になりました。

 「?地味になった?」

 三巳がつまらなそうに口を尖らせた時です。

 カチリ。

 足元で何かを踏んだ感触と音がしました。
 三巳は直ぐに耳をピンと立てて身構えます。そして先ずは壁だとばかりに左右に素早く視線を移し、何も無いと判断するや耳を側立てます。

 ……ゴ……ロ……ゴロ……。

 すると遠くから微かに音が聞こえました。
 その音に喜色満面の笑みになった三巳は、全身の毛という毛を歓喜に膨らみ震わせ両足に力を込めます。
 果たして音は徐々に大きくなり、また地面も振動を感じる様になって来ました。
 その様子をロダは魔法の準備だけ済ませて見守ります。三巳には何も起きないとわかっていますが、だからと言って何もせずにはいられないのです。

 ゴロゴロゴロッ。

 ほんの少しの時間で音は間近に聞こえました。そして一際大きく振動を感じた次の瞬間、

 ゴロロロロロロ!

 カーブで見えなかった死角から、大きな大きな丸岩が大きな音を立てて転がって来ました。

 「たま――――♪」

 待ち望んだ大好きな玉に、けれども先の失敗を活かしてその場に足を縫い付けます。

 ドビタ―――ン!!

 玉は両手を大きく広げた三巳に大激突しました。
 大きな衝突音にロダは思わず魔法を放ちそうになって、寸でで止まります。ちょっぴしビクッとしたのはリリには内緒の所存です。格好悪い所は見せたく無いですものね。

 「……大丈夫?」

 丸岩に張り付いて、共々に微動だにしなくなった三巳にロダがそっと声を掛けます。
 三巳はその声に耳をピピクッと動かして、

 「にゅふ♪にゅほほほほ♪」

 とっても愉快な笑い声を上げます。
 めり込んだ丸岩から顔を放して丸岩を見上げると、ニマーッと口端が大きく弧を描きました。

 「丸岩捕まーえた!」
 「うん。良かったね」
 「うにゅ!にゅふふー♪持って帰って父ちゃんに見ーせよっと」

 言うが早いか三巳はサッと尻尾を前に出して大きな大きな丸岩を収納しちゃいました。

 「今は良いの?」
 「うぬ。今は皆を探すののが大事だからな。三巳ちゃんと我慢できるんだよ」
 「はははっ、そっか。なら早く見つけて早く帰ろう」
 「うにゅ!」

 嬉しそうにブンブカ尻尾を振りまくる三巳に、何だかダンジョンも満足そうにしているのでした。
しおりを挟む
感想 118

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです

かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。 強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。 これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

前世を思い出しました。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

棚から現ナマ
恋愛
前世を思い出したフィオナは、今までの自分の所業に、恥ずかしすぎて身もだえてしまう。自分は痛い女だったのだ。いままでの黒歴史から目を背けたい。黒歴史を思い出したくない。黒歴史関係の人々と接触したくない。 これからは、まっとうに地味に生きていきたいの。 それなのに、王子様や公爵令嬢、王子の側近と今まで迷惑をかけてきた人たちが向こうからやって来る。何でぇ?ほっといて下さい。お願いします。恥ずかしすぎて、死んでしまいそうです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...